Vol.27 アンバー(前編)

画家のEmanuel Gottlieb Leutze (1816-1868年) が、
妻とアンバーネックレスを手に持った娘を描いた
1847年の作品 ‘The Amber Necklace’。Sammlungen Museum蔵。
各国の絵画にみられるアンバージュエリーも興味深い。
アンバージュエリーの歴史は古く、石器時代に遡ると言われている。
イギリスには宝石の名前をもつ子どもがけっこういる
と気づいたのは、我が家の子どもたちが
学校に通いはじめてからだ。
まわりを見渡しただけでも、娘のクラスにはルビーちゃん、
パールちゃん。息子のクラスにはジャスパーくん。
アンバーちゃんも2人知っている。
アンバーといえば、和名は「琥珀(こはく)」。
日本にいる祖母は、私が小さいころ
飴色の琥珀のネックレスをよくつけていた。
友人の家へ遊びに行ったとき、その子の祖父も
琥珀の留め具のついたループタイを
していた記憶があるので、私のなかで長らくアンバーは
なんとなく「年配のひとが身につける宝石」
というイメージだった。
大学生のとき、通っていた京都の英会話教室の
20代の外国人の先生から
「オーストラリアから一緒に来たガールフレンドが
アンバーが好きなんだけど、この町で
アンバーのジュエリーを買えるお店はないかな」
と聞かれたときは意外だった。私のまわりの同級生で
アンバーのジュリーを身につけている子は
ひとりもいなかったが、国によっては
若者たちもアンバーを好むのだろうか。
その後、京都を離れロンドンへ引っ越してからは、
アンバーのネックレスをした赤ちゃんを頻繁に見かけた。
この時点で、私のアンバーのイメージはすっかり
塗り替えられてしまった。
赤ちゃんは、歯の生え始めの時期は、
歯茎の違和感や痛みが気になって
ぐずる子もいると言われている。
イギリスでは、アンバーのネックレスは
その不快感を和らげてくれる、と信じているひとが多い。
幸い我が家の子どもたちは、乳歯が生えてくるとき
とくにトラブルはなかったので
試す機会もなかったけれど、実際のところ
どれくらい効くのだろう、という興味はあった。
なにしろイギリスでは、これだけ大勢の親が
アンバーを頼りにしているのだ。
本当に効能があるのかどうか、
気になったもうひとつの理由がある。
これはイギリスに限らず、アメリカや
オーストラリアでも見られる傾向なのだが、
赤ちゃん用のアンバーのネックレスを
販売している小売店のほとんどが、口をそろえて
「アンバーが体温で温まると、含有されているコハク酸が
溶け出して、それが皮膚から吸収されることによって
炎症の鎮静効果がある」とうたっているからだ。
19世紀にイギリスで「子どもを病気から遠ざける」
と言われて流行したコーラル(珊瑚)ジュエリーと違い、
具体的な物質名を挙げているところが
もっともらしく聞こえる。
けれども不思議なことに、その作用の
科学的根拠となる文献は誰も引用していない。
わざわざコハク酸という名前を出すのなら、
信頼できる学術機関のデータも見てみたいところである。
そこで調べてみたところ、次のような研究論文を見つけた。
(後編へ続く)
2020-12-08-TUE

