イベント「活きる場所のつくりかた」より
今井紀明さん、朴基浩さんのおはなし

ひとりひとりの若者が
自分の未来に希望を持てる社会のために、今できること
第4回
「なんで若者の芽をつぶすんだろう」
否定しないことに、価値がある。
今村
しかし、ふたりとも、それぞれに
たたきつけられて、痛めつけられたのに、
よくぞ、社会に報復しようとか
思わなかったよね。
糸井
「反抗してやれ!」っていうところで、
一生送っちゃう人生だって、世の中にはあるよね。
今村
ふたりとも、十分に
そういう可能性はあったと思いますね。
今井
ぼく、これをはじめる前に、
アフリカのザンビアに行った経験があるんです。
そこは、エイズの感染率が20%もある国で。
ぼくは、そこの学校の増築を担当しながら、
子どもたちに英語を教えていました。
そのときに、ザンビアの子どもたちを見ていて、
「日本の子どもたちの方がまずいな」という
感覚を持ったんです。
なんか、日本の教育っておかしいし、
なんとかしたいなと思って
動きはじめたのが、2010年です。
で、2012年に商社マンとして働きながら、
いろいろ学校の現場を回りはじめて、
そして、このNPOを立ち上げたんです。
ぼくたちが、
「なぜ若者の支援をしたい」と思ったのか。
きっかけになったことがあるんです。
それは「APUでさえ」っていう、
悔しい思いなんですけど。
糸井
「APUでさえ」?
大学4年生が、1年生見て言うんです。
「今年の1年、微妙じゃね?」って。
「お前、1年生と話したの?」って聞いたら、
「いや、話してないけど、なんとなく」って。
ぼくは、こういう雰囲気が、
もっと広い意味で、
社会を取り巻いているな、と感じていて。
「今の若者は」「今年は」って‥‥。
若者つぶし、みたいなものが、半端なくあって。
「なんで芽を潰すんだろう?」と。
それがすごく悔しくて‥‥。
1年生と話して「みんなが主役だよ」って言うと、
彼ら、いろんなこと話すんですよ。
「いいじゃん、それやってみたら?」って言ってたら、
ほんとに、世界一周に行った人がいたり‥‥。
今井
あれ、すごかったよね。
本当に1年生の変化が半端なかったんですよ。
そんなふうに変化がすぐに見えたのは、
「それまでにずっと否定されていた
 文化があったからだ」ということに気がついて。
甘い、って言われるかもしれないですけど、
否定しないことからはじめることが、
すごく価値があるなって感じたんです。
糸井
若者つぶし、っていうところで言うと、
なんかこう、見方の癖みたいなものが、
文化として、ついているのかもしれないね。
ちょっとでも不安があるとイヤというか、
埃がひとつあったぞ、みたいな。
不安をなくすには、ゼロじゃなきゃダメ、っていう。
そうですね。
ある意味、潔癖文化じゃないですかね。
糸井
潔癖文化だね。
日本って本当にきれいじゃないですか。
ちょっとでも不完全とか、人よりちょっと違うと、
そこを平らにしようとしますよね。
みんな横並びがいい、っていう感じになるので、
ちょっと出ているやつがいると、
「すごいな」じゃなくて、
「あいつなんか調子のっていない?」とか。
もうちょっと普通にほめたり、
素直になれよ、と思うんですけど。
糸井
うん、うん。そうだね。
それはそうと、ケンカ強そうだね、君。
会場
(笑)
ケンカはしません。暴力は絶対しません。
今井
昔はしていたみたいですけどね。
会場
(笑)
昔の話は長くなるので、話しませんけど。
対立では何も生まれないって、
子供のころに学んだので。
間違ってるものには、
「間違ってる」と言うだけですよ。
好きな人には愛をそそぐ、それだけです。
糸井
いや、朴くんを味方にしたら強いよね。
会場
(笑)
今井
そうですね。本当に、支えになってくれて。
糸井
そうだよね。
偶然ですね、彼に出会ったのは。
ぼくがAPU入ってなかったら会っていませんし、
彼もたぶん、ずっとひきこもっていましたし。
ぼくも在日であることを、
ずっと自分で責めていたと思うので。
ほんと、偶然だけど、よかった。
逆に、偶然のせいで、人が命を奪われたり、
ニートになってしまうのは、違うと思ったので、
ちゃんと仕組みを作りたいと思うんですよね。
糸井
今は起業して、経営者なわけだけど、どうですか。
今井
本当にお陰さまで、
2014年度になってようやく軌道に乗ってきて。
2013年から、黒字化はしているんですけど。
糸井
おぉーーー。
今井
やっぱり賛同してくれる人が、
増えてきたのが大きいと思います。
今年は15の企業が
スポンサーになってくださっています。
なぜお金をもらっているかというと、
みなさん、たとえば公立学校で
10回ぐらい授業をするとして、
いくらもらえると思います?
学校がうちに払ってくれる、授業の対価として。
糸井
うん、うん。授業ひとコマね。
きっと少ないんだろうな。
思い切り当てにいって‥‥4000円。
今井
(笑)ほんと、それぐらいですね。
1回当たりじゃなくて、10回の授業で、
2万とか3万とかなんですよね。
糸井
そこで採算をとるのは、難しいね。
今井
教育委員会もお金がないし、
教育系の予算は減らされていると。
そんな中で、寄付をしてくれたり、
社員を出して協力してくれたりする
企業さんが増えてきたんですね。
企業って今、人手不足なんです。とくに地方は。
一方で、20歳以上のひきこもりやニートが、
今100万人ぐらいいる、といわれています。
だから今、働いてくれる人材が増えたら
ありがたい、というふうに考えている
経営者の方が多いんです。
そういう方々が、うちに賛同してくれています。
今村
いや、それは社会として、
本当にありがたいんですよ。
働かない若者が大量に生まれるということを
改善しようとしているっていうのは。
糸井
働く人の数として
マイナスがプラスになるわけだもんね。
今井
で、難しいのが、20歳以上の支援に対しては、
たとえば、国がお金を出している相談機関として
サポートステーションがあるんですけれど、
自分から、そこに来た人に対してでないと、
支援するにしても、なかなかリーチできないわけです。
でも、通信制とか定時制の高校の場合、
すでに授業に通っているので、リーチできるんです。
ニートやひきこもりになる、直前のタイミングで。
糸井
あ、そうか。
社会に出る前の、最後のセーフティネットが
高校になっているんです。
ぼく、日本の高校教育すごいと思っています。
世界中、どこを探しても、中学から高校に
98%進む教育システムなんて、ないんですよ。
だからみんな、ほぼ義務教育的に行くんですけど、
高校で何かしらあって、ドロップアウトしたり、
なにか問題が起きてしまう、というのであれば、
この最後のセーフティネットで、
ぼくらがアプローチできたら、と。
それで、ぼくたちの活動のターゲットは、
絶対に高校だって、決め撃ちしているんです。
今井
通信制、定時制高校をターゲットにしているのは
今、たぶんうちだけで。
最初はやっぱり、大変な分野というか、
儲からない分野だと思ったんですが、
それが少し、動いてきたっていう感じですね。
糸井
ふたりはものすごく個性も強い、
元気のいい人たちなんだけど、
組織になると、手伝いをしてくれる人が増えて、
枝葉ができて、全体がツリー構造になりますよね。
その人たちに対して、
「俺たちってこうじゃない?」って、
どうやって、考えを共有してるんですか。
今井
まだ少人数だからできるんですが、
共通のビジョンでまとまっていると思います。
「ひとりひとりの若者が
 自分の未来に希望を持てる社会」
この部分で、つながっていると思います。
糸井
そうすると、今、授業を受けている子たちが、
いずれはここに就職する、というのもある?
今井
現実的に、すでに卒業生が、
うちのサークルで活動していたり、
インターンをやっていたりしています。
糸井
ああ、そう。
そういうものなんだね。
今村
自分が受けた教育を、
今度は後輩にしてあげたい、っていう。
糸井
このふたりが、もう、そうだもんね。
今村
そう、そう。
APU(立命館アジア太平洋大学)の卒業生としてね。
だけど在学中、地域の人たちとのかかわりも、
彼らはすごく利用しているんですよ。
糸井
別府温泉ね。
別府温泉っていいんですよ、あのね。
やくざ者が流れついてもいいような場所なんで。
会場
(笑)
今井
だから、ぼくらも流れ着いたんですよ。
ぼくらのような、
社会不適合者がいてもいいよと。
さらに、山の上で隔離される
(APUの校舎は別府の山の上にある)ので、
まぁ、勉強するしかないんですよ。
今井
ぼく、21歳でAPUに入っているんですけど、
高校出てから2年間、ほぼ何もやってなかったんです。
そしたら高校の元担任が、
このままだとぼくがニートになると思って、
APUの願書を持ってきてくれたんです。
片岡先生という人です。ありがたかったです。
だから本当に流れ着いたっていう感じで。
ぼくもたまたま彼女がいた、っていう理由だけで。
ぼくが入ったら、卒業しちゃったんですけど(笑)。
ちなみに、ぼくは一度もAPU行ったことないのに、
入学を決めました。入学式も行っていないんです。
ほんとうに「流れ着いた」。
でも、おもしろかったですよ。
糸井
へぇーー(笑)。
‥‥あ、時間ですね。
今日はさ、「スポンサーはAPU」って言いたいよね。
あとで集金に行こうか。
会場
(笑)
(今井さんと朴さんのおはなし、
 「ひとりひとりの若者が
  自分の未来に希望を持てる社会のために、
  今できること」はこれでおしまいです。
 ありがとうございました。)

2015-07-07-TUE