第2回 会社は、一枚も二枚も三枚も上手です。

塚越
「若いときには、なにをしたらいいかなんて、
 わからないものだ」って、
今、それを聞いて安心しました。
というのも、ぼくも何やったらいいか
わからなかったんですよ。
大学時代に、たくさん遊んでいくなかで、
これいいかも? とか、
いろいろ方向性がわかるわけじゃないですか。
ぼくの場合は、ボクシングをやって、その後に、
ちょっとエンターテインメント系の
アルバイトをしたときに、
人を喜ばせる仕事に出会うんです。
で、将来こんなのっていいかも、
って思ったんです。
人を喜ばせるっていいな、みたいな。
ところが、どこでどういう仕事を
すればいいのかがわからないんですよ。
それである人に聞いたら、
広告代理店に入るべきだって言われたんです。
糸井
それ、まちがってますね!
会場:(笑)
塚越
ぼくは、それを信じたんです。
広告代理店をばーっと受けて、ある1ヶ所だけ、
いいよと言ってくれて、そこに入りました。
糸井
何か教科書みたいなものはあったんですか。
自分か就職活動するにあたっての。
塚越
いえ、クチコミです。
糸井
じゃ、まちがった噂も飛んでますよね。
裏情報をいっぱい収集する人だって
いるじゃないですか。
お前あそこ受けても無理だよ、
実は、あそこは、なんとか系じゃないとって、
そういう噂がいっぱいあるんですよね。
塚越
ところがそれは確証がないんですよね。
当時は表玄関から聞いてみても、
表の答えしか返らなくて、
それが、噂で聞いてる話とちがうんですよ。
糸井
迷いますよね。
塚越
迷ったんですけど、
当時は表から聞いてダメだったので、
しょうがないかって、諦めました。
糸井
「表から行ってダメだったんですよ」、
その素直さは、鍵ですね。
塚越
今のぼくの原点です。
糸井
じゃあ塚越さんは、
何かコツがあったっていうことじゃなくて‥‥
塚越
「思い」だけですよ。
まちがってたけども、
「代理店に入りさえすれば、
 人を喜ばせる仕事ができるんだ」
っていう思いだけですよ。
入っちゃえば、こっちのもんとか思って。
告白しますけど、
コピーライターだったんですよ。
糸井
えっ!
塚越
でね、大人の社会はすごいなって思ったんです。
というのは、ぼくは今では
営業は人を喜ばせる仕事だと思っていますけれど、
当時はそう思っていないわけです。
つまり「人を喜ばせるこういう仕事したい」
というなかに、営業っていうのは入っていなくて、
製作とかのクリエイティブ関係だと思っている。
でも、はなっから会社はそう見てないわけです。
こいつがクリエイティブで入ると言ってるんだから、
入れちゃえと。で、営業をやらせようと。
──大人はずるいんです。
でも、ずるいけども、見てますよ。
この人は何が得意かなとか、
どこに伸ばせる可能性があるかって。
それで、会社は、とにかく早く
ぼくを営業に出したいわけなんだけれど、
そうは言っても、
とにかくいろんなことを経験させようと。
コピーライターを半年やって、
マーケティング部とか、
ラテ(ラジオ・テレビ)部とか、
そういうところを一通り経験させてから、
営業に出すわけです。
糸井
相手は、それをちゃんと見抜いたということですか。
つまり自分の売り込みと全然ちがうところに
塚越さんの資質があるということを。
塚越
会社は、一枚も二枚も三枚も上です。
こいつは、こんなふうに言ってるけど、
絶対、こういうふうにしたほうがいいと。
ちがうときもあるのかもしれないけど、
ぼくのケースはその通りだったんですね。
(明日に、つづきます)



仕事をたのしいと思う秘訣ってありますか。

質問者2(男性)
二人の話を聞いていて、
仕事っておもしろそうだなって伝わってくるんですけど、
今まで、仕事というものは
おもしろそうじゃないなって思ってたんですよ。
それは、父がすごく忙しい人で、
つらそうだなって思ったり、
満員電車でかわいそうだなって思ったりして、
仕事に対して、あんまりいいイメージを
持っていなかったんです。
お二人のように仕事をたのしいと思う秘訣ってありますか。
なんでそんなに、たのしいのでしょうか。

塚越
確かに、その通りですよ。
たのしくないと思ってる人も多いと思う。
糸井
ぼくはね、バイトも含めてつまんなかったこと、
ないんです。
左官の手伝いで寝泊りしていたとき、
すっごいつまんない人と組んで仕事してたときも、
そのつまんないってことをずっと考えてて、
考えてる間は、おもしろかったです。
会場:(笑)
糸井
肉体労働の仕事してると、活字が欲しくなるんですよ。
普段だと、本買いすぎだとか、読みすぎだとか
ブツブツ言ってるくせに、
本当に肉体労働の仕事してると、
焚き火にあたって破れたやきいもの袋の
その新聞でも読むんです。
そのくらい活字に飢えるんですよ。
そうすると、うわぁー、ぼくって、
活字が好きなんだって気づくじゃない。
そうするとおもしろくなるんだよ。
自分はなにがつまんないんだ、ってことが見えてくる。
それがおもしろいんだよ。
塚越
人間観察だとか、現象観察だとか、
頭使って考えるおもしろさって
あるような気がしますね。
糸井
つまんないってこと、
そのものが観察の対象になるわけだから。
塚越
おもしろくないことも、
何もかも含めてたのしんじゃえと。
糸井
本当にイヤなことは、人間、しないって、
ぼくは信じてるんです。
本当にイヤなことって、
命かけても逃げ出しますよね。
そのときには、本当に逃げたときだから
OKなんですよ。
その寸前までおもしろいんだったら、
おもしろがれるんだったら、
いても大丈夫なんです。
塚越
彼の話聞いてて思ったんだけど、
おもしろいと思ってる人の
近くにいた方がいいような気がする。
おもしろい人と一緒にいると
やっぱりたのしいですよ。
つまんない人と一緒にいると
おもしろくなくなるんですよ。
おもしろいと思うような人たちとか、
おもしろいことであるとか、
そっちに自分を置いたほうが、いいと思うなあ。
環境で変わると思う。
それは、自分で選べると思います。
あなたはそれに気づいているじゃないですか。
これはつまんなそうだとか、
イヤだとか思ってるんだったら、
こっちがおもしろそうだとか、
こっちは希望が持てるとか、
自分がそっちに行った方がいいなと、
思ってるんですから、
そっち選んだ方がいいですよね。


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2007-04-30-MON

 (C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN