Vol.5 髪(後編)
チャールズ・ダーウィンが生きていたのは
1809年から1882年。
つまり、家の中の調度品は私の大好きな
ジョージアン、ヴィクトリアンデザインのものばかり。
そのうえ、ジュエリーがまとめて置かれている
ショウケースを見つけたときは、
やった、と嬉しくなった。
建物内の撮影は禁止なのでお見せできず残念だが
具体的にどんなものが展示してあったかというと
結婚指輪やモーニングジュエリーである。
ダーウィン夫妻が大切にしていた品々が
番号札とともに綺麗に並べられていた。
なかでも、詳しい解説はなかったけれど
金色の正円のディスクの中央に蜂が彫られ、
羽にシードパールが2粒ずつ、
頭部に赤い石が1粒セットされたブローチは
洒落ていて、これは蜂の研究でも有名だった
チャールズ自身の品だったのでは
と想像がふくらんだ。
時間が経ってくすんだ金の色がいい塩梅だ。
ガラスケースの中から取り出せるものなら
表裏をもっと近くで見てみたい。
そんな気持ちに駆られる素敵な品だった。
王室のジュエリーにひけをとらないような
興味深いブレスレットもあった。
チャールズ・ダーウィンの祖父は
イギリスの陶磁器メーカー「ウェッジウッド」の
創始者で、チャールズの妻エマ・ウェッジウッドは
母方の従姉妹。
エマがまだ独身の1825年にウェッジウッド家は
9ヶ月かけてヨーロッパを周遊する。
そのときに家族で見たスイスの景色を絵付けした
という陶板の飾りつきブレスレットは、
もやの中にアルプスの山々が
浮かび上がるような緻密な水彩画風で、
金の縁どりからベルトにつながる部分の
端正な美しさは、ため息の出る完成度だった。
しかもベルト部分は、エマと
2歳年上の姉ファニーの髪を細かく編んだもの
だという。
ショウケースには見当たらなかったが
資料によると、病のせいで
わずか10歳で亡くなった
チャールズの娘アンの遺髪を入れた
ブローチもあるという。
ダーウィン夫婦が、娘亡きあと
思い出の品をあつめて箱にとっていたのが
ずいぶん後になってから発見されたそうだ。
こうした人髪を使ったジュエリーは
今でこそちょっと不気味なかんじがするが
19世紀当時はとても人気で、その理由は、
軽量でつけ心地が良かったのと、
髪をジュエリーとして立体的に編める技術が
1830年頃までに熟成したからだと言われている。
亡くなった人の形見として制作することもあれば
元気で生きている間に家族間で贈ることもあった。
立体的に編まれた19世紀の髪製ジュエリーの例。
(出典‘‘Sentimental Jewellery’’by Ann Louise Luthi )
髪を編んでジュエリーを作る男性。
(出典:同上)
当時の人々の、ジュエリーに求めた役割と
とっておきのものにしたい、という強い想いが
このように唯一無二の「センチメンタルジュエリー」
に姿を変え、後世にのこっている。
ダウンハウスのジュエリーは、
チャールズ・ダーウィンがたしかに19世紀に存在し、
そこに居たのだということを
私に実感させてくれたのだった。
参考文献: ‘‘DOWN HOUSE: THE HOME OF CHARLES DARWIN’’
著者 Tori Reeve
出版社 English Heritage
ISBN 978-1-84802-019-1
(書籍紹介編へつづく)
2018-09-29-SAT

