Vol.30 ロンドンタウン(後編)
前編で紹介した挿絵画家、
ケイト・グリーナウェイ(1846-1901)は
ヴィクトリア時代に活躍した人で、
写真のブローチも同じ時代に作られた品だ。
銀にこうした細かい図柄を刻み、ふちなどに
装飾を加えた特徴的なジュエリーは、
イギリスでは
「エスセティック ピリオド ジュエリー」
「エスセティック ムーヴメントの影響を
受けたジュエリー」
のひとつに分類されている。
「エスセティック ピリオド」とは何か。
ジュエリーの世界ではヴィクトリア時代を
(何せ長いので)
- 前期
- 1837-1860年
- 中期
- 1837-1860年
- 後期
- 1885-1901年
に3分割して考察することがあるのだが、
そのうちの後期にあたる呼び名がそれである。
ちなみに、前期は「ロマンティック ピリオド」、
中期は「グランド ピリオド」と言われる。
エスセティック ピリオドには、
人々のライフスタイルの変化とともに
それまでよりも繊細で小ぶり、
そしてより軽いジュエリーが多く作られた。
このグリーナウェイのブローチも
実のところ枠の部分が空洞になっており、
非常に軽量である。
イギリスの「エスセティック ムーヴメント」は
V&A美術館のこちらのページにあるように、
1860-1900年頃に産業革命によってもたらされた
社会の負の側面や物質主義などから離れ、
人々が家庭内でも洗練された美を追求しようとした
中流階級間での風潮で、
ケイト・グリーナウェイの挿絵もそうした
美への憧れ、思想を反映している。
さらに面白いことに、
日本が鎖国を終えて日英和親条約を結んだ
1854年以降、イギリスに日本の情報がどんどん
流れこんでいったのだが、1862年の
第2回ロンドン万国博覧会で
日本の美術品が紹介されるコーナーが
設けられたことから、イギリスで日本ブームが
巻き起こった。その影響で、
この銀製のジュエリーシリーズの中には、
日本の団扇、扇子、鶴、紅葉、竹
といったモチーフが刻まれているものも
たくさん見つかるのだ。
今回紹介したブローチは
グリーナウェイバージョンだったが、
イギリスで骨董市へ行くことがあれば、
当時の「日本」の痕跡も探してみてほしい。
2021-11-30-TUE