楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
第3回 南極の裸、乱暴者の剃髪。
糸井 あえて言えばさ、
堺くんが髪が伸びていったのが
すごくおもしろかった。
ふふふ(笑)。
糸井 (笑)それは笑うところじゃないんだけど。
ああいう辺りの、台詞に描けない芝居?
ボディそのものの芝居?
そうですね。
料理も、最初すごく丁寧に作ってるんだけど、
後半もうガチャガチャのグチャグチャにするっていう、
あれは、随分最初から言ってましたね。
糸井 で、気が付かない人はわからないと思うよ。
ああ、かもしれないですね。
もっとワイルドにしようかなと思ったけど、
やっぱりね。
糸井 それはしちゃだめだよ。
あのくらいじゃないと。
だめなんですね。
糸井 堺くんが、「ここは芝居していいんだね」
っていう感じになるシーンが
ひとつだけあるでしょう。
涙を流すシーンがある。
はい(笑)。
糸井 具体的になぜ涙を流すのかは
描かれていないんだけれど、
そこはお客さんが自分で作ればいいんだよね。
飯島 最初の台本にはもっとわかりやすく
そのシーンの背景が描かれていたんですよ。
それを、外したんです。
糸井 それは監督に勇気があるね。
あんなに泣くとは思わなかったもんね。
そうですね(笑)。
あそこは、唯一、芝居ができる、
主張のできる場所だったんですよ。
糸井 あそこは、芝居していいんだよね。
監督はそれを許したんですよね、つまりね。
ですよね。そうですね。
糸井 監督は、本人はすごく照れ屋なのに、
他人には「照れないでやってください」
っていう注文をしてるんですよね。
で、本人は照れてるんでしょうね。
糸井 ね。試写会の舞台挨拶も、
ぜんぜんしゃべれないんだ。
それでひとりでクスクス笑っちゃうの。
現場でもひとりでクスクス笑ってる
タイプの監督でした、沖田さんは。
糸井 お〜お(笑)。
ずっとそうでした。
糸井 で、その言葉にできなさが、
言葉にならないギャグの使い方っていうか、
映画のなかのおもしろいところを
いっぱい作ってるんで。
あえて言えば、フィンランド映画の、
アキ・カウリスマキとか。
そう、アキ・カウリスマキはそうですね。
糸井 ねえ。
似てる感じがしましたね。
糸井 それから、アメリカだと、コーエン兄弟の
『ビッグ・リボウスキ』だって、
俺は言ったんですよね。
ボーリング場で、ただ、ボーリングしてるシーンとか、
会話そのものじゃないところに話があって。
で、そういう影響を受けてる人かはどうか知らないけど、
ぼく、それはそれで育つといいなと思って。
演劇の世界のほうがちょっと先に
その流れは来てるのかもしれないですね。
糸井 あ、そうか。
うん。200人ぐらいの小さな小屋(劇場)で、
この南極の食堂のセットだけ作って、
そこに出入りする一幕ものって考えると、
すごくこう、“読めた”んですね。
その演出と作品の関係とか。
糸井 あぁー、なるほどね。
結構そういう時って
演技しやすかったりするので。
糸井 みんなまた慣れてる人同士だしね。
芝居しすぎると、やっぱりだめなんですよね、
きっとそういう時ってね。
どこかで抑制していかなきゃいけなくて。
糸井 解決しないっていう自信みたいな。
エピソード1個ずつ、
「あれ、どうなるんだろう」
とお客はいつも思ってて、
解決を求めちゃうんですよね。
でも『南極料理人』にはそういう答えはない。
喧嘩のシーンのあと、
仲直りのシーンはないわけです。
だから「それ、どうなったんだよ」って言われると
困るんですよね。
でもその辺りの放り出し方は、
知的だな、というか。
そうですね。
わかりやすいストーリーを繰り返すっていう
前提があるから、
エピソードを所々摘むことが
可能だったんでしょうね。
糸井 ぼく、南極じゃないけど、
北極に近い零下35度みたいな所は行ったことあって。
外に出るっていうことは、
そのまま「死」だっていうことを知ってるんですよね。
うんうんうん。
糸井 だから、そのリアリティーはすごくありました。
で、こいつら(観測隊員)慣れちゃってるから、
すぐ外に出るじゃないですか。
ふざけてたら死ぬんですよね、本当はね。
そうでしょうね。だけどね、
この南極の人の話を聞きに
極地研(国立極地研究所)に行ったりとか、
資料を見るんですけど、
裸の写真ばっかりなんですよ。
なぜ人は裸になりたがるんでしょうね、
こういう所で。
記者の方が実際南極に行かれて、
本も出してるんですけど、
なんのかんの言って脱いでるんですね、男は。
糸井 よくわかる!
あれ、なんでしょうね?
糸井 なんでしょうね。
(笑)試したいんでしょうかね。
糸井 ダイナミックレンジみたいなものを
確かめたいんですかね、人間の。
生きてるっていうことを?
糸井 すごい乱暴な人は頭を剃るじゃないですか。
ツルツルにして脅かすっていう
意味もあるんだろうけど、
あれって、攻撃に対して弱くなる、
っていうことじゃないですか。
だから剃った分だけ俺は強いんだ、
っていうことじゃないですかね。
両手ブラリの、ノーガードができるという?
糸井 ブラリですよ。裸になるの、よくわかりますよ。
俺も、なんかそういうふざけ方したくて
しょうがなかったもん、北極圏にいる時に。
二重窓を無理に開けて、
茹であずきを外に出すんですよ。
で、慌てて閉めて、
外回って行って取りに行くと、
氷小豆になってるの。


(つづきます)

2009-08-19-WED


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN