第7回 タモリさんの坂道の思想。

(※年明け1月1日の、のんびりした日には、
  ジャズ座談の合間に、3人が話していた、
  タモリさんの坂道研究についてのお話を、
  おやすみがてら、おとどけいたしますね)


糸井 タモリさんの坂道研究みたいなものは、
世の中に、あったほうがいいですよね。
山下 おもしろかった、あの本。

あの坂道の本に書いてあった
哲学者の話って、ほんとうなの?
タモリ キルケゴールと
ハイデガーについて言いましたが……。

キルケゴールの傾斜地についての原文は、
ほんとなんです。

「自殺するしないは
 本人の自由意志になるので不安になる」

そういうようなことを、
キルケゴールは、実際に書いています。

だけど、ハイデガーに至っては、
私、なんら理解していないですね。
山下 (笑)やっぱり!
タモリ もう、むちゃくちゃだよね……
酒を飲むと天才的に弁が立ちますからね。
糸井 酒のおかげもあるんですか?
タモリ もちろん、酒のおかげです!

酒が入ってないと、
あんなことは言わない。

……前に、ある作家に
「どこにお住まいですか」
と聞いたことがあって、
その場所、ちょっと知ってたんです。

「なになに坂のところですね」
「あぁ、キミ、詳しいね?」

じゃあ、話を坂道で
いっちょ、広げるかなぁと思いまして……。

「ぼくは、人間の思想は
 ふたつに別れると思うんです。
 平地の思想と坂道の思想。

 平地の思想は、
 ハイデガーのように
 存在を時間の中で考えようとする。

 坂道の思想は、
 キルケゴールみたいに、
 崖の上に立って
 自由意志が死を選ぶこともできる、
 というもので、非常に不安を覚える、
 というもので……。

 先生の作品を読ませていただくと、
 傾斜の思想ですね」

ほんとは、まだいっぺんも読んでない。
その状態で、そう言ったの。

「キミ、そう思うか?」
「はい!」

それからしばらくしたら、
マネージャーが言うんです。

「この作家の方、知ってますか?」
「こないだバーで会ったけど何?」

「平地と傾斜について、
 対談したいって
 おっしゃってんですけども」
「……それ、なんとかして断ってくれ。
 理由はなんでもいいから断ってくれ」

「何か、ありましたか?」
「詳しく話すと、
 顔から火が出るぐらい恥ずかしいけど」

そういうことがありました。

それから半年ぐらいした時、
ヤスパースとハイデガーの特集を
テレビで観たんです。

ハイデガーとヤスパースっていうのは、
ふたりとも哲学者で、
最初はともだちどうしだった。

ヤスパースの方は、ユダヤ人でして、
最終的には、ハイデガーが
ナチに協力したということから
別離があるんですけど……。
その番組、3夜連続で、
おもしろかったので見ていたんです。

その最終回、
3夜めのいちばん最後の時に、
アナウンサーが
「ハイデッガーの主著『存在と時間』は、
 黒い森が見渡せる、
 急斜面に建つ家で書かれた」と言った。
糸井 (笑)
タモリ テレビに家が映ったら、
めちゃくちゃ
傾斜しているところに
その家が建ってるんですよ。

キルケゴールよりも
傾斜だったっていう、
オチがつく話だった。
山下 タモリさんの斜面の話には、
ぼくもムズムズ来たんです。

昔、足利のブドウ園の収穫の時に
ジャズマンを呼ぶ集まりが
あったんだけど、
ブドウ畑がガーッと傾斜していて、
ああいうところで音楽をやると、
異様に胸騒ぎを起こすんです。

そういう経験ははじめてだった。
 
(つづきます)



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2005-01-01-SAT


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