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年末年始スペシャル!
『糸井重里500分』
今回のインタビュアー
今泉清保アナ
第6回 初恋とバレンタインデー

(※ひきつづき、今泉アナによるインタビューです)


今泉 糸井さん、初恋はいつだったんですか?
糸井 ……そのつど、じゃないですか?
幼稚園の頃から。
今泉 (笑)
糸井 ぼく、トランプの「神経衰弱」では
誰とやっても全敗できるような人間ですけど、
そういうのは、ほとんどぜんぶ覚えてますよ。

名前から、出会ったときから、だいたい。
お医者さんごっこの思い出も、どう逃げたかも。

でも、今の子たちと違って、
いわゆる「つきあう」っていうのは、
子ども時代を通して、見事にないですよ。
女の子と遊んでいたら批判の対象っていうか。
今泉 (笑)
糸井 バレンタインもなかった時代だけど、
あんなチョコなんてもらっていたら、
男どうしで「…なんだよソレ!」って、
小姑っていうか、
姑に近い反応があったと思う。
小学生は、当時、全員、硬派だったもん。
今泉 (笑)全員。
糸井 ただ、俺、バレンタインデーって言うと、
「おかあさんにバレンタインをもらう」
っていう言葉が、すごい好きで……(笑)。
「チョコが食べたいのかよ!」って。
今泉 それって、おやつですもんね。

糸井さんが生まれた群馬県の前橋市って、
記憶にあるのは、どんな感じの場所ですか?
糸井 近所に大きな川が流れていて、
遊びに行くときには、大きい子も小っちゃい子も、
ほんとに隊列を作って川原に行くんです。
学校に入ってからは
学校に行くことが多くなりましたけど、
とにかく、川原で遊ぶんですよ。
水があって、石があって、歩きにくくて、
風が吹いて、夏は雷が鳴ってみたいな。
今泉 「上州の空っ風」ってやつですか?
糸井 うん。
当時のほうがよく吹いてましたね。

あまり信じてもらえないんだけど、その頃は、
おばさんは北に向かって自転車をこげなくて、
降りて歩いてるんですよ。
北側にいるともだちの家に行くと、
帰り道は自転車をこがないで帰って来てたんです。

暑さ寒さ、風、温度、道。よく覚えていますよ。
ぼくが小さい頃は、まだ舗装道路じゃなくて、
ぬかるみがいっぱいあった。
泥がハネたから、よく、長靴をはいていましたね。
糸井 ぼくが生まれたところって、
もともとヤクザが多い地域で、
江戸時代から、お上のお膝元。
大きく言うと、サラリーマンたちの地方です。
江戸があって、俺たちがいるという文化だから、
甘えん坊たちが集まっている土地ですよね。

同時に、絹織物とか生糸が盛んで、
それは、女性の労働力が強いということだから、
「カカア天下」だと。
女性が稼ぎ手になっていたから、そうなった。
女の人がしとやかに
「あなた、いってらっしゃい」
なんていう姿は、見たことがなかったですから。

テレビだとかでそういう姿を見ると、
「うらやましいなぁ」とは思ったんですけど、
自分がオトナになったら、やっぱり
女性が強い家庭を選んでしまうわけで。
それは、そういう環境があったからこそですよね。

群馬って、ものすごくつまんない場所なんです。
ただ、今になってわかるのは、みんなが、
「自分の生まれた土地はつまらない!」
と思っていた、ということです。
どの人も、
「ロクでもない場所だった」と思っているから、
どこでも不満はあるんだから、
群馬生まれのことを、
今はもう、客観的に見られるようになりましたね。
今泉 糸井さんって、どんな子どもでしたか?
糸井 一人っ子として10歳くらいまで育っているから、
もう心は一人っ子で、
遊び相手のきょうだいがいないですから、
オトナと一緒に出歩くわけですよね。

父親が飲み屋に行くのでも子ども連れて行く。
それは、連れて行かせられるのかもしれないけど。
父親が、酔っぱらって帰って来ないと困るんで、
おばあちゃんが俺を連れていくと、
おやじがカウンターで酒飲んでる間に、
俺は目玉焼きなんか食べている、という。

うちに帰るとおばあさんがいるから、
それこそ落語だ漫才だ浪曲だ、ですよね。
おたのしみっていうのは、そういうのが
ラジオから聞こえて来るものでした。
だから、まわりの兄弟の多い家の
子どもに比べると、
発想がおとなっぽくなりますね。
糸井 うちはぜんぜん
豊かでもなんでもなかったんだけど、
みんなが貧乏している時代だから、
一人っ子っていうだけでちょっと家計がラクだし、
何かを買ってもらうのにも
おさがりじゃないんですよ。
相対的に、坊ちゃんだったんです。

オトナの姿をよく見ているから、
同い年のみんなに溶けこみたいんだけど、
心からは溶けこめない、そういう子どもでしたね。

犬って、うれしいときに転がるじゃないですか。
ああいうことのできない子どもでしたね。
どっかのところで転ばないようにしてるみたいな。
ちょっとませてましたね、心が。

(つづきます)

2003-12-29-MON
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