「池上彰」という新しい職業。 「池上彰」という新しい職業。
キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
第4回 「公定歩合」はもう言わないよ
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糸井
池上さんは特番をよくされていますが、
すごく上手だなと思って見ています。
『週刊こどもニュース』と方法は似ていますが、
解説する相手が、子どもではなくてタレントさん。
タレントさんっていうのは、
自分のことを「バカだ」と言ってもいい
頭のよさを持っているんですよね。
池上
そう、そうなんですよ。
糸井
もしも一般の人を呼んじゃったら、
さっき解説いただいた逮捕状の話でも、
「私は知ってますけどね」みたいな顔をしそうです。
でも、タレントさんは「私はバカです」と言える。
その大発明を池上さんがやっているなと思って。
池上
「芸人さんを集めて番組やりましょう」というのは
テレビ局のプロデューサーの発想なんです。
私が『こどもニュース』をやっていたときに、
もっと大人に近いニュースもできないかなって
思っていたことを汲んでくれまして。
NHKのラジオ英語にたとえると、
私がやっていた『こどもニュース』は『基礎英語』で、
7時のニュースがいわば『英語会話』です。
『基礎英語』と『英語会話』の間って、
ものすごく間があるでしょう?
そこを埋めるものが必要じゃないかと思いまして。
『こどもニュース』は小学生向けだけど、
高校生や大学生向けのティーンズニュース番組が
あるべきじゃないかと言っていたんです。
でも、NHKでは全然採用されなかったんですよね。
糸井
若い人で番組を分けるのは、
確かに難しそうですね。
池上
私がテレビ朝日でやっている番組では、
芸人さんを聞き役にしたことによって、
結果的に、小学生から大人まで
みんなにわかってもらえるような
解説ができるようになったと思っています。
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糸井
ひと昔前までは、お年寄りがなんでも
知っているように振る舞っていましたが、
昔とは価値観が変わっているから、
お年寄りも知らないことが増えていますよね。
いろんなことを知ってきたつもりでも、
ぐるっと回って知らないことばかり。
「ええっ、そんなことになってんの?」
みたいなことがありますよね。
池上
いろんなことが変わっていますからね。
『こどもニュース』をやっていたときにも、
こんな出来事がありましたよ。
私が日本の年金制度について説明したんです。
「若い人たちが納めた年金の保険料が、
高齢者の年金として支給されます」とね。
そうしたら、抗議の電話が殺到しまして、
「俺たちは若い者の世話になんかなっとらん!」
「我々が若い頃に納めた保険料で
年金をもらってるんだ!」と思い込んでいた。
たしかに、年金制度が始まったときは
その通りだったんです、本当にね。
糸井
そうでした、はい。
池上
それではとてもダメだよって
途中で年金制度が変わったんですよ。
でも、彼らは変わったことを知らない。
制度が変わったことを知らないままで、
「間違ってるぞ」と文句を言うんです。
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糸井
若者と高齢者との間に
人数の違いがあったからですよね。
池上
ええ、そうです。
あるいはね、日銀が金融緩和をするときに
「政策金利を低くしました」と話したら、
「なんで『公定歩合』って言わないんだ!」
と抗議の電話がかかってくるわけです。
糸井
あっ、それはぼくにもわからないです。
池上
今はもう、「公定歩合」を使っていないんです。
糸井
言葉自体が変わったんですか。
池上
いえいえ、言葉の問題だけでなくて、
「公定歩合」って仕組みがなくなったんです。
糸井
あっ、そうなんだ!
もうちょっと教えてもらえますか(笑)。
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池上
それでは、ちょっと解説しましょうか。
たとえば住宅ローンを借りるときに、
金利が何パーセントって言いますでしょ?
ひと昔前までは、
「日本全体の金利をこれより低くしなさい」
という基準を日本銀行が決めていたんです。
糸井
はい、はい。
池上
公定歩合の「歩合」というのは、
一般の銀行が日銀から
お金を借りるときの金利のことなんですよ。
銀行は日銀からお金を借りるときに
国債などを担保に差し出してお金を借ります。
その利率のことを、古い言葉で歩合という。
だから「公に」「定めた」「歩合」で、
「公定歩合」と言いました。
糸井
公定歩合。
池上
日銀が決めた公定歩合に基づいて、
各銀行の金利を決めていたんです。
ところが「金利自由化」というのが行われた。
銀行がいくらでお金を貸すかを
お上が決めるのおかしいよ、という話ですね。
それぞれの銀行が自由に
金利を決められることになって、
公定歩合って仕組みがなくなったんですよ。
糸井
公定歩合そのものがなくなったんだぁ。
ということは、
金利のコントロールが難しくなったんですか。
池上
ちょっと複雑にはなりました。
さて、現在はどうやって
金利をコントロールしているのでしょうか。
こちらもお話をしましょうか?
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糸井
ぜひ、いってみましょうか。
池上
みなさんは、お金を銀行に預けていますよね。
そのお金が銀行の金庫で
大事にしまわれていると思い込んでいる人たちが、
いっぱいいるんですよ。
糸井
あ、ぼくも思ってます。
池上
各銀行は、必要最低限の現金だけを置いて、
あとのお金で国債を買ったり、
いろんなところに貸し出したりしていて、
手元に現金をあんまり残していないんですよ。
そうするとね、突然大口の預金者から連絡があって
「ちょっと急に10億円必要になったんで、
明日10億円を用意してくれ」と言われるわけです。
ところが銀行からしてみると、
「えー、手元には1億円しかないよ。
9億円足りないぞ、どうしよう!」
そんなときに銀行同士でお金の貸し借りが行われます。
糸井
はあー。
池上
一方で、他の銀行にしても、
突然10億円の預金があるかもしれませんよね?
とりあえず10億円が手元に入ったけれど、
これを金庫に置いておいてもしょうがない。
でも、他の銀行にお金を貸せば収入になります。
ということで、銀行同士でお金の貸し借りを行う
「コール市場」というのがあるんです。
糸井
コール市場。
池上
コールは、英語で「呼ぶ」ことですよね。
「おーい、金貸してくれ!」とコールすれば、
すぐにお金を貸してくれて、
「おーい、金を返してくれ!」とコールすれば、
すぐにお金を返してくれる。これがコール市場です。
お金を借りたい銀行が多くなると、
需要と供給の関係で、金利は上がりますよね?
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糸井
はい、そうですね。
池上
金利って、要するにお金の値段のことですから、
需要と供給でお金の値段が上がるんです。
お金を借りたい銀行がいっぱいあれば、
金利は上がるわけですよ。
じゃあ日本銀行が何をやってるのか。
日銀は、各銀行が持っている国債を買うんです。
そうすると、「日本銀行券」というお札を発行して
銀行に渡すから、銀行の手元に現金が積み上がる。
「現金があればお金を貸してやってもいいよ」
という銀行が増えて、金利は下がります。
日銀は毎日そうやって金利の動向を常に見て、
どれだけ国債を買うか決めているんです。
糸井
国債っていうのはつまり、
「お金市場のお金」なんですね。
池上
そういうことですね。
金利をどれぐらいにしようかって目安を、
日銀として決めているんです。
これが「政策金利」というものです。
その政策金利が今はほとんどゼロになり、
さらには、マイナスにまでなった。
糸井
公定歩合みたいにわかりやすいことではなく、
もっとややこしいけれども
コントロールできているんですね。
池上
そうです、そうです。
糸井
はあー、勉強になりました。
(つづきます)
2018-12-01-SAT