名脇役の伊藤雄之助さん。
映画に出てくる伊藤さんはすごいですよ、顔ヂカラが。
画面に出るだけで匂い立つ、顔ヂカラ。
顔のインパクトだけで言ったら、
ナンバーワンじゃないでしょうか。

本の内容は、タイトル通り、文句です。
基本的に文句。
世間に対する文句、社会に対する文句ですね。
こんなことよく書けたなというくらい、
当時の映画界の悪口も言ってます。
あまりにも文句ばかりいう人だったんで、
煙たがられて一度は映画界から干されたらしいんです。
でもこの人は自分の実力でカムバックしてるんです。
簡単なことじゃないはずなんで、
すさまじい俳優だったんでしょうね、ほんとうに。

有名なエピソードがあります。
撮影が終わったシーンの自分の演技が納得できなくて、
伊藤雄之助さんは「もう一度撮り直したい」
とスタッフに言ったんだそうです。
ところが「あのシーンのセットは壊したから」
と断られてしまう。
伊藤さんはどうしたか。
自腹を切ってセットを建てさせて、
撮り直したんだそうです。
たしか100万円くらいのお金を払って。
脇役さんにとっては、大金ですよね。
でもそこまでやって、自分の我を通したわけです。
顔ヂカラもすごいし、
演技にかける情熱もすごい。
名脇役として君臨し続けた偉大な俳優です。

で、なんと、この方は三國連太郎のお友達です（笑）。
いや、これは本に書いてあったことじゃなくて、
かつて佐藤浩市さんから聞いた話なんですけど。
三國連太郎さんは強烈な人なので、
あんまり人付き合いが多くなかったらしんです。
人が家に来たりすることはないんだけど、
唯一遊びにきてたのが伊藤雄之助さんだったと。
子どもだった浩市さんは、
「おいで」って言われて膝の上にのせられたそうです。
子供心に、本気で怖かったって（笑）。
「三國連太郎と伊藤雄之助が人生の話をするんだよ？
　もうこんな怖いことはない。トラウマだよ」
とおっしゃってました。
やっぱり、怪物同士はわかり合うんですかねえ。

いや、ほんとにすばらしい顔ヂカラです。
最近の男っていうのは、
まあ、ぼくなんかもそうなんですけど、
薄くなってますよね、顔自体が。
「イケメン」って言われてる多くの男の子達って、
ぜんぜん実はイケメンじゃないじゃないですか。
髪型じゃん！
髪型でイケてるように見えてるだけじゃん！　みたいな。
イケメンと呼ばれる男たちの中に、
温水洋一さんが混じってたら、
ぜったい記憶に残るのは温水さんでしょ？
そういう人がほんとの意味で
イケメン＝イケてるメンズだと思うんです。

‥‥なんだか、
ぼくが「文句いうの助」になってますね（笑）。

じゃあ次は、萩原健一さんの『ショーケン』を。
ショーケンは、本当に大好きな俳優さんです。
70年代には『青春の蹉跌』とか『傷だらけの天使』で
最高にかっこいい人だって思いました。
あと、グループサウンズ時代もね。
テンプターズって、ずば抜けてたじゃないですか、
パフォーマンスが。
いや、ほんとに好きでしたねえ。
もちろん今でも好きです。

ちょっとこう、普通じゃないというか、
まあ、イッちゃってるというか‥‥ね？
ショーケンには
そういう印象がずーっとあったんです。
で、この本を読んで‥‥
「あ、ほんとにそうだったんだ」
って思ったのが、まず第一の感想でした。
「ほんとにやってたんだ」っていう。
そのくらい、この本では
正直にすべてをさらけだしてるんです。

内容的には、
やっぱりスキャンダラスな部分が多いです。
でも、それ以外の部分も面白い。
グチなんです、けっこうグチを書いてる。
こういうグレートな人の弱いグチって、
なかなか聞けないでしょ？　興味深いんです。
本の後半のほうでは、
「俺のせいじゃないんだよなぁ」
というようなことも書いてあって。
情けないんです。
でもそれが、人間的なかわいさなんですよね。
その感じは『傷だらけの天使』で演じていた
ショーケンそのものだと思いました。
情けなくてかっこいい。
だからやっぱり、ショーケンはヒーローじゃなくて、
アンチ・ヒーローなんですよね。
そこが素敵だなあって、ぼくは思います。

ショーケンも、三國連太郎さんといっしょで
いったん役にのめり込むと
たいへんなことになる俳優だったそうです。
カメラにうつってないところで
相手役を殴り続けるタイプ。
なのでこの本を読んで、
「あ、共演は恐いな」と思いました（笑）。

俳優って「優」っていう字が入ってるじゃないですか。
ほんとうの意味で俳優と呼べる人は
とくべつに優れた何かを持ってる人です。
何かを諦めながら、猛烈な努力をして、
自分という井戸を掘り続けた人たちっていうのが、
ぼくが抱いてる「かっこいい俳優」のイメージです。

ぼくなんか、ほんとに小さな人間ですから。
こういう本を読むと、つくづくそう思いしらされます。
好きなことにいろいろ関わりながら、
そこそこやっていければ、それで楽しいっていう‥‥。
中途半端なんです、まだまだぼくは。
そんなんじゃ、あのショーケンと共演なんてねえ。
とてもとても。

候補をね、何冊か、部屋から持ってきました。
よいしょ（本の束を置く）。
‥‥いやぁ、
ついに、これを見せる日がきましたか。

ぜんぶ俳優さんたちの本です。
これをついに、
人にお見せする日がくるとは、夢のようです（笑）。
好きなのを紹介していいんですよね？
ええと、じゃあ最初は‥‥
みなさんよくご存知の、
三國連太郎さんの本にしましょう。

『生きざま 死にざま』。
まずタイトルからして、濃い（笑）。
ぼくは三國連太郎さんという俳優が大好きで、
何冊か本を読んでるので、
どのエピソードがどの本に書いてあったのか
もう忘れちゃってるんですけど、
タイトルがすごいこれを、選んでおきましょう。

自伝的な意味でいうと、
かなり赤裸々なことを書く方なんですよ。
映画デビューしたときに、
プロフィールの学歴を偽っていたこととか。
ほかにも‥‥今ここでしゃべっても
たぶんカットされるようなカミングアウトまで
書いてしまう人なんです。
そういうコンプレックスが、自分のルーツだと。
三國連太郎という人は、
自分のアイデンティティを
どこまでも探っていく人なんですね。
親鸞に心酔して、
親鸞の映画を製作・監督までされてますから。

伝説のようなエピソードがあるんです。
まだ若いころに老人役をやることになって、
役作りのために歯を10本抜いたという。
10本ですよ？
すさまじいですよ。
あと、これはたしか、やっぱり大好きな
小沢昭一さんの本で読んだんですが、
小沢さんは三國さんに殴られて
失神したことがあるんだそうです、撮影で。
相手役を殴るときは、本気で殴る。
役にのめり込んで、気持ちが入りすぎて、
ついには、カメラにうつる位置から出ちゃって、
それでも殴り続けていたそうです（笑）。
すごいです、ケモノですよね。

「どんなに社会的に認められたとしても、
　役者としてやるべきなのは、悪役だ」
っていうことも言い切ってます。
かっこいいです、パンクです。
‥‥でも、スーさんやってんじゃん？！
って思いますけど（笑）。
『釣りバカ日誌』で優しいスーさんやってんじゃんって。

今や三國連太郎さんといえば、
『釣りバカ』のスーさんって思う人が多いんでしょう？
これを読んだらビックリしますよ。
もう、ぜんぜん『釣りバカ』のイメージじゃないから。
「裏スーさん」の恐ろしさ（笑）。
この顔ヂカラ、ほんと、すごいなぁ‥‥。

っていう話は「ぼくは」すごく幸せなんですけど、
大丈夫ですかね？
こんな濃い話をしちゃって‥‥。
いや、誰も聞いてくれないんで（笑）。
でもほんとにね、
ここにある本に書かれてある言葉は、
ぼくにとってはきらめく宝石みたいなものなんです。