ほぼ日の学校

行ってみたほぼ日の学校

古典をテーマとする「ほぼ日の学校」では、
多くの先生方が情熱をたっぷり注いだ、
白熱の講義をしてくださっています。
この、ただならぬ熱気を伝えたいと、
いろんな方に参加してもらい
体験レポートを描いていただきました。
講義の様子は「ほぼ日の学校オンラインクラス」
だれでも、いつでも、みられます!
一緒に「ほぼ日の学校」を体験してみませんか?

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辻󠄀和子さん(前編)

Hayano歌舞伎ゼミで
講師を務めてくださった辻󠄀和子さん。
その様子は第3回で大高郁子さん
渾身のマンガにしてくださいました。
今度はその辻さんによる
町田康さんの授業レポートです。

辻󠄀和子さんのプロフィール

「橋本治をリシャッフルする」第6回
『双調平家物語』をひもといて 
町田康さん

「なんでやねん?」に爆笑

歌舞伎にも造詣の深かった橋本治さん。
私も演劇雑誌で連載された
切れ味鮮やかなエッセイが楽しみでした。
そして町田康さん!
これまた「告白」などの小説で大ファンに。
これは絶対聞き逃せない! と受講を決めたものの、
テーマは「平家物語」……。
ええと、祇園精舎の鐘の声だよね?
清盛に愛された悲劇の白拍子だっけ?
という程度の知識しかありません。
本家もろくに知らずに大丈夫なのかわたし?

「平家物語」の橋本版ともいえる本作は、
全16巻という大長編!
講座を引きうけた時、
町田さんは「これは大変だ」と思ったものの完読。
そして「結果的に楽しかった」。
しかも序盤は中国の話から始まり、
物語はなかなか進みません。

「キレイごと」では済ませない面白さ

小説とは「何で?」を埋めるものだと町田さん。
「何でそうなったん?」
「何でそんな事するん?」を埋めるものだけれど、
多くの歴史小説(明治時代含む)や大河ドラマは、
一人の天才や英雄が歴史を動かすというのが
スタンダードな作り方。
「何で?」の部分を、
腐敗した貴族や旧弊にしがみついている
「アカン人たち」を倒すという
キレイ事で語られているとの指摘には
目からウロコでした!
なるほど、それと真逆なのが橋本平家なんやね〜。

「キャラクター」て一体なに?

一人の人間だけ追っていれば
歴史がわかるわけではない。
歴史は人間の愚かさ、弱さ、利己心で、
偶然的に動くものと町田さんは指摘します。
摂関政治、院政政治を
「作ろう」と思って作った人は実はおらず
「何となくそうなった」とのお話に、ふむふむ。
そして町田さんの作家目線の金言も放たれます。
それが「必要なのは決めつけ」。

「読者にキャラの作り方を教えて下さいて
言われる事があるんですわ。
全ての一次資料を読む事は出来ないので直感的につかむ。
作家の人格が面白いと、つじつまが合った話に出来る。
もう一つ必要なのは、
この人はこんなキャラという決めつけ。
橋本さんはそこが生々しいんです」

本作で描かれる藤原頼長という人物を、
町田さんが具体的に解説して下さいます。
天皇以外では一番偉い摂関家に生を受けた頼長でしたが、
鳥羽院の崩御後、政局から取り残されます。
その時、唯一頼長が出来た事のアホらしさときたら……。
ぜひ本書で確めてみてください。

教養のある頼長は「本来なら」「本来は」と
理念ばかりを追い求め、
世に正義がなされていないと思い込み、
現実を見る事が出来ない人だったという
町田さんの解説は、とてもリアル!

愚かさと賢さは何が違う?

思考そのものがうねりを伴って
「かたり」の要素を持ち、
音楽的要素が濃いのが橋本文学の特徴だと町田さん。

また現在から歴史を振り返るのも間違いだと語ります。
橋本さんは常に、
当事者のその時の感覚で物語を書いている。
登場人物は自分のした事の結果など知る由もなく、
自分たちも同じ混乱の中に入って行く。
それは先の大戦にも言える事でないかと……。

橋本平家は、どのページを開いても、
実際にその時代を生きた人の
息づかいを感じるという指摘に、
当初の私の苦手意識はガラリと覆されました!

つまるところは「みんなアホ」。
でもそれをアホと言えるのか?
愚かさと賢さに違いはなく、みんな愚か!
という素晴らしい締めくくりに、
受講者一同大納得したのでした。

(後編につづく)

これまでの体験レポート