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年末年始スペシャル!
『糸井重里500分』
今回のインタビュアー
柳瀬博一さん
第2回 神様の奴隷

(※ひきつづき、日経BP柳瀬さんが質問をしています)

糸井 結局、「すること」は、
マラソンランナーなら走ることだし、
水泳選手なら泳ぐし。それと同じなんです。
犬にお座りとかってやっていても、
「くれるのはビーフジャーキーでしょう?
 それより、ぼくはお散歩がしたい!」
って犬もいる。セックスもそれと一緒ですよ。
世界の中で、肯定される方法はたくさんある。
性は、「そのうちの一つ」にすぎないんです。
柳瀬 へぇー。
糸井 「オレがいてよかったな」
っていう瞬間を強烈に味わえないときには、
性の道に充実感を一本化しちゃうんですよ。
柳瀬 ただ、現実に一本化している人もいますよね。
一本化じゃないまでも、たまに
そういうモードになるというか……。
そういう時、妙な空虚感を感じるんですよ。
神様が自分を動かしているかのようだから。
そういうのは、糸井さん、ありました?
糸井 そりゃあ……そういうのが、
人生の山や谷を作るんですよねぇ。
「それさえなければ、
 こんな断崖絶壁から落ちなかったのに」とか。
それさえなければ、こんなに
がんばらなかったのに、っていう地点で
吊り橋が壊れてみたり(笑)。
柳瀬 ただ、吊り橋を落ちた人間が言う言葉と、
雑誌でバーチャルに情報を読んだような状態で
わかったふりをしちゃうっていうのは、
実はまったく違うじゃないですか。
そのへんは、どうすりゃいいのかな、と言うか……。
糸井 「どうすればいい」は、ないですよ。
そりゃ、吊り橋を落ちりゃいいんですよ。
柳瀬 (笑)やっぱり落ちるしかない!
糸井 だって、神様がそう造ってるんだもん。

要するに、
神様のゲームをおもしろくするために、
ものすごくバカに造ってるんですよ、人間を。
ピクミンみたいなもんですから、オレたち。
バカがあったりキャラがあったりしないと、
ゲームが単調になってつまんないから。
柳瀬 (笑)
糸井 吊り橋から落ちたりした経験とか、
「こんなのが、いてもいいのかね?」
って思うような悪いヤツとかがいると、
例えば、その悪いやつを話題にするだけでも
世界が活性化したりするんですよ。
人間って、残酷なほど、せつない動物だから。
柳瀬 ちょっと上から見るだけで、
見とおせちゃうぐらいの行動で。
糸井 うん。
ただ、みんなが適度に
お利口になったら、退屈な天国ができますよね。

欲望を一本化しているかに見える
ヒモの人のつらさだって、絶対あると思うんです。
ヒモの人たちって、下半身で縛らないですよね。
優しさとか、ちょっと迎えに行くよ、とか。
ヒモは、アンチセックスに行くんですよ。
柳瀬 それをシステムにすると、
ホストになるっていうことですね。
糸井 そういうことですよ。
だからほんとは何もしないで、
「水いる?」と水を与えてるだけでいい、
っていうふうになっていくんですよ。
ただ、そこはそれで難しいもので、
「役に立つ」っていうことには、
「負け」があるんですよ。
柳瀬 (笑)はい。
糸井 ものすごく卑俗なところからいえば、
「オレはデカいから」という人がいますよね。
隣りにもうひとり、デカい人が現れると……。
「あ、どうも」ってことになるわけですよ。
柳瀬 軍拡競争みたいなもんですね。
糸井 勝ち負けの世界に
行っちゃいけないんですよ。
柳瀬 なるほど(笑)。
糸井 勝ち負けじゃないんです。
「あい親しむもの」なんですよ。
柳瀬 (笑)
糸井 だから勝ち負けの概念があるうちは、
人は、いちばんお盛んなんです。
あい親しむっていうと、それこそ男どうしで
茶飲み話をしてても、親しんでいるんですし、
あらゆることが、楽しくなってきますよねぇ。

なんか、女の子のほうが、欲望については、
いろいろ企んだとしても、まっすぐな気がする。
企みがまっすぐ。
柳瀬 (笑)
糸井 「欲しいから欲しい」が原点だったりとか。
柳瀬 グチャグチャしないですよね。
糸井 松田聖子的なもので、
企みの最高峰なんじゃないかなぁ。
柳瀬 (笑)ストレートな企みですよね。
糸井 どこまでやっても田中真紀子だろう、みたいな。
柳瀬 それもストレートだ。
糸井 女の人の「嫌いなんです!」は、
いいじゃないですか。
男の場合は、
「オレはいいけど、あいつの都合が」とか、
他者が入ってこない?
柳瀬 (笑)そうそう。
糸井 「後々あいつにオレは世話になるから、
 あいつが怒ることだと、
 オレは止めといたほうがいいのであって、
 オレは、これに対しては、
 こういうことをするのはやぶさかではないが、
 あれとあれが連合したときのことまで
 考えると、こうであって……」みたいなさ。
それはもう、欲望でもなんでもない!(笑)
柳瀬 男は欲望に、
個人の問題じゃない要素を、
いっぱい入れてきますよね。
糸井 女性って自分の欲望の話しかしないんです。
柳瀬 あぁ……。
糸井 白州正子が生きていようが、
宇野千代が生きていようが、呼んでも、
きっと、いい意味でも悪い意味でも、
みんなの役に立つことなんか、
誰も言いやしないんですよね。
女子で役に立つことを言いそうな人は、ズルです。
柳瀬 (笑)「ズル」って……。

(つづきます)

2003-12-23-TUE
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