目よ、泳げ。 そして、カツカレーを得よ。 しりあがり寿×糸井重里

第4回 止まって出会う不自由さ。
糸井 人を採るっていうのは、簡単じゃないですよね。
採用される側だけじゃなく、採用する側にとっても。
しりあがり 「自分がいっしょに働きたいと思う人」といっても
人によってそれは違いますしね。
そもそも会社とか組織って、
そんなに単純なものじゃないですし。
漫画に出てくる軍隊みたいな組織じゃないですからね。
なんていうか、会社って、
ひとつの生態系みたいなところがありますよね。
こっちの人が吐いた息を、
あっちの人が吸ってる、
みたいな影響がつねにあって。
糸井 うん、うん。
しりあがり それは、いまの自分の会社でもそうで。
うまくいってるなと思っていても
ひとりが辞めるとガタガタになったりとか。
糸井 「ちょうどいい」って、ないんですよね。
しりあがり 「ちょうどいい」はないですよね。
会社を計るメーターの中に
「ちょうどいい」っていう、目盛りがあるとしたら、
一瞬だけ針がそこに来て、また通り過ぎるみたいな。
糸井 そうそうそう。
ふらふら行ったり来たりするんだよね。
だから、針が「ちょうどいい」の近辺で
ふらふら往復してるくらいのところが
組織としては理想ですよね。
しりあがり そうそうそう。
糸井 それって、なんだろう、
ルールでは縛れない問題ですよね。
しりあがり そうですね。もっと属人的なこと。
だから、対処しようと思ったら、
それぞれの人に対して
対応していかなきゃいけないんですけど、
組織が大きくなったらもう無理ですよね。
糸井 だから、止まってないんですよね。
さっきしりあがりさんが
「生態系」っていいましたけど、
ほんとに会社って、生きて、動いている。
しりあがり ルールで縛って
コントロールできるものじゃないですよね。
糸井 その一方で、就職という問題を考えるときは、
採る側にとっても採られる側にとっても
いちおうのルールを設けないと
接点がつくれないわけだよね。
ああ、そうか、そうか。
しゃべりながらわかってきましたけど、
両方が止まって出会うしか方法がないから
むつかしいんですね。

しりあがり ああ、そうですね。
糸井 採る側も採られる側も、本来は動いているのに、
「いっしょに歩きながら互いを見る」
ということができない。
いまのあなたと、いまの私が、
止まって出会うから不自由なんだ。
しりあがり 止まって、しかも向かい合ってるって、
そうとう特殊な状況ですものね。
糸井 そのとおりですね。
あの、うちのスタッフが、
「最終面接を合宿にしちゃったらどうですかね」
って提案してきたことがあるんですよ。
それは、いまのところ保留にしてるんですけど、
どういう意図でそう言ったかというと、
「ひと仕事、いっしょにやんないとわかんない」
っていうことで。
しりあがり なるほど。
糸井 つまり、それは、
動きながら互いを見たいということですよね。
実際の会社でもそうですよね、
バカなことばっかり言ってるやつが
最後のところで取り返したとか。
失敗したけど、ちゃんと謝ったとかね。
しりあがり そうですね。
そのときどきのことじゃなく、
動いていく中で。
糸井 ええ。それこそ、生態系ですよね。
しりあがり それは、書類の審査と面接ではわからないですね。
糸井 だからもう、最初に言っちゃうしかないよね。
あなたは、失敗したとき謝れますか? って。
しりあがり (笑)

糸井 止まって出会うしかないなら、
そういうことを、もう、
応募条件に盛り込むくらい前面に出して。
しりあがり そうか、そうか。
じゃあ、「○○不問」みたいに
門戸を広げるんじゃなく、逆に、狭くして。
糸井 長い目で見れば、
そのほうが互いに幸せなんじゃないですかね。
だってさ、「○○不問」みたいなことって、
「あなた、女なら誰でもいいのね?」
っていうようなことじゃないですか。
しりあがり そうそうそう(笑)。
糸井 そんな男はだめだよ。
しりあがり ですね。そうだ。
だから、より詳しい条件を、つけて。
糸井 そうそう。
かといってべつに、
雇用差別につながるような条件じゃなくてね。
「ちゃんと謝れる人、募集!」みたいな。
あ、それも、ダメなのかな?
しりあがり (笑)



(続きます)


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2007-04-18-WED

イラスト : しりあがり寿 (C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN