楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
第17回 それは運。
糸井 これも『天才!』に書いてあったんだけど、
スポーツ選手には4月生まれが多いんですね。
それは単純で、3月生まれの子とは
初めから1年の差があるわけで、
スポーツチームは、背がでかくて、
先に進んでる子からピックアップして
選手を作るんですよ。
で、彼らのやってる練習っていうのが、
下の子はできないんですよ。
下手したら球拾いですよね。
で、球拾いは野球がうまくならないんですよ。
うんうんうん。
糸井 だから、プロフットボールの選手とか、
みんな4月、5月生まれなんです。
ていうことは、才能じゃなくて、
そこでの巡り合わせじゃないですか。
ふうん。
糸井 おもしろいでしょ、ちょっと。
うん。10月生まれのぼくとしてはなんか。
糸井 10月生まれ不利ですよ。ぼくは11月ですけど。
よく、よくね。
糸井 よくここまで。
よくここまで。
糸井 しのいできましたよね。確かにそうですよ。
だって、3月生まれの子は
1年上のお兄さんと机並べてるんだから、
「バカ」って言われたらお終いですよね。
ぼく、徒競走で4位以上になったことなくて。
糸井 ああー。
もうそもそも無理だろうっていう
負け犬根性って言ったら変ですけど、
ちょっと思いましたね。
糸井 無理だろうっていうのはすごいよね。大きいよね。
運動神経なんかでも怪しいんだよ。
あの役者は天才で、っていうのも、
ほんとは、わからないんだよ?
その人が自分を強く、
誤解した結果かもしれないんだよ。
(笑)で、今相当無理してやってるのかもしれない。
糸井 でも、そこまで含めて運命だからね。
あと、ある意味で運命は変えられるんですよね。
松井秀喜は左バッターじゃないんですからね。
そうなんですか。
糸井 右利きですからね。
あんまり飛ばすんで、ガラス割っちゃうんで、
「お前左で打て」って言われたのが原因ですからね。
じゃあ、あれは、拘束具なんだ、彼にとっては。
糸井 そうだし、あと、鍛えた脳ですからね。
だから、スランプ長いんですよ、あの人。
はぁー。
糸井 一旦間違うと、自然に戻るのは
ものすごく難しいんですよね。
はぁー。イチローは?
糸井 イチローは、バッティングセンターで
練習してた人なんで、
ものすごい時間の修練を積み終わってるんですよ。
へ〜え。
糸井 ものすごい高速の球を、
小学校の時から打ってたんですよ。
へーえ。
糸井 で、それが、積算で10,000時間になった時に、
ある水準に達するらしいですよ。
へーえ。
糸井 それは吉本隆明さんが言ってる
「10年間」なんですよ。
なんでも、10年続ければものになるっていう、
その10年間。
なるほど。
糸井 3時間ずつの10年間と、
10,000時間は同じなんですよ。
ビル・ゲイツは、コンピューターが珍しい時代、
使用料1時間あたりいくらみたいな
高いお金取られる時代に、
ただで使えるラッキーを手に入れてる。
ビートルズはハンブルクで
8時間ぶっ通しで演奏しろ、みたいな
こき使われ方してる。
で、それのおかげで10,000時間になってる。
ふうん、ふうん。
糸井 ていうようなことがね、
『天才!』っていう本には
いろんな章立てに書いてあって、
全部まとめると、そいつのせい以上に
なんかあるよねっていう話。
だから、助監督には、
監督になれないっていうような
言い方もできますし。
いいからやれっていうことですよね。
いいから、まず監督してみろって。
糸井 自分が社長になったつもりの人
ばっかりの会社は、強いですからね。
ここで搾り出さなきゃっていう時の本気さとか。
俺には無理だっていう人が集まってたら
何もならない。
「いいよ」って言われたらどんどんいきますね。
うまくいく現場ってそうですよね。
糸井 任天堂の岩田さんも
そういうことを意図的にやったんだよね。
社長の直属の場所を作って、
すぐ答えの出るDSのソフトを作り始めたわけ。
すぐ答えが出ると、
「できる!」っていうので力が付いて、
山がひとつできる。
大きなソフトで売り上げている大きな山ひとつ、
だけでなく、小さな山を増やしていった。
そうやって、働ける現場をたくさん作ったんですよ。
それは意識的にやったんです。
へ〜え。
糸井 やってみてできたっていう経験がその人を育てるわけ。
だから、ピックアップされない限りは、
やっぱり「いつかお前もな」っていうのは、
やっぱりだめなんですよ。
うん、うん、うん。
糸井 それはもうね、お金で釣ってもだめだし、
地位で釣ってもだめで、
やっぱり「できた、完成した」喜びなんですよね。
現場勝負っていうことですよね。
糸井 「いいね」って言われたり、
自分がいいねっていうものが重なったら、
何がいいかがわかるしね。
あぁー。
糸井 ぼくが最初に入った会社は
入った日に先輩から
「実はぼくは今日辞めるんだ」って言われて。
それで新人もへったくれも、
1回も仕事したことないぼくは、
しょうがないから、
コピーライターになったんですよ。
(笑)。
糸井 それは運ですよね。
そうですね。
糸井 先輩の方法を「ずっと見てなさい」、
「俺と同じように書いてごらん」だったら、
俺はこんな生意気な人間にならなかったと思う。
ぼく、劇団に入った瞬間に、
劇団で上の先輩たちが喧嘩して
みんな辞めちゃったんです。
糸井 (笑)。
2年目で、ぼく、劇団の
トップクレジットになっちゃったんですよ。
糸井 よかったね(笑)。
そういう意味ではよかったです。
糸井 よかったですよね。
だから、なんかこう、
頭にあるものを奪っちゃったほうが
伸びられるんじゃないですかね。
ですかね。
糸井 だって、実際俺、弟子にはものすごくきつくて、
社員には全然厳しくないもん。
弟子だと思うと、そんなんじゃだめだ、
と思うんですよね。でも社員だと思うと、
「頑張れば」なんですよね(笑)。
へーえ。
糸井 これはもう全然違いますよ。
だから、映画界とかは、嫉妬とかさ、
せっかくここまで来たとか、
いろんな要素が渦巻くから難しいですね。
でも、そうじゃない作り方をする人は
どんどん出てるんですよ。
あと、メインでないところで育ってますよね。
だいたいね。
社長が得意じゃないところが育ちますよ。
おもしろいですよ。
おもしろいですね。
糸井 堺くん、また、会いましょう。
またいつ会えるかわからないと思うと、
いろんな話聞きたくなっちゃう。
糸井 暇を作りなさい。
はい。
糸井 ありがとうございました。
ありがとうございました。


(おしまい)

2009-09-08-TUE

 

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN