イベント「活きる場所のつくりかた」より岸由二さんのおはなし小網代は、流域思考で自然をまもり、地球の危機も考える
第3回:仕事は「水」にしてもらう。

アカテガニ人気が功を奏して、
「国際生態学会議」が開催された1990年から
わずか4、5年で、
「神奈川トラストみどり財団」の
「2,000円会員」が4,000人ほど増えました。

よく、「10万人集まりました」というような
政治的な署名をする人たちがいます。
でもあれって、同じ書面に名前だけ書くでしょ。
同じ文言で署名をしたら、
100人署名しようが、1,000人署名をしようが、
「1」って見られちゃうこともあるんです。
そこでわれわれは、
「署名しなくていいから、2,000円ください」
と言ったんです。
すると、
「2,000円で守れるんだったら」と言って
4,000人の方が入ってくれました。

単なる署名ではなく、
「2,000円を払ってでも小網代を守ってほしい」
という方が4,000人もいるということは、
神奈川県にとっても驚きだったようで、
たぶんこの事実も有力な材料となって、
県がすべての政党を説得しちゃったんです。
そして、1995年には神奈川県知事が、
「小網代の森を保全するほかはない」
という判断をします。
保全するのは72ヘクタール。
最終的には2ヘクタール分の計算間違いで
70になっちゃいましたが、まあいいです(笑)。

その後、「小網代野外活動調整会議」が中心になって、
「小網代の谷を自然と共生する
 流域思考の基地にする」
という仕事がはじまり、
2005年にはNPO法人になりました。
同年、小網代は、
国交省の「首都圏近郊緑地保全法」という
法律をつかって、近郊緑地保全地域に指定されました。
これは、都市近郊において
流域をひとつまるごと守ることができた
空前絶後のできごとだったと思います。

さらに、2010年には、
県と国が小網代の必要な用地を全部買収し、
翌年の2011年には、
開発がしにくい
市街化調整区域というものに指定して、
なおかつ「特別保全地区」という枠を
あてはめたことで、完全保全が実現できました。

2014年の夏には、
「小網代の森施設」をオープンしたのですが、
谷の中は千客万来、
去年は糸井さんたちも来てくれました。

こんなふうに素敵なシダが生えて、
アカテガニがいっぱいいます。

仕事は「水」にしてもらうので、
我々がここでやる仕事といえば、
杭を打つことくらいです。

この杭、氾濫を阻止するために
打っていると思う方もいるんですが、逆なんです。
雨水が杭にぶつかって
左右に氾濫するようにしているんです。
わざと氾濫させることで、
湿原を回復するのが目的です。
その結果、たくさんの昆虫たちが帰ってきました。
1985年に全滅したかと思われた
ニホンアカガエルも
大量に産卵をして増えています。

「小網代の森施設」のある中央の谷は、
空中から見て、20ヘクタールくらいですが、
小網代全体は70ヘクタールあるので、
あと50ヘクタールが残っています。
でも、一部のナチュラリストのみなさんからは、
「木道を作ったのがけしからん」とか、
「人を入れるなんて、どうしようもない」
と言われてます。
まだ7分の5も残っているんだし、
いいじゃないと思うんだけど。
そういう意見が合わないところは
しょうがないと思っています。

よく、
「小網代には2,000種類の生きものがいる」
と言われています。
確かにそうなんですけど、
調査したのは2001年なので、
本当は、その倍ぐらいいると思います。
土木作業が忙しいので、
いまはあまり調査してないんです(笑)。

過去40年放置され、荒れ放題となった川の
流域の自然を再生するために
保全されたのが2010年、
そこから、我々はずいぶんはたらきました。

4メートルほどもあるササを切りに切って、
崩壊寸前の斜面の木も2,000平米ぐらい切りました。
自然破壊だとか言う人もいましたけど、
伐採して2年目、見事に緑が回復しています。
小網代は岩の山なので、木を切る作業をしないと、
岩を抱いた巨木が岩ごと落っこちてくるんです。
よく、「手つかずの自然」と言いますが、
小網代のような、こじんまりとした自然は、
人間がこまめに手入れをしないと
多くの生きものが暮らせる環境を維持できない。
そういうことを理解してもらうのも、
長い長い年月がかかるんですね。

いま、調整会議がどういうことをやっているかというと、
月1回、第3日曜日の朝9時半に
三崎口駅に来ていただいたみなさんを
半日の楽しい散策とボランティアの活動に
ご案内いたします。
これと並行して、同じく第3日曜日に
30人、40人の作業員が
本格的な整備作業をすすめます。
これで、すごい仕事ができちゃうわけです。

青いビブスにカニの印がついている人は
県との約束で、1万円もらって小網代を
案内する仕事ができる人です。
で、カニの印がついていない人は労働をします。
案内をする人が稼いだお金で、
労働をする人の日当が出ています。
これが小網代の保全活動の不思議な構造です。

われわれは、現在、
年間に1,000万円規模のお金が必要で、
そのほとんどが人件費に消えます。
ガイドをしたり、ものを売ったりして
自力でも稼いでいるんですが、
それでも一番頼りになるのは
トラスト組織からの交付金です。
神奈川のトラストというのは、
支援の対象を限定した会員になれるんですが、
普通、大人は2,000円会員が一般的です。
でも、「小網代を応援したい」ということで
5,000円会員になっていただくと、
その3,000円は小網代に集まります。
同じ3,000円だったら、
岸先生たちがもらっても同じじゃない、
と思うかもしれないけど、
そうじゃないんです。

トラスト組織には、
「どこに寄付していいかわからないけど寄付したい」
というお金が集まってきます。
「うちのおばあちゃんは
 神奈川県の自然大好きだったから、
 1,000万円寄付しますね」ということも、
あるかどうかわかりませんが、
理論的にはあるんですね。
で、そういうお金を按分してくれるんです。
今、私がみなさんから直接3,000円をいただくと
それは3,000円ですけども、
「トラストに寄付して」と言って
寄付していただくと、
10,000円ぐらい分けてくれるんですね。
そのために、
われわれは一生懸命会員を増やしています。

トラストショップには、
こんなにかわいい軍手や
カニ図鑑を売っています。
軍手はいつもだと500円なんですけど、
今日はうーんと安い缶バッヂが入って
1,000円の値段がついております。(会場笑)

(つづきます)

2015-07-22-WED