見出されたのに、
褒められない。
- ──
-
デビュー作は、京都の青幻舎さんから
出してらっしゃいますが、
これって、売り込みに行ったんですか。
- いくしゅん
- いえ、売り込みには行っていません。
- ──
- ということは、見出されたんですか。
- いくしゅん
- はい、恥ずかしながら。

- ──
-
それは、誰に、どのような経緯で?
ネットか何かに載せてたんですか?
- いくしゅん
-
ブログとTwitterには
まあまあ載せているんですけど、
もともとは、
清水穣さんという写真評論家の方が、
「おもしろいやつがいる」って
青幻舎さんに
言ってくださってたみたいです。
- ──
- すごい。清水穣さんに見出された。
- いくしゅん
-
で、ぼくが京都でやった展覧会に、
青幻舎の方が来てくださって、
その後、連絡をいただいたんです。
- ──
-
清水穣さんには、
どんなふうに褒められたんですか。
- いくしゅん
- いや、とくに褒められてないです。
- ──
- え? 見出されたのに?
- いくしゅん
-
面と向かっては褒められてなくて。
というか、
面と向かっては、けっこうメンタルを
グサグサとやられています。
- ──
- メンタルを‥‥グサグサと?
- いくしゅん
-
それが清水さんの芸風‥‥と言ったら
怒られそうですが(笑)、
そういう評論のスタイルなんですよ。
とにかく手厳しいことで有名で。
出版社には紹介してくださいますし、
清水さんのキュレーションで
展覧会に誘ってもらったりもしますが、
まともに褒められたことはないです。
- ──
- そうなんですか。
- いくしゅん
-
褒められたいわけでもないんですけどね。
デビュー作の出版記念イベントのときは、
「この本が届いた瞬間ガッカリしました」
からはじまって、
ぼくの写真のどこにガッカリしたのかを、
皮肉まじりに淡々と批評されました。
それも、たっぷりと時間を使って(笑)。
- ──
- ご本人の目の前で。
- いくしゅん
-
お客さん全員シーンとなって、
会場が、お通夜か葬式かみたいな空気に
早変わりしました(笑)。
- ──
-
いたたまれなくなるんでしょうね‥‥。
そういうとき、
いくしゅんさんは、何て返すんですか。
- いくしゅん
-
フムフムと無言でうなずきながら、
わかったフリして乗り切ってます(笑)。
清水さんって、いっさい情けをかけない
冷淡なスタイルなんですけど、
切り口が独特だし、語り口も軽妙なので、
不思議と笑えるんですよね。
- ──
- ああ、だったらいいか。
- いくしゅん
-
そう、なんだか、
そういう落語を聞いているみたいな
気分になるんです(笑)。
- ──
-
グサグサやられて、その境地に(笑)。
話は変わりますけど、
聞くところによると、いくしゅんさんは、
もともと、
カメラをやってたわけでは、ないそうで。
- いくしゅん
- 幼稚園から大学までラグビーやってました。
- ──
- ラグビー? モフモフ好きなのに?
- いくしゅん
- はい。いいじゃないですか(笑)。
- ──
- でも、幼稚園からって、すごくないですか。
- いくしゅん
-
超体育会系の家系だったんです。
父もラグビーのコーチだったし、
兄も幼稚園から大学までやってました。
だから、大学を出て社会人になったら、
週末に打ち込めるものが、
何にも、なくなっちゃったんですよね。
- ──
- それでカメラを手にした?
- いくしゅん
-
ふつうに趣味ではじめたって感じでした。
でも、それまで
ラグビーしかやってこなかったんで、
高校当時に流行ってた
HIROMIXさえ知らなかったんです。
- ──
-
ガーリーフォト・ブームの火付け役とは、
まったく別の世界に生きてたんですね。
- いくしゅん
-
アラーキーと荒木経惟という名前だけは
知っていましたが、
それが同一人物だとは知りませんでした。
そのレベルです。
- ──
-
どこへ転がっていくか判らないボールを、
追いかけていた青春だったから‥‥。
- いくしゅん
-
で、土日にできる趣味を探そうと、
本屋や図書館に行って、
まったく興味のなかったジャンルの本を、
片っ端から眺めてみて、
「写真ならイケるっしょ」と思いまして。

- ──
- イケる根拠は‥‥あったんですか。
- いくしゅん
-
いえ。そのときに見た写真家の写真に、
ほとんど、魅力を感じなかったんです。
それより、ネットとかで見る、
素性の知れない素人が撮った写真の方に、
好みのものが多かった。
だから「これなら自分にもできる」って。
- ──
- なるほど。
- いくしゅん
-
それに、当時から大好きだった
「オシリペンペンズ」というバンドと、
お近づきになりたくて。
オフィシャルカメラマンぶって
友だちになってもらえないかなと(笑)。
- ──
-
いいですね。いい具合に動機が不純で。
バンド名もいいです。
- いくしゅん
-
それで24歳か25歳くらいのときに
カメラを買ったんです。
- ──
- それは、どんなカメラでしたか。
- いくしゅん
-
コンパクトデジカメで、
当時、500万画素くらいしかないのに、
もろもろセットで8万円くらいしました。
- ──
-
高い。いまだったら、
2000万画素が3万円くらいとかで
買えたりしますよね。
- いくしゅん
-
そう、「めっちゃ高ぇ!」と思って、
当時はバッテリーの持ちも悪かったから
スペアの電池も買ったら、
またそれだけで何万円とかして、
メモリーカードもめちゃくちゃ高くって、
とにかく「何もかも高ぇ!」と。
あまりカメラにお金をかけたくないので、
今は型落ちの中古デジカメを使ってます。
- ──
-
ちなみに、まわりの人たちは、
どういう反応をしてらしゃいますか。
突然、写真家になっちゃったわけで。
- いくしゅん
-
仲のいい友だちはもちろん知ってますが、
両親にも職場にも、
写真集を出したことは言ってないんです。
写真やってることさえ、言ってなかった。
- ──
- こんな取材とか受けてて平気ですか。
- いくしゅん
-
隠しているわけではないので、平気です。
親には、ちょっと前にバレてますし。
- ──
-
でも、そのことについて
ことさらに、何か話をしたりはしない。
- いくしゅん
- しないですね。
- ──
- それは、なんでですか?
- いくしゅん
-
うーん、親とはめっちゃ仲良いんですけど、
なんでだろう‥‥。
聞かれたら話しますけど、聞かれないので。
- ──
- そんな感じなんですね。
- いくしゅん
- でも「5冊買った」らしいです。
- ──
- あ、ご両親?
- いくしゅん
- はい。売り上げに貢献してくれたみたいで。
- ──
- それは‥‥親心ですね。
- いくしゅん
-
なので、この先もし親が写真集を出したら、
6冊買ってやろうと思っています。

(つづきます)
2017-10-25 WED









































