最終回 大企業志向の学生をどう思いますか。

塚越さんと糸井重里の公開対談、
最終回は、ちょっと視点のちがう質問をめぐっての
ふたりの話をお届けします。
質問者は、ある大学の学部長をつとめるかたで、
就職指導の立場にある男性です。
就職活動をする学生と、
人材を募集している企業のあいだに
どんな現実があるのでしょうか。
質問者8
「私立大学で教員をしています。
 今日お二人の話と、わたしが身近に接している
 就職活動してる学生との間に、
 非常に大きなギャップがあるように思いまして
 それをどう埋めたらいいかということを
 聞かせて欲しいと思います。
 バブル時代から
 大学の教員をやってるもんですから、
 バブルのいいときから、その後まで、
 学生たちを全部見てるんですけど、
 バブルの教訓の学び方というのは、
 学生が極端な大企業志向になってるんですね、今。
 とにかく一部上場の有名な企業だったら
 どこでもいいと。
 仕事はおもしろくないものなんだと。
 で、就職活動してみても、実際に人事担当の人が、
 生き生きしてるようには思えないけども、
 三井とか、三菱だからいいんだと。
 福利厚生で就職活動してますと、
 平気で言うんですね。
 それと今日のお二人の話では、
 お二人の会社に勤めれば、
 クリエイティブでたのしくて、
 毎日が充実していて、残業手当とか何も考えずに
 ずっと仕事していられるように思えるんです。
 だけども、そういう会社は本当に例外的で、
 よく学生から、
 「すごく有名な企業と、そうじゃない企業、
  両方内定をもらいました。
  どっちに行ったらいいですか」
 って聞かれたときに、わたしは今まで必ず、
 無名な方に行けと言ってたんですが、
 その後の結果を見ると言ってよかったのかどうか、
 後悔する部分がないではないんですね。
 ですから、今日のお話のような、
 仕事、働き方というのができる、そういうことを
 提供してくれる企業があるというのか、
 それとも、自分の気持ちの持っていきかたというか、
 仕事への取り組み方で、そういうふうになれるのか、
 その辺は、今の学生にとって、
 すごく重要なんじゃないかなと思うんです。
 変に割り切っていて、仕事というのは大変で、
 満員電車に揺られて、
 家族が寝てるころに帰ってくる。
 それが当たり前なんだって、いうふうに
 達観していて、その代わり有名企業で、
 いい給料をもらいたいなというのが、
 本当に寂しいなと思っているので、
 お二人のような気持ちになれたり、
 あるいは、どういう会社であれ、
 そういう気持ちになれることがあるのかなと思って、
 質問させていただきました。」
糸井
これは、ぼく前からよく考える話なんですよ。
現実はこうだっていうのを聞くと、
相当ひらきがあるぞと、
言われるだろうなといういのを覚悟して
この就職論という連載を始めたんですね。
わかるよって言い方できるんですけど、
まず前提として、結構重要なことで、
大企業の数って、そう、ないんですよね。
で、入れるかもしれない人が
そういうこと言ってるんですよ。
ほとんど入れないんです。
入りたいとか、
入れないというレベルで言うと、
入れるかもしれない人が、
ちょうど蜘蛛の糸につかまるみたいに
争ってるわけで、ほとんどが中小企業に
吸い込まれていくんですよ。
労働人口って。
そこを前提にして
話を進めた方がいいだろうなって、
ぼくは思ったので、
ぼくらの考える就職論については、
ある意味では、もう切っちゃったんですね。
それって、東大入りたいんですけど、
難しいですよねって話と同じだよ、
ってくらいにしないと、
おもしろくないような気がしたんですよ。
人事のことをよく知ってる方と会うと、
いっぱい、いい企業があるんですよ
って言います。
学生の方がそれに気づけてないんですよ。
そして、そこに入って、
可能性があるということを
引き合わせられるような仕組みも
なかなかないんですよ。
それが今すれ違ってるのが現実なんです。
塚越
糸井さんはコンセプトを新しく作る、
あるいは、リセットボタンを作って
新しい発想をさせるのが
得意だと思うんですけど、
就職について何がいいんだと、
今、大企業に入るとかそういうのがいいと、
いうふうになると、実はそうじゃない人たちを
不幸にするコンセプトですよね。
そこを変えるということができれば‥‥
糸井
先生は、結構怒ってるんですか、
学生に。
質問者8
「わたし自身は企業の名前に係わらず、
 一緒にたのしく働けるような人が
 面接官でいたら、
 大丈夫だよって言い方をしていますし、
 大企業と言ったって、
 給料が破格にもらえるならともかく、
 そんなに大したことないんだから、
 だったらやりがいのある仕事の方が
 いいんじゃないの、
 っていうふうに言うんですね。
 しかし一部上場企業に一人でも多く入れたい、
 就職率を上げたいという
 大学からの意向があります。
 その際に、質を見てくださいと。
 どれだけ、学生が自分の人生を
 充実させるようなところに就職できてるか、
 そういう観点での就職率をみてくださいと
 いうふうに、言うんですけど
 ──無理だという話で。」
塚越
先生自体が矛盾を抱えてるわけですよね。
糸井
今きっと、そういう人、
ものすごく多いんでしょうね。
‥‥損得で考えたことが裏切られたら、
えらいことなりますよね。
塚越
確かに、子供はお父さんとか、お母さんに
いろんなこと言われて育ってるわけでしょ。
お金だとか大きい会社だとか、
それがいいことだって育ってきたとしたら、
そこは辛いですよね。
けれどそうじゃない、
自分はこっちがやりたいといったときには、
葛藤が起きるわけですよね。
ぼくらは無責任になってるかもしれないけど、
がんばって欲しいですよね。
そこがこれからの、
日本を変えていく元になりますから。
糸井
そういえば、
あの先生こういうこと言ってたな
っていうのが、
思い出されるかもしれないですね。
塚越
親はこう言ってたけども、
先生はこう言ってたなみたいなね。
今って、終身雇用ではないじゃないですか。
そういうことからすると、
チャンスってたくさんあると思いますよ。
だからちがったなと思ったら
変えればいいのかなと思う。
親と一緒のことを先生が言ってたとしたら、
さまよい続けちゃうんじゃないかな
という気がしますからね。
糸井
ただ、親がそう言ったから、というのって、
ぼくは本当かどうか、わかってないんですよ。
なにか言われたとき用の防御として
言ってることって、若い人、いっぱいあるので。
「金で買えないものはない」って言う人だって、
本当にそれを言いたかったのか
っていうのはわからない。
こう攻められたときには、これを言わないと
自分が守れないという状態で、
理論武装として言っていることだって
ありますよね。
だから、その意味では、
どんなよろいでも隙間があるみたいに、
実はぼくはその嘘で、
自分を守ってるんじゃないかなと
いうふうに思ってるんですよね。
塚越
傷つきたくないから。
糸井
うん。そこでぶれちゃったら、
もう勝てないよっていう、
そんな気分じゃないかと思うんですけどね。
塚越
学校からは、
数字を求められるわけでしょ。
でも学生のために
何かできないかと思うわけだから、
これは、大変ですね。
糸井
一番辛いのは、
大企業志向を持ってる学生が
敵じゃないってことなんですよね。
敵じゃなくて、仲間の一人で
ちがう考えを持った人ということだから、
それはもうそのまま
泳いでいくしか
ないんじゃないかなというのが、
ぼくの考えなんです。
塚越
仕事のこととか、会社の仕組みのこととか
もっともっと、教える機会や、
学生さんとかに、渡せる機会が
あるといいかもしれないですね。
世の中って、会社だったり、
地域だったり、
国だったりという単位で
がんばってるわけでしょ。
その中で自分が、どういうことしていくのが、
どうなのよって、いうことまで含めた
コミュニケーションを
若い人とか学生に、
できるような機会があったら。
先生ひとつおねがいします。
ぼくプロじゃないからわからないけど。
糸井
「不安になるんです」って言う人の方が、
可能性あるんですよ。
自分で探す答えにたどり着きたいんだから。
塚越
友達とか先輩とかと同じように
なっていっちゃった方が
本当は危険なんですよ。
それに対して疑問を持ったり、
危ういと思うことが大事だと思うんですよ。
これを読んでいる人たちは、
そういうのを求めて来てると思ってるので、
ぼくは、もうそれでOKと思ってるんですけどね。
なんだけど、そうじゃない人たち、
気づいてない人がいるとしたら、
本来はそこに何かできたらいいなと思うんですけどね。
そこが先生の仕事かもしれませんね。
(以上で、塚越さんと糸井重里の
就職をめぐる公開対談は、おしまいです。
「ほぼ日の就職論」は、このあとも、つづきます。
どうぞおたのしみに!)

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2007-05-08-TUE

 (C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN