Vol.3 瞳(書籍紹介編)
‘‘ TREASURING THE GAZE
- Intimate Vision in Late Eighteenth-Century
Eye Miniatures - ’’
著者 Hanneke Grootenboer
出版社 THE UNIVERSITY OF CHICAGO PRESS
ISBN-13:978-0-226-30966-8
表紙の写真は1790年頃に作られた
アンティークブローチで、
象牙に水彩絵の具で着色されたもの。作者は不明。
著者はオクスフォード大学の
聖ピーターズカレッジで美術史を教える講師、
絵画の研究者、ということで、この本も
アンティークジュエリーのガイドブック
というよりは学術論文的なスタイルで
各章がまとめられている。
アイ・ミニアチュールとそのジュエリーに
スポットをあてて詳しく紹介している書籍としては
近年出版された中でおそらく
最も新しいもののひとつではないだろうか。
小さなサイズの緻密な肖像画
「ミニアチュール」の特徴に触れつつ、
歴史的絵画の「瞳」「目線」が時代を追うごとに
空虚なものから、絵を鑑賞する人間をひきつける
意味深なものへと力強く進化していったことを
説いた人物などを紹介。そのあと
18世紀末から19世紀初頭という短い期間に
イギリスを発端に大流行し、
ブームが消え去った後
世の中から長らく忘れ去られた
「アイ・ミニアチュール」のジュエリーへと
話はすすむ。
本書に登場する、「アイ・ミニアチュール」のブローチ。
瞳からこぼれ落ちる涙はクリスタルでできている。
ブローチの裏に、トマスという男性が
1792年3月に24歳で亡くなったという記述がある。
こちらは涙にダイヤモンドが使われている。
パールもキリスト教では涙のシンボル。
当ブローチが亡くなった人物にたいする
思い出の品として制作されたことが読み取れる。
「見られること」と同じくらい「見ること」を
意図した「アイ・ミニアチュール」。
著者は、美術におけるトラディショナルな
主体(見る側)と客体(見られる側)の
関係性を問いかけており、全体的に、
テキストは哲学的なテーマを軸としている印象。
2018-04-04-WED

