イセキさんのジュエリー雑記帖

ロンドンを拠点に
アンティークや
ヴィンテージの
ブローチを探し、
ご紹介していた
イセキアヤコさんの
人気コンテンツ

リニューアルして
かえってきました。
雑記帖という
タイトルにあるように、
ジュエリー全般に
まつわるあれこれを、
魅力的なエッセイと
写真でお届けします。
不定期更新です。

profile

イセキアヤコさんプロフィール

京都出身。2004年よりイギリス、ロンドン在住。
アンティークやヴィンテージのジュエリーを扱う
ロンドン発信のオンラインショップ、
tinycrown(タイニークラウン)
を運営している。

Vol.8 月桂樹の葉

ヴィクトリア時代末期から
20世紀初頭にかけて作られた
イギリスのアンティークジュエリーには、
月桂樹の葉(2枚の葉がペアになった状態)
をモチーフにしたものが多い。
古いジュエリーの時代を推定するには、他にも
宝石の種類やカットのスタイル、
金属の種類、パーツの形など
まだまだ確認すべき項目がたくさんあるけれど、
これは、ひとつの分かりやすい手がかり
となっている。


月桂樹はもともとギリシャ神話に登場する
アポロンの聖樹で、古代ギリシャ時代から
その葉の冠 ‘ laurel wreath (ローレル リース) ’ は
戦いの勝者へ、名誉のしるしとして贈られた。
カズオ・イシグロさんが
2年前にノーベル文学賞を受賞されたとき、
私は、恥ずかしながら生まれて初めて
受賞者スピーチの完全版
(スウェーデンからの生中継)を
ロンドンの自宅で観たのだが、その際に
ノーベル賞を受賞した人物、団体は
「Nobel Laureate (ノーベル ローリエット)」
と呼ばれることを知った。
laureateという言葉は
上記の laurel wreathのことで、
つまり、勝利の月桂冠を得た者、である。


月桂樹の葉は、このように古代ギリシャの頃から
「勝利」のシンボルとして
さまざまな意匠に使われてきたので
珍しいモチーフというわけではないのだが、
冒頭に書いた時代のイギリスのジュエリーは
月桂樹の葉の上にダイヤモンド
あるいはシードパールをセットし、
その下に宝石をあしらったり、
いくつも葉を繋げて華やかさを出した
スタイルが大流行した。


私が月桂樹の葉のモチーフが好きな理由は、
縁起の良いいわれがある、ということだけでなく、
連続して多用しても
決してロマンチックな印象になりすぎないところ、
凛とした品が感じられる点である。
月桂樹の常緑の葉は生命力にあふれ、
瑞々しさを連想させるところもよい。


私の手元にある写真のバングルは
20世紀に入ってから作られたもので、
エドワーディアンよりも後の品だと思われるが、
このデザインも、もしクローバーの両側が、
月桂樹の葉ではなく、同じ植物でも「花」が
連なっていたとしたら、どうだろう。
甘すぎて、私にはピンとこなかった
かもしれない、と思っている。

 

このページの掲載商品はtinycrownのオンラインショップ
2020年1月10日17:00(日本時間)から販売されます。

2019-12-06-FRI

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