祝! 『絆回廊 新宿鮫X』完結記念スペシャル企画 太田和彦+大沢在昌の 居酒屋幼稚園

大沢 ‥‥太田さん、お酒は?
太田 焼酎「杜翁(もりのおきな)」をお湯割り、
6・4で。
女将 承知いたしました。
こちら、自家製さつま揚げね。
大沢 ははー‥‥なるほど、意味がわかった。
さつま揚げに
タネそのものがくっついてるんだ。

ふーん‥‥真ん中のこれ、なんですか?
太田 玉ねぎじゃない?
大沢 この赤い‥‥これは、なんだろう? 
太田 エビですね。
大沢 へえー‥‥この、端っこのは‥‥。
太田 あ、それ、にんにく。うまいですよ。
大沢 いただいてもいい?
女将 おしょうゆで召し上がっていただくか、
あとはカボスをしぼって
召し上がっていただいても、いいんです。
大沢 ‥‥うん、へぇーえ、うまい。

ミンチにしていっしょに練り込むんじゃなく、
こういうふうに
おでん種みたいにして食べるのは、はじめて。
女将 先生、お湯割りでございます。
太田 あ、どうもありがとう。
大沢 あ、「ツィーーーーー‥‥」ってやつだ。

註‥‥「ツィーーーーーーー‥‥」とは
   太田さんがお酒を飲むときの擬音。
   太田さんの居酒屋本ではおなじみ。
太田 ‥‥うん、どっしりした酒だね。

華やかではないが
濃いというのかな、深いというのか。
大沢 太田さんと居酒屋紀行に来たような‥‥
あ、来てるのか(笑)。
太田 ははははは(笑)。
大沢 ぼくはね、日本酒がダメなんですよ。
眠くなっちゃうんです。
太田 なんと、かわいらしい。
大沢 ワインでも同じだから、
醸造酒があまり身体に合わないみたいで。

焼酎とかウイスキーであれば、
えんえん、飲んでいられるんですけどね。
太田 ハードリカーのほうがいいんだ。
ぼくと正反対だなぁ。
大沢 あの‥‥『ニッポン居酒屋紀行』を観てると
バーではジン・トニックとか
ホワイト・レディを
お飲みになってらっしゃいますよね、たしか。
太田 よく知ってますねぇ。
大沢 だからぼく、マニアなんですって!(笑)
太田 まいるなぁ‥‥(笑)。
大沢 ただ、ぼくは、ジン・トニックについては、
「さんざん酒を飲んだあとに
 よくもまぁ、あんな甘いものを‥‥」
って、思っちゃうんですよ。

ジン・リッキーなら、わかるんだけど。
太田 リッキーはね、ぼくにはちょっと辛い。
大沢 間をとって、ジン・ソニックはどうです?
太田 うーん、あれもキワ物ですからね‥‥。

でもさ、思うんだけど、いざとなると
女性のほうが、だんぜん酒強いよね。
大沢 そうですかね。
太田 で、酒の強い女性は必ず美人。
大沢 ‥‥長年のご経験から?
太田 うん(断定)。
大沢 でも、ちょっと、こわくないですか?
そんなにお酒の強い女性って。
太田 こわくない、こわくない。

飲めば飲むほど美人になっていくんだから。
しかも、色気がふわぁ〜っと立ってくる。

「あら、あなたまだ3杯目?」
とか言われたら
「ウホホ!」って、まい上がっちゃう。
大沢 あはははは(笑)。
太田 酒に酔って
目がしっとり濡れてきた女性ほど、
この世で
いいものはないよね‥‥。
大沢 ぼくは、酔って
しなだれかかってくるような女性って
なんだか、苦手なんですよ。
太田 そりゃ、大沢さんは二枚目だから。
大沢 いえいえいえ、そういう意味では。
太田 ぼくなんて、そんな心配まったくない。
しなだれかかられた経験とか、まずない(断定)。
大沢 ほんとですか?
太田さん、モテると思うんですけどね‥‥。

六本木のお店のおねえちゃんたちにも
太田さんのDVD、
けっこう貸し出したりしてるんですよ、俺。
太田 あの‥‥きれいな女性のいるクラブとかって、
どういうところが楽しいんですか?

この私とて、
まったく行ったことがないわけじゃ
ないんですけれども‥‥。
大沢 そりゃまぁ、そうでしょうけど。
太田 大沢さんの居酒屋の話のように、
なんとも身の置きどころがなくて。

こっちがじっと黙ってるもんだから、
向こうのホステスさん‥‥っていうのかな、
女性も困っちゃって
「何をなさってるんですか?」
「いやあの、居酒屋でネ‥‥」
とかなんとか‥‥会話が見つからないのよ。
大沢 真面目に話すからですよ。

ぼくなんか「何の先生してるの?」って
聞かれたら
「豊胸手術の先生だよ」って答えてます。
太田 でたらめだなぁ(笑)。
大沢 「えっ? じゃあ、私もおねがい!」
「今なら、右胸5万円でいいよ」
「ホントに?」
「ただし、左胸495万だけどね」
‥‥とかね。
太田 ちょっとメモを‥‥(笑)。
大沢 まぁ、そんな感じで
いい加減なことばっかり言ってますよ。
太田 でもやっぱりぼくはね、
飲むときは黙ってるのがいいんです。

ただ、しゃべらないと、
なんだか怒ってるように見えるみたいで。
大沢 ああ、そうかも知れません。
ぼくと同じだ。
太田 友だちと飲むのも楽しいんだけれど、
居酒屋では、
やっぱり、ひとりでぼんやりとして、
何もしゃべらずに、黙って酒を飲む。

それが、じつに快感なんだね。
大沢 ぼくは、そのあたりの「居酒屋の距離感」が
うまくつかめないというか‥‥。
太田 距離感?
大沢 なんて言えばいいのかな‥‥場との距離感?
太田 距離はまったくない、そこには。
大沢 そりゃ、太田さんはそうでしょうけど‥‥。
じゃあ、ずっと黙ってるんですか?
太田 現実的には、居酒屋にひとりで入ったら
「あやしい者ではない」
ということを、わかってもらう意味でも
ちょっと店の人に声をかけてね、
「今日は、何がうまい?」
とか、
「この魚は、何ですか?」
とか。

ふつうの客であるという
挨拶代わりの問答を済ませたら、
それからはもう自由自在
大沢 飲むもよし、黙るもよし、と。
太田 店の人の心配はただひとつ。

「この人、ちゃんと勘定払うかな?」
だけ。
大沢 ‥‥いちど、ちょっと薄汚い格好して
六本木の牛丼屋に入ったら、
「あ、お勘定先にもらっといて」
って、バイトの店員が
店長さんに言われてたことがあったな。
太田 これはいい話ですねぇ(笑)。
大沢 でも、太田さんがお店に行くとなったら、
お店の側も
喜んだり、緊張したりすると思うんですよ。
太田 まぁ、番組で行くとなったらね、
テレビに映るわけだから。
大沢 いつだったか「ビンタ一発!」なんつって‥‥。
太田 よく覚えてるなぁ。
大沢 相当喜んじゃってましたよね、あのおやじ。
太田 あの人は亡くなりました。
大沢 ‥‥そうですか。
太田 しかし、あんな色気のない番組を
よくもまぁ、
すみずみまでごらんになれて(笑)。
大沢 それはほら、太田さんの色気がね‥‥。
太田 はァ?
大沢 いや、太田さんが醸す色気って、あるんですよ。
観ているぼくらには、わかるんです。

ご自分では、わからないかもしれないけど‥‥。
太田 ‥‥女将、上等な酒お出しして(笑)。
大沢 ‥‥つまりね、
そういうエピソードひとつとってみても、
居酒屋という空間で
太田さんが積んできた経験って、
ぼくには、ないでしょう?

だから‥‥。
太田 大沢さんが
銀座や六本木で積んできた経験こそ、
ぼくにはないです。
大沢 つまり‥‥まぁ、同じことなんですよね。
太田 言ってることは‥‥同じかもしれないね。
大沢 酒の好みとか、酒場の好みは
ぜんぜんちがうけれども。
太田 はい。
大沢 お互いに「大丈夫だから」という。
太田 そうそう。
大沢 太田さんのDVDを観てたら、
富山「親爺」に行きたくなりました。
太田 いいですよ、あそこは。特に冬。
大沢 コウバコ蟹、食べられるんですよね、
おでんで。
太田 あれ「かに面」ていうんですけど、
こんど、いっしょに行きたいなぁ。
大沢 ‥‥だから、生意気を言うようですけど、
ぼくも太田さんを、お連れしたい。
太田 大沢さんのお得意な方面に?
大沢 六本木や銀座で飲みはじめて
かれこれ30年くらいになるんですけど、
人間的なおもしろみ、
深みを感じさせてくれるホステスさんは
たしかに、少なくなっています。

でも、すばらしいお店は
まだまだたくさん、残っていますから。
太田 でもやっぱり、ぼくは軽妙な会話とか‥‥。
大沢 要らないですから、そんなの。
太田 豊胸手術とかっていうのも‥‥。
大沢 忘れてください、その話は。

太田さんの人となりに興味を持って、
たとえば
お酒について
真剣に勉強したがっている女の子だって、
たくさんいるんです。
太田 そうですか。
大沢 太田さんが
おいしいお酒について語ってくれたら、
知識として
ぐんぐん吸い込むように聞きたいという
若いホステスさんは、必ずいます。
太田 じゃ、こんど連れてってください(笑)。
大沢 もう、いつでもいいですよ。
今夜だって、お連れします。

<つづきます>


2011-04-20-WED