あのひとの本棚。
「ほぼ日」ではときどき糸井重里が「あの本が面白かった!」とか
「これ、読んどくといいよ」と、本のオススメをしていますが、
これを「ほぼ日」まわりの、本好きな人にも聞いてみようと思いました。
テーマはおまかせ。
ひとりのかたに、1日1冊、合計5冊の本を紹介していただきます。
ちょっと活字がほしいなあというとき、どうぞのぞいてみてください。
オススメしたがりの個性ゆたかな司書がいる
ミニ図書館みたいになったらいいなあと思います。
     
第13回 荻上直子さんの本棚。
   
  テーマ 「ダメな女が主人公の5冊」  
ゲストの近況はこちら
 
ちゃんと朝起きて、しっかりごはん食べて、
という映画を撮ってはいるんですけど、
わたし自身はほんとうに、そういうのがダメで(笑)。
ばかみたいにお酒を飲んじゃったり、
朝もぜんぜん起きられないんですよ。
映画で描いているのは自分のあこがれなんだと思います。
そんなわけで、ダメなわたしが選んだのは、
ダメな女が主人公の5冊。
「あ〜、わかるわかる」って、共感できるんです。
   
 
  『袋小路の男』
絲山秋子
  『漢方小説』
中島たい子
  『デッドエンドの思い出』
よしもとばなな
  『私が語り
はじめた彼は』
三浦しをん
 

『鞄屋の娘
前川麻子

 
           
 
Amazonで購入
  『鞄屋の娘』前川麻子 光文社/480円(税込)
最後の一冊は、ダメな女が主人公と言ってしまうには
ちょっと気の毒なお話なんです。
紹介した5冊の中ではいちばんシリアスな設定なので。

主人公の女の子のお父さんが
いろんな奥さんを迎えていくんですけど、
彼女は、べつに反抗するとか、
グレて不良になるとかじゃなくて、
極めて冷静に自分の道をすすんでいくんです。
ただ、その道が、
「自分を乱暴に扱ってしまう」という方向で‥‥。
ダメなほうに身を投げてしまう、という。
育った環境のせいで、
「家庭を持つ」ことを拒否し続けながら、
それでも子どもを産んで育てていくんです。
きつい、きびしいストーリーでした。



とはいえ、淡々とていねいに描かれた、
とても良い小説だと思うので、
機会があればぜひ読んでみてください。
前川麻子さんという、舞台の脚本を書いていたかたの
みずみずしい小説デビュー作です。

結局、わたしが紹介した本は、
5冊ぜんぶが小説になりました。
やっぱり、物語が好きですね。
ノンフィクションは、あまり読まないんです。

たくさん本を読むんですね、と言われたりするんですが
じつは、わたし、うちの横が図書館なんですよ。
いい環境ですよね。
ちなみにこの5冊も、ぜんぶ図書館で借りました。
本もおすすめしたいですけど、図書館もおすすめです。
ちょっとね、いいんですよ、すごく。

Amazonで購入
  『私が語りはじめた彼は』三浦しをん 新潮社/460円(税込)
 
ある女好きでしょうがない大学教授がいて、
その教授のことをみんなが語る、みたいな小説なんです。
同じ人のことをみんなが順番にしゃべる。
でもその人は登場しないんですよ。
ある人からみれば魅力的であったり、
ある人からみれば、ただの変態であったりとか、
視点が変わって書かれているので、
同じテーマの短編小説集のようでもありました。
仕組みとしておもしろい本です。

妻、愛人、子ども、教え子の学生とか、
たしか5人くらいの視点に変わるんですけど、
わたしとしてはやっぱり、
女性たちの視点が気になったのかもしれません。
しょうがない男のことを語る女たちですからね、
ダメな匂いを感じるんです。

そうやって、読み進めるうちに、
その教授の姿がすこしずつ像をむすんでくるんです。
そうなると、最終的に自分も視点のひとつに
加わっているような感じにもなってくる。



で、自分からみて、その教授はどうだったかというと‥‥。
ダメですねえ、あまり関わりたくなかったです(笑)。
でも、読む人によっては、
好きになるかもしれませんよね。
これだけいろいろな人に語られるキャラクターですから、
ある意味では魅力的であると思うので。
「自分はどう思うか」、
視点に加わるつもりで読まれてみてはどうでしょう。

三浦しをんさんって、読むたびに
ぜんぜんスタイルがちがうんですよね。
そこがおもしろくて、好きな作家さんのひとりです。

Amazonで購入
  『デッドエンドの思い出』よしもとばなな 文藝春秋/480円(税込)
 
これは、読まれたかたも多いですよね。
よしもとばななさんの短編集。
ずいぶん前に読んだのを忘れてて、
さいきん飛行機のなかでもう一度読んだんです。
やっぱり、おもしろかった。

短編集なので、いくつか作品が入ってるんですけど、
表題作の『デッドエンドの思い出』が
わたしはいちばん好きでした。
ダメな女が主人公だったから(笑)。



婚約してる人と、ずっと遠距離恋愛で、
どんどん連絡がなくなるのに、
「ぜったいに大丈夫」って信じてるんです。
はたからみれば、
「あなたそれはもうダメでしょう」っていう状況なのに
「ぜったいに大丈夫」と。
で、会いにいってみたら
あんのじょう女の人と暮らしていたという。
ダメですよね。
そのあと立ち直るために、
バーでバイトをはじめたり‥‥。
ますますダメな感じですよね。

ほかの短編もおもしろかったんですけど‥‥
なぜか、よしもとばななさんの短編小説って
物語のこまかい部分を忘れちゃうことがあるんですよ。
この一冊もそうでした。
でも、とても濃密な時間をいっしょに過ごした
という読書の記憶はちゃんと残るんです。
ふしぎな魅力の小説家さんですよね。

Amazonで購入
  『漢方小説』中島たい子 集英社/1260円(税込)
 
これもやっぱりダメな女性が主人公です。
物語の最初、ダメ男にふられるんですよ。
ふられたその日に牡蛎かなにかを食べたら
あたって、体調が悪くなっちゃう。
ダメな展開ですよね(笑)。

でもそれから主人公の女性は、
漢方をはじめるんです。
漢方薬のお医者さんに通って、
いろいろ処方されたりしていくうちに、
だんだん自分のからだや生活を
見直すようになって‥‥。
あ、いま思えばダメなのは最初だけですね。
ダメ男にふられるところは、ダメですけど、
そのあとは、だんだんダメじゃなくなっていくので。
最初に紹介した『袋小路の男』にくらべたら、
ぜんぜんダメじゃないです。



ダメからはじまって、ちょっとずつよくなっていく。
その意味では、この本自体がじわじわ効いてくる
漢方薬みたいなものなのかもしれませんね。
読後感も爽やかな一冊です。
たんたんとしながら、おもしろくて。

中島たい子さんというかたは、
この作品で「すばる文学賞」をとっているんですけど、
それからあまり小説は出ていないんですよ。
このかたの小説、もっと読みたいです。

Amazonで購入
  『袋小路の男』絲山秋子 講談社/1365円(税込)
 
絲山秋子というかたの小説で、
主人公の女の人には、
ずーっと、もう12年くらい好きな人がいるんです。
で、その男性は袋小路に住んでるんですよ。
だから、『袋小路の男』。

主人公の女性は、その男性のことを12年間も
想いつづけているのに、指一本ふれていない関係なんです。
なんでしょうかね? そういうのは? 片思い?
純愛と言えるような気もしますけど‥‥
やっぱりそれじゃダメですよね(笑)。



大学も卒業して、就職もするのに、
何でまだこんなヤツ好きなんだろう、みたいな。
そんなに美しくない「一途さ」というか‥‥。
まさしく主人公が袋小路に入っていくような、
たいへんスッキリしない物語なんです。
おまけにこの小説の場合は相手もダメな男で、
ダメにダメがかさなって、もうダメダメな話で(笑)。
もちろん、作品自体がダメなわけではないですよ。
絲山さんの文章は読みやすくてきもちがよくて、
すばらしい小説だと思います。
ダメなのは、登場人物。

そんなスッキリしないダメダメな登場人物に
どうして魅かれるかというと‥‥
ダメすぎるところに笑って共感できてしまうんです。
じつはわたしも若いころは
けっこうダメ男好きで(笑)。
そんなことを思い出して、笑ってしまうんですよね。

 
大宮エリーさんの近況

荻上監督の映画に、
「ほぼ日」はほんとうにたくさんの
「たのしい」や「おいしい」や「うれしい」を
いただいてきました。
それを読者のみなさんにおすそわけしたくて、
「かもめとめがねのおいしいごはん。」
というコンテンツをはじめたり、
「とにかく観てほしい!」というきもちが高じて
『めがね』×ほぼ日刊イトイ新聞特別試写会
なんていう催しまで行ったりもしました。

そんな「ほぼ日」乗組員もだいすきな映画、
『めがね』が、3月19日にDVD化されました!

『めがね』

5040円(税込)
Amazonでのご購入はこの画像をクリック!

映画館で見逃していたかたはもちろん、
すでにご覧になったかたも、
これで『めがね』の世界を
いつでも、何度でも、体験していただけます。

さらに、このDVDには、
106分の本編ディスクに加え、2枚の特典ディスクも!

Disc.1 本編
Disc.2 「めがね」メイキング
    メルシー体操完全版
Disc.3 「朝のたそがれ」全編収録
※「朝のたそがれ」は、情報バラエティ番組
 「爽快情報バラエティースッキリ!!」(日本テレビ系)と
 映画『めがね』のコラボレーション企画です。
 『めがね』の出演者が日替わりで出演し、
 1分間の物語を放映していました。

それでは、ここであらためて、
荻上監督ご自身から、
映画『めがね』のみどころをお話していただきましょう。

「さいきん映画祭があったので、
 あらためて観たんです。
 すごい、きもちがいいなと思って‥‥
 自分でいうのもへんなんですけど、
 すごくきもちのいい空気が漂ってる映画だなって、
 そう思いました。

 いままで映画をつくってきて、たのしいと思ったことは
 じつは一度もなかったんですよ(笑)。
 もちろん映画づくりはおもしろいし好きなんですが、
 たのしいっていう感覚が自分にはなくて、
 とにかくつらいものという意識しかなかったんです。
 『かもめ食堂』もそうでした。
 フィンランドでの撮影ですから、
 緊張するわ寒いわで、わけがわからなくて(笑)。
 
 この4本目の『めがね』は、
 撮影をしていて、はじめてたのしいと思えたんです。
 ほんとにたのしかった。
 ロケ地が与論島ということもあったのかもしれません。
 すごくゆったりできて、
 緊張しないで撮ることができました。
 ごはんもおいしかったし。
 
 フード・スタイリストの飯島奈美さんの料理って
 どうしてあんなにおいしいんでしょうね?
 料理人のおいしさじゃないんですよね。
 なんだろう? お母さんの感じ?
 とくべつな人だな、と思って。
 ほんとに。

 あと、小林聡美さんがこんなことをおっしゃってました。
 “寝ても大丈夫な映画”って。
 きもちのいい映像で眠くなることもあるんでしょうね。
 途中ちょっと寝ちゃっても、目がさめたときに、
 “ああ、この人たちは、同じようにここにいる”


(C)めがね商会

 そんなふうに、思えるんだそうです。
 おいてけぼりにされた感じが、ぜんぜんないって。
 寝ることをオススメするわけではないですが(笑)、
 わたし自身がたのしく撮れたことが
 あらわれてる映画だと思います。
 よろしければ、ぜひ」

荻上監督、ありがとうございました!
またきもちのいい次回作を、たのしみにしていますね!!

映画『めがね』の公式サイトは、こちらからどうぞ。

 
2008-03-28-FRI
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