第3回 「文脈」を「データ」に。

伊賀さんは、
マッキンゼーではたらきたいという人にとって
「窓口」というか、
「スフィンクス」だったわけですよね。

糸井

今、「絵」が浮かんじゃいました(笑)。
自分が「スフィンクス」になった絵‥‥。

伊賀

会場:(笑)

糸井

つまり、すごく「心」が重要なんだけど、
実際はクールに切っていく必要がある。

糸井

今の話で思い出したんですが、
毎日毎日、何十人という人に会っていたので
「この人は、どんな人だったか」
ということを、
合間の5分か10分で記録を付けてたんです。

ときには似顔絵を描いたりして‥‥
そうしないと、覚えてられないんですよね。

伊賀

なるほど。

糸井

で、その記録をつけるときの5分や10分って
自分の「モード」がぜんぜん違うんです。

つまり「数字」のモードに入るんですよ。

伊賀

わあ、おもしろーい(笑)。

糸井

ゲームで言うと「セーブの時間」なんです。

伊賀

つまり記録というものは
あんまり「文学的」じゃあ困るわけだ。

糸井

そうですね、客観的でないと。

伊賀

面接で直接やりとりしてるときには
いわゆる「文脈」で話してるわけですけど。

糸井

ええ。

伊賀

記録をつけるときには、「文脈」じゃダメ。

糸井

志望者の方をお見送りして
「ありがとうございました」のところまでは
対人ロールプレイモードなんですけど、
次の瞬間からは、レコーディングタイムです。

そこで、いったん頭の切り替えをやらないと、
次のロールプレイにも響きますし。

伊賀

1回リセットするわけですね。

糸井

マッキンゼー担当者にはじめて会うという
新鮮な気持ちで来てるのに
私が引きずっていたら失礼じゃないですか。

またゼロから「こんにちは!」のモードに
入っていくためには
あいだに「セーブタイム」が必要なんです。

伊賀

記録って
デジタル化ということによく馴染みますけど、
会ってやり取りをしないと
そのデジタル情報さえも掴めないわけですね。

糸井

それは、そうです。

伊賀

質問事項が整然と「一覧表」になっていて
そこに「マル/バツ」をつけたら
面接終了です‥‥じゃないわけですものね。

糸井

ひとりひとり、同じことは聞かないので。

伊賀

質問事項というのは
伊賀さんの頭で整理分類されてるんですか。

糸井

いや、直感的なんですけど‥‥。

伊賀

おもしろいなあ(笑)。

糸井

学生さんたちって
一生懸命にリクルートスーツを着て来るんですが、
たとえば、
女の子が髪の毛を後ろでキュッとひっつめてると
「ねえねえ、
 髪の毛はいつもそんなふうに縛ってるの?
 それとも、今日だけ?」
みたいなことを、聞きたくなるんです。

そんなところから入っていくので、
ひとりひとり、聞くことがちがってくるんです。

伊賀

直感というか‥‥アートですね。それは。

糸井

そうしないと、こっちも飽きちゃうので。

伊賀

そうか、
自分の動機を維持するためでもある、と。

糸井

そう、そうなんです。

たとえば、
「マッキンゼーを志望する動機を教えてください」
だけなら、機械が聞いてもいいわけです。

でも、面接の場で
「このひっつめ髪は今日だけですか?
 すごい上手ですよね」
という会話ができるのは人間だけなんです。

伊賀

うん、なるほど。

糸井

気持ちもほぐれますし、
いつもどおりに話そうかなという感じにも
なると思うんですよね。

伊賀

それ、もう「テクニック」を超えてますね。

明らかに
「自分のためにも、そうやってる」ことが
とってもよくわかるので。

糸井

自分のためでもあり、
志望者のためでもありますよね。

伊賀

でも、いまのやり方がマニュアル化されて、
ビジネス書に
「ひっつめ髪が来たら、そのへんから話すべし」
みたいに書いてあったら、
「なに言ってんだよ」って思いますでしょ?

糸井

ええ、そりゃそうですよね(笑)。

伊賀

その時点で「駆け引き」になりますからね。

そういうものが
いちばん世の中をつまんなくしてると思う。

糸井

自己PRって、あるじゃないですか。

自分はいかに素晴らしい人材かということを
5分くらいにまとめて話すんですけど、
面接の場で
「自己PRしていいですか?」
って聞いてくる学生さんがいるんです。

伊賀

へぇー‥‥。

糸井

「していいですか?」と聞かれると
どうしても
「うーん、あんまり聞きたくないんだけど、
 そんなにいうんだったら聞くよ」
という気持ちに‥‥。

伊賀

わかります(笑)。

糸井

なってしまうんですけど、
たとえば、素晴らしいPRをした学生さんに
「どのくらい練習したの?」と聞くと
その部分は、みんな素直に答えるんですね。

「あ、15回ぐらいです」とか。

伊賀

なるほど。

糸井

「その15回は、鏡を見ながらやったの?
 それとも誰かに聞いてもらった?」
とか、
「お友だちのアドバイスは役に立った?」
とか、
そういうことを質問していくんです。

そうすると、ふだんどおりに話せるから
どんな人かが、よくわかるんです。

伊賀

その部分も、デジタルデータになるんですか?

糸井

ええ、ちゃーんとなりますね。
書いておかないと、わからなくなりますから。

伊賀

そうか‥‥そうですよね。

糸井

その志望者が、どんな人だったかを
ビビッドに記録して、
後から面接するコンサルタントに繋ぐことが
私の仕事なので。

伊賀

でも、そこを探るのは「ふだんの会話」だと。

糸井

はい。

伊賀

<つづきます>
2013-09-02-MON