この人の声を伝えたい!

第3回 一緒にヒマラヤを見よう。
- 古賀
- 吉本隆明さんだったり、あるいは矢沢永吉さんだったり、
糸井さんの中でのヒーローみたいな人達がいて、
その出版のお手伝いを、糸井さんされてきましたよね。
- 糸井
- ああそうですね。
- 古賀
- その時の糸井さんの気持ちっていうのは、
俺が前に出るというよりも、
やっぱり「この人の言葉を聞いてくれ」
みたいな感じなんですよね。
- 糸井
- 僕は、とっても驚いたよとか、
僕はとってもいいなと思ったよとか、間接話法で
僕の本になるんですよね。
だから自分を前に出す必要は全くない。
美味しいリンゴ売ってる八百屋はいい八百屋で、
そういう八百屋から買ってくれる人がいたら、
またいいリンゴが売れる。
「リンゴが買ってもらえないから
作るのやめようと思うんだよね」っていう人に、
「僕が売るから、ちょっと作ってよ」って(笑)
- 古賀
- (笑)そうですね、うんうん。
- 糸井
- 具体的に、ほぼ日で売っている海苔はそうですね。
- 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
- 古賀さんそういえば、そういう仕事してますね。
- 古賀
- そうですね、はい。
今は、いろんな出版社さんにも知り合いがいますし、
やりたいと言ったらやりたい企画ができるような状態には
なったんですけど、
10年前は、やっぱり、自分がやりたいと言っても
なかなか実現しなかったり、
向こうからやってというお仕事だけしか
できない時期というのは結構長くて。
糸井さんが、例えば『成りあがり』とか、
ああいうものでやったことが、
たぶん今『ほぼ日』の中で毎日のように
できているんじゃないのかなと思うんですよね。
こんな面白い人がいるから、ちょっと対談して、
この人を紹介したいなとか、
あとはTOBICHIで、こんな人がいるからと言って、
その人の展覧会を開いて、そういう…
- 糸井
- 場所作り。
- 古賀
- 場所を作って、その人達を紹介していく…、
僕が今やりたいことと、すごく重なる部分があって。
『ほぼ日』の中で、もちろん「今日のダーリン」という
大きなコンテンツはあるんですけど、
糸井さんが、「俺が俺が」って前に出てる場所ではない。
それよりも、
こんな面白い人がいてねっていう場所になってて。
その姿勢というのは、
『成りあがり』の頃から一貫してるのかなという。
- 糸井
- 「あなたには目立ちたいってことはないんですか?」
って聞かれたら、
「ものすごくありますよ」って言うんじゃないですかね。
ただそれはどういう種類のものかと言うと、
「いや、要らないかも」(笑)っていう。
浅いところでは目立ちたがりですよ、僕、たぶん。
でも、ちょっとだけで、急にどうでもよくなりますね。
- 古賀
- それは、それこそ30ぐらいの時に、目立って
痛い目に遭ったりした経験があるから…
- 糸井
- じゃないですね。
- 古賀
- からではなく。
- 糸井
- じゃないです。
たかがっていうの、ものすごく見えた感じがする。
一番目立ちたがりだったの高校生の時じゃないですか。
- 古賀
- はいはい(笑)
- 糸井
- たぶん性欲の代わりに表現力が出るみたいな。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- その時期っていうのは、何をしてでも目立ちたいわけで。
「みんな俺をもっと見ないかな」って、
言葉にすればそういうことを、服装にしてみたり(笑)。
それは動物の毛皮の色みたいなもので、自然ですよね。
やがて、やっぱり嬉しいのは何かっていったら、
近くにいる人にモテちゃうことの方が嬉しいんですよね。
だから彼女がいるのが一番理想ですよね、若い時の。
- 古賀
- (笑)
- 糸井
- それさえあれば俺は何も要らないみたいな。
恋愛至上主義に近いんですよ、若い時って。
そこに突っ込んでいきたかったんですよね。
それとネタ自体を天秤にかけたら、女ですよ、圧倒的に。
- 古賀
- それわかります。
- 糸井
- 僕みたいな加減で目立ちたがったり、
目立ちたがらなかったりしてるという例が、
古賀さんの世代の人によく見えるっていうことは、気づいてますよ。
そんなにガツガツ目立とうとしなくても、
1つの面白い世界はやれるんだなっていうのは、
若い人達が僕を見てた時に、
ああ、あれいいなって思う理由の1つですよね。
そこは、なんかいいな、そういう表現ですよね。
消えたんじゃなくて、そのくらいの方が楽しいんだよ。
いずれみんなわかっちゃうんじゃないですかね。
まだ足んないんだよって僕、あんま思わないんですよ。
大体足りたって思うんです。

- 古賀
- はいはいはい。
でも遠くの5万人とか50万人にモテてる俺っていうのを
喜ぶ人も確実にいますよね。
- 糸井
- それはものすごく面白いゲームだし、
僕なんかの中にそれはなくはないんだけど、
何人読んでくれてるって。
まさしく100万人。
それは「ええー?」っていう嬉しさがあるじゃないですか。
ヒマラヤとか、ああいうのが見える場所に
立ったことあります?
- 古賀
- いや、ないです。
- 糸井
- ないですか。
たまたま立ったりした時に、「大きいなー」って思う(笑)
- 古賀
- (笑)ナイアガラの滝で感じました(笑)
- 糸井
- いいですよね。
- 古賀
- いいです、いいです、うん。
- 糸井
- 「来て良かったなー」って思うじゃないですか。
- 古賀
- 思います、思います、はい。
- 糸井
- 「もしナイアガラの方に行くんだったら、
近く通るんだったら絶対行った方がいいよ」と
周りに言いたくなる、あれですよね。
- 古賀
- はああ。
- 糸井
- だから、僕は、ピラミッドは結構勧めてますもん。
でも、実は仕事でそんなもの見てないんですよ。
僕が100万部なんてもう絶対ないし。
だから何が大きい数字かっていうのは宿題ですね。
エベレストの麓で、
「やあ登れないけど、これかあ」って思うみたいな。
「どうだ俺はすごいだろう」じゃなくて、ヒマラヤですよ。
ヒマラヤは、一人でなくてその仲間も見られるのがいいよね。
古賀さんが、「お金なんかないですよ」って子に
「ちょっと今儲かったから連れて行ってあげます」って、
ヒマラヤが見えるとこに一緒に立って「なあ」って言うと、
その子が「ほんとだあ」って言う。
その「ほんとだ」が、自分以上に嬉しいですよね。
この間あったじゃない、それ。
- 古賀
- はいはい(笑)はい。うちの会社の子が、
10万部いって、それはうれしかったでね。
- 糸井
- ヒットしたんだよね。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- あれですよ。
- 古賀
- そうですね、あれは気持ちいいですね。
自分のこと以上に。

- 糸井
- それは嬉しいと思いますよ。
人が喜んでくれることこそが自分の嬉しいことですって
綺麗事として言葉にすると、なかなか通じないんだけど。
例えばお母さんが子供に、お母さんは食べないで、
イチゴを食べさせるみたいな。
あれも全く同じだし。そういう経験をすればするほど、
人の喜ぶことを考えつきやすくなりますよね。
- 古賀
- 僕、今回、自分でこういう言い方あれなんですけど、
ミリオンセラーというのを初めて経験して、
1つわかったことというのは、
みんな全然知らないんですよ、
『嫌われる勇気』っていう本のこととか…
- 糸井
- とかね(笑)
- 古賀
- ミリオンセラーって、やってみる前は、
あまねく人達の所に届くもので…
- 糸井
- 大騒ぎしてるから。
- 古賀
- そういうものって思ってたんですけど、
みんな全然知らないし、誰にも届いてないなって。
もちろん100万人という数はすごいんですけど。
- 糸井
- うん。
- 古賀
- 糸井さんの中で、ヒットとはこういうものだというのは、
ご自身の中にあるんですか。
- 糸井
- 『ほぼ日』を始めてからは、
もうヒット多様性になりましたね。
- 古賀
- ヒット多様性。
- 糸井
- 生物多様性みたいに。
これもヒット、あれもヒットになりました。
だからゲームボードがいっぱいあって、
そのゲームボードの上で、これはヒット、
こっちではせいぜい黒字っていう程度だけでヒット、
こっちでは結構売れたけどヒットとは言いにくいな、
みたいにルールをいっぱい持つようになりましたね。
- 古賀
- それはコンテンツ毎に、これのヒットは
このぐらいの基準でというのが何となくあって?
- 糸井
- 全てがコンテンツですということを言い始めて、
例えば、前の事務所からここの事務所への引越も
ヒットでしたねと。
それは金銭的に言ったらマイナスになってますよね。
だけど、これヒットなんですよ。
何がヒットかっていうのも説明できるわけですよね。
そういう、みんなが既に持ってる価値観じゃないところに
自分の価値観を増やしていくというのが、
たぶん僕は『ほぼ日』以後するようになったんでしょうね。
- 古賀
- なるほど。
- 糸井
- やっぱり喜んだ話が聞こえてくるというのが、
でかいですよね。
僕は、最近、主役は自分じゃないんだけど、
自分が苗を植えたみたいな仕事、
増えてるんですね。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- そうすると、
その実った米やら果物やらを食べて喜ぶ人がいる、
その循環そのものを作るようになって、
面白さが、飽きない面白さになったんですよ。
- 古賀
- それは最初から、
その喜びを得ようと思ってやったことじゃないですよね。
- 糸井
- 大元はね。
- 古賀
- 大元は。
- 糸井
- 解決したい問題があるからやる形はとってるけど、
でも問題がなくても、やりたいんじゃないかな。
もし僕が年老いた時計職人で、近所の中学生がさ、
「時計壊れちゃったんだ」って時、
「おじさんはね、昔時計職人だったんだよ、貸してごらん」
みたいな、そんなことのような気がする。
「どうだ」って、1回だけ言わしてみたいな(笑)
- 古賀
- (笑)そうですね、はい、わかります。
- 糸井
- もうそれで十分だから。「お礼に…」なんてこと、
「あ、もうそれは要らない」みたいな(笑)。
その1回どうだって言いいたい感は、
ちょっと年取っても残るね。
- 古賀
- そうですね。
特にライターだと、編集者っていうのがいるんで、
まずはこいつをビックリさせたい
というのがあるんですよね。
全然期待されていなかったはずの原稿に
120点で返した時の、どうだという、
そういう喜びはありますね。
- 糸井
- 何でしょうね。
あとは単純に、昔からよく言ってる、お通夜の席でね、
みんなが楽しそうに集まってるという。
もう本人がいないんだから集まらなくてもいいのに、
あの人の周りには楽しい人がいるから、
あの人が死んだ時に集まる人は楽しい人だって思われたら、
どのぐらい僕が楽しかったかわかるじゃないですか。
- 古賀
- そうですね、うん。
- 糸井
- そこは、ずっと思ってることですね。
家族だけで小さくやりますっていうお葬式あるじゃない。
これはこれでいいと思う。
俺は、それはそれであると思うんだけど、
誰がいてもいいよってお葬式を、望んでるんですよね。
それにかこつけて遊んで欲しいというか。
最後まで触媒でありたいというか(笑)
- 古賀
- お通夜とかお葬式って、もう俺はいないし、
俺は主役じゃないけど君達楽しんでくれ。
- 糸井
- そうです。
その未来に向かって、今日を生きてるんですよ、たぶん。
それはなんか、いいものですよ、なかなか(笑)。
僕は、ちょっと自信があるな。
みんなが遊びに集まってくれる。
- 古賀
- なるほど(笑)
- 糸井
- まあ、古賀さんもここまで、僕の年までの間が
ものすごい長いですから、いっぱい面白いことありますよ。
- 古賀
- 楽しみです。
- 糸井
- 楽しみだと思うんですよ。
そう楽しみにされるようなおじさんでいたいですよね。