あのひとの本棚。
「ほぼ日」ではときどき糸井重里が「あの本が面白かった!」とか
「これ、読んどくといいよ」と、本のオススメをしていますが、
これを「ほぼ日」まわりの、本好きな人にも聞いてみようと思いました。
テーマはおまかせ。
ひとりのかたに、1日1冊、合計5冊の本を紹介していただきます。
ちょっと活字がほしいなあというとき、どうぞのぞいてみてください。
オススメしたがりの個性ゆたかな司書がいる
ミニ図書館みたいになったらいいなあと思います。
     
第29回 小田島等さんの本棚。
   
  テーマ 「80年代ポップイラストレーションの手引きになる5冊」  
ゲストの近況はこちら
 
あんまり悩まず、直感的に5冊を選んできました。
『1980年代のポップ・イラストレーション』という、
自分が監修をした本が出版されたのですが、
その本にちなんだセレクトと言えるかもしれません。
ぼくをイラストレーターという職業へ導いてくれた、
尊敬する方々の本を5冊、紹介いたします。
   
 
 

『お父さんの
ネジ』
渡辺和博

 

『郵便ポスト・
モダン』
スージィ甘金

             
           
 
   
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これ、1986年の、その当時に買ったんですよ。
中学のときです。
中学生ですから『北斗の拳』とか『キン肉マン』を
やっぱり読んでました、周囲も読んでますからね。
学校で『キン肉マン』のワザをかけられるんですよ、
それがもう、嫌で嫌で(笑)。
「何かが違う、早くおとなになりたい、
 でもいまはキン肉マンしかしらない」という状態で。

そんなある日、本屋さんにいったんですね。
そしたら漫画コーナーのはじのはじに、
へんな漫画ばかりのコーナーをみつけたんですよ。
手に取ったのが、この本でした。
なんかねえ、妙な絵だなあと思いましたねえ。
赤塚不二夫 、藤子不二雄漫画の絵のようだし。
「郵便ポスト」って書いてあるし、
「モダン」ってなんだ?
スージィ、アマキン? って(笑)。
中学生だからよくわかんないんですよね。
でも、なぜか強くこれを読みたいと思ったんです。
「釣り竿を買う」と嘘をついて
親からお金もらって買いました(笑)。

そうして手に入れたこの一冊から、
ぼくはスタートしているんですよ。
文化への目覚めというか。
これを読みはじめてまず、
ポストモダンていうのがなんだかわかってくるんです。
いま思えば、中学生でポストモダンがわかっちゃうって、
すごい経験だったんですよね。
それで、その翌年に
アンディ・ウォーホルが亡くなるんです。
新聞とか雑誌にポップアートの情報があふれてきて、
それを切り抜いて集めたりしていました。
この本にはポップアートの解説も載ってたので、
興味をもったんですね。
本に出ていることでわからないことは、
図書館にいって調べました。
トム・ウェッセルマンとかリキテンシュタインとか。
こういう絵具で描かれている筆致は
ジャスパー・ジョーンズの引用だ、とか。
そういうことがめきめきわかってくるんですよ。

あとは音楽のこと。
この本にはロックのワードがいっぱい出てくるんです。
ロキシーミュージックがどうとか、トムトムクラブとか。
当時はMTV全盛期だったんで、
こういう国内の下世話でお洒落なイラストブックと、
深夜のピーター・バラカンの番組を
行ったり来たりするのは、ほんとに興奮しましたね。

もう、この一冊でたのしくてたのしくて。
学校にいけばまだ「アタタタタタ!」とか
北斗神拳をやられてるんですけどね(笑)。
でも、「家に帰ればスージーさんが待ってる!」
そういう中学時代でした。

それでぼく、中2のときスージーさんに会うんですよ。
原宿のギャラリーで個展をやってるというので、
学校帰りに行ったんです、学生服で。
生まれて初めてギャラリーて場所へ行くんです。
まさかご本人がいると思わないじゃないですか。
いたんですよ。
ちょうど技術家庭の授業で使った木の板を持ってたので、
「これにサインください」って(笑)。
ちゃんと描いてくださいましたよ。
もう、ドキドキで。
その場に小林克也さんと安斎肇さんもいたんです。

自分がいちばん敏感なころに、
この本に出会って、いろんな文化にどんどん興味を持てて。いや、 ほんとうに運が良かったと思っています。
そんな意味で、
ぼくのスタートになった一冊ですね。

   
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2007年にお亡くなりになった
イラストレーター・エッセイスト、
渡辺和博さんの追悼本です。
ええと、560ページですか、
とても分厚い本で、ナベゾさん(渡辺和博さんのこと)の
漫画作品の名作選のような内容で、
赤瀬川源平さんと南伸坊さんが
実際にお葬式で読まれた弔辞も収録されています。
あとは、南伸坊さん、みうらじゅんさん、
リリー・フランキーさんの座談会も。

お話がね、やさしいんですよ。
市井の人々の暮らしの細部というか、
なんでもないようなことなんですけど、
なんでもないことが、すごくちゃんと描けてるんです。
そういうのって、
できるようでなかなかできないんですよ。
でも、それでいて、何かを破壊しようともしている。
怒っているというか、
壊そうとしている気配を感じるんです。
同時に、空気みたいに通過してってもいるんですよね。

最初にナベゾさんを知ったのはたしか小学生のころで、
『笑っていいとも』に出てましたよね。
プレッピーファッションで、いつもお洒落で。
タモリさんがすごいつっこむんですよ(笑)。
そんなナベゾさんのイラストを初めてみたのは、
中学になってからでした。
そのときはすぐに反応しなかったんですよ。
「大人っぽいな」っていうか、
「おれのわかんないことだな」っていうか。
それがだんだん、だんだん、なんでしょうね‥‥
もう、時間をかけて染み込んできたんです。うん。
まだ今日も、染み込んできていますから。
‥‥なんだか、ナベゾさんのよさを、
ぜんぜんうまく言えてないですよね(笑)。
こんなに好きなのに、うまく言えないのは、
まだわかっている途中だからかもしれません。
ナベゾさんの魅力を
これからぼくはもっとわかっていくんだろうな、
っていう気持ちがありますから。

『1980年代のポップ・イラストレーション』に
ぜひナベゾさんの作品を掲載させて頂きたいと思って、
ご遺族の奥さまに作品原稿を借りにいきました。
東京の西の方のファミレスで奥さんと待ち合わせて、
作品を持ってきていただいて。
そしたら、そこで、奥さんが涙されたんです。
うちの和博の原画が山ほど家にある。
なかなか整理がつかない。
これらがいつか再評価されるような日が来るのか。
ぼくなんかに、そう聞いてくるんですよ。
それで、ぼく、
ほんとはそんなたいそうな男じゃないんですけど、
「ぼくがどうにかします」と言っちゃったんです。
奥さんになにか言ってあげないといけないって思って。
「ぼく何でもやりますから、
 引っ越しでも何でもぼく、手伝います。
 あ、そういうことだけじゃなくて、
 何かできるようがんばります」みたいな事を。
奥さんは、
「ああ、うれしい。ありがとうございます。
 なんだか今、ここに和博が来てる気がする」
って、涙されて。
ぼく、どうしようと思って、とっさに、
「あ、じゃあ奥さん、席をつめないと、
 ほら和博さん来たんで、つめてください」
そう言ったら、奥さん、笑ってくれました。

ほんとうにいつか、
ぼくの力でできる「ナベゾさんのこと」を、
企画してできたらなと思っています。

 

イラストレーター・デザイナーの小田島等さん。
CDジャケットや書籍のデザインを数多く手がけながら、
漫画や音楽などの表現活動も行われています。
「ほぼ日」で以前ご紹介した、
糸井重里作詞、ムーンライダーズの名曲、
『ゆうがたフレンド』のジャケットは、
小田島さんが描かれた作品です。


そんな小田島等さんが、
1980年代のイラストレーション・シーンの魅力を
たっぷりと紹介する一冊を監修されました。


『1980年代のポップ・イラストレーション』
小田島等(監修)
アスペクト/3360円(税込)

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手にとって、拝見してみたら‥‥。
まず、そこに収録されている
イラストレーター陣の豪華さにびっくり!
敬称略で、お名前を連ねさせていただければ、
湯村輝彦、スージー甘金、空山基、渡辺和博、上野よしみ、
霜田恵美子、鴨沢祐仁、太田螢一、蝦子能収、根本敬、
吾妻ひでお、山口はるみ、永井博、鈴木英人、
ペーター佐藤、日比野克彦、田代卓、ナンシー関。
という、そうそうたる顔ぶれ。
これだけの方々の作品が、美しいカラー図版で、
それぞれにたっぷり収録されています。
また、コラムやインタビューページもかなりの充実。
さらに、80年代イラストレーションに影響を受けた
クリエーターたち(現在、第一線で活躍の方々)が描く、
トリビュート作品も収録されいます。

小田島さんは、
「監修」という立場で、
なぜ、この本を世に出そうと思い立ったのでしょう?
まずは、その理由をうかがってみました。

「とある美大で、
 学生さんたちの前で話をする機会があったんです。
 当然イラストレーションやデザインの話になりますよね。
 それで、過去の、80年代のイラストレーションの
 話題をしはじめたら、なんか、こう、
 生徒の食いつきが急に悪くなったんです。
 急に距離ができてしまって。アレ? と思いまして。
 100人くらいの教室が水を打ったようになっちゃって。
 深く訊いてみると80年代のイラストレーションのこと、
 みなさん知識がなかった。
 で、ためしに佐藤可士和さんを知ってる人って訊いたら、
 100本の手がみごとにサーッと挙がって(笑)。
 いや、今をときめく佐藤可士和さんのことを
 美術系の学校の生徒が知っているのはもちろんのこと、
 当然なんですけど、そのギャップに驚いちゃって。
 そうかあ、知らないんだぁ‥‥。
 いまの20才くらいの子たちって、
 ネットで情報を得ることがふつうになってますよね。
 ところが80年代のイラストレーションについては、
 きちっと情報がネットにスライドしてないっていうのが
 あるんじゃないかと思ったんです。
 それならば、本というかたちで、
 動かぬ証拠をちゃんと作んなきゃと思ったのが、
 ほんとにいちばん最初のきっかけでした。
 だから学校にある図書館なんかにコレ、
 おいてほしいんです」

なるほど。
ということはやはり、若い人に向けられた本なんですね。
タイトルに「1980年代の」とあるので、
ついつい「懐かしい!」「ああ、やっぱりいいなあ~」
という気持ちでページをめくってしまいましたが、
そういうことのためにある本ではなくて‥‥?

「いえ、懐かしく感じる方は当然いらっしゃるでしょうから
 それは自然に楽しんでいただければと思います。
 ただ、ぼく自身は85年に小学校卒なんですよ。
 80年代というものを半分知ってて、
 半分知らないという状態。
 だから懐かしいという気持ちもあんまりないんです。
 なんていうんでしょう‥‥
 いま、絵を描いている若い人たちに、
 見えていないルーツを知ってほしい、というか。
 たとえば"ヘタウマ"ってことばがありますよね?
 ことばとして一般化してると思うんですが、
 これのルーツは湯村輝彦さんなわけじゃないですか。
 それを知るだけでも意味があると思うんですよ。
 いま自分が、流行や時代の空気を感じながら
 無意識に描いているつもりの絵には
 過去からの連鎖があるんだ、という‥‥。
 ですから、ある年齢から上の方には
 たしかに懐かしい本なのかもしれないですが、
 "懐古的な本"だけではないんです、
 ということはちょっと言っておきたいなあと思います。
 それから、絵に詳しい子、愛好者って、
 いる場所にはもちろん数多くいるんですよ。
 クイックジャパンなんかの読者だったり、
 クラブなんかへ行くような子だったり。
 イラストレーションに対する熱は、
 そういう子たちに手渡されたような気がしています。
 今は美大生、専門生が
 すこし弱いような気がするんですよね。
 この本では18名の作家さんの絵を紹介しましたが、
 もちろん掲載したかった方はまだまだたくさんいます。
 しかし今回は紙面の問題で18名が限界でした。
 この本をたくさんの方が手にしてくださったら、
 第2巻、3巻を出して、
 今回できなかった部分を補完していけると思うので、
 どうかひとつ、よろしくお願いします(笑)」


※このページに登場するイラストは、書籍の表紙以外、
 すべて小田島等さんに描きおろしていただきました。

 

2009-05-13-WED

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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN