イセキさんのジュエリー雑記帖

ロンドンを拠点に
アンティークや
ヴィンテージの
ブローチを探し、
ご紹介していた
イセキアヤコさんの
人気コンテンツ

リニューアルして
かえってきました。
雑記帖という
タイトルにあるように、
ジュエリー全般に
まつわるあれこれを、
魅力的なエッセイと
写真でお届けします。
不定期更新です。

profile

イセキアヤコさんプロフィール

京都出身。2004年よりイギリス、ロンドン在住。
アンティークやヴィンテージのジュエリーを扱う
ロンドン発信のオンラインショップ、
tinycrown(タイニークラウン)
を運営している。

Vol.30 ロンドンタウン(後編)

前編で紹介した挿絵画家、
ケイト・グリーナウェイ(1846-1901)は
ヴィクトリア時代に活躍した人で、
写真のブローチも同じ時代に作られた品だ。


銀にこうした細かい図柄を刻み、ふちなどに
装飾を加えた特徴的なジュエリーは、
イギリスでは
「エスセティック ピリオド ジュエリー」
「エスセティック ムーヴメントの影響を
受けたジュエリー」
のひとつに分類されている。


「エスセティック ピリオド」とは何か。
ジュエリーの世界ではヴィクトリア時代を
(何せ長いので)

前期
1837-1860年
中期
1837-1860年
後期
1885-1901年

に3分割して考察することがあるのだが、
そのうちの後期にあたる呼び名がそれである。
ちなみに、前期は「ロマンティック ピリオド」、
中期は「グランド ピリオド」と言われる。


エスセティック ピリオドには、
人々のライフスタイルの変化とともに
それまでよりも繊細で小ぶり、
そしてより軽いジュエリーが多く作られた。
このグリーナウェイのブローチも
実のところ枠の部分が空洞になっており、
非常に軽量である。


イギリスの「エスセティック ムーヴメント」は
V&A美術館のこちらのページにあるように、
1860-1900年頃に産業革命によってもたらされた
社会の負の側面や物質主義などから離れ、
人々が家庭内でも洗練された美を追求しようとした
中流階級間での風潮で、
ケイト・グリーナウェイの挿絵もそうした
美への憧れ、思想を反映している。


さらに面白いことに、
日本が鎖国を終えて日英和親条約を結んだ
1854年以降、イギリスに日本の情報がどんどん
流れこんでいったのだが、1862年の
第2回ロンドン万国博覧会で
日本の美術品が紹介されるコーナーが
設けられたことから、イギリスで日本ブームが
巻き起こった。その影響で、
この銀製のジュエリーシリーズの中には、
日本の団扇、扇子、鶴、紅葉、竹
といったモチーフが刻まれているものも
たくさん見つかるのだ。


今回紹介したブローチは
グリーナウェイバージョンだったが、
イギリスで骨董市へ行くことがあれば、
当時の「日本」の痕跡も探してみてほしい。


2021-11-30-TUE

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