「GO!なひと」は、さまざまな地域に
通い続けている人や、
移住した先で活動している人を訪ね、
その土地とのかかわりや、日々の生活について
インタビューするシリーズです。
第1回に登場いただくのは、2024年に
東京都から長野県に移り住んだ鈴木杏さん。
近年は、俳優としての活動だけでなく、
アーティストとして表現領域を広げたり、
オンラインコミュニティを運営されたりなど、
活動の幅をどんどん広げています。
「予感だけを頼りに決めた」という
移住先での暮らしのこと、考え方の変化、
これからめざしたいことをうかがいました。
聞き手はほぼ日のやすなです。
ほぼ日GO!とは、
ほぼ日が、日本全国の地域の方々と
幅広くて自由なコンテンツを作り、
更新していく場所です。
文・藤田亜紗美
※今回のインタビューは、杏さんが
「大切な場所」として挙げてくださった、
長野県松本市のブックカフェ
「栞日」(しおりび)さんにて行いました。
- ──
- よろしくお願いします。
杏さんが長野へ移住されて、
どのように生活が変わったのか、
表現の幅が広がっていったのか、
というようなお話を中心に
うかがっていけたらと思っています。
- 杏
- はい。よろしくお願いします。
- ──
- はじめに、なぜ長野を選ばれたのか、
おうかがいしてもいいですか?
- 杏
-
最初は二拠点生活をしようという計画で、
長野の中でも、東京から通いやすい
軽井沢や八ヶ岳周辺を探していたんですけど、
ピンとくる出会いがなくて。
全国津々浦々を旅しながら、
いつか、「ここだ!」と思えるところに
出会うんじゃないかと、気長に構えていたんです。
そうしたら、今回私が移住したエリアに
先に移住されていたご夫婦がいて、
お家に遊びに行ったときに、
「なんだ、このエリアは!」って思って。
北アルプスがバーンと見えて、湖があって、
そういう今まで見たことのない風景を見て、
何か、新しいことがはじまる予感がしました。
- ──
- いいですねーー。
- 杏
-
ちょっと東京から離れているので、
二拠点生活というよりは、一拠点という感じで、
仕事のときに東京出張という形になるんですけど、
でも、どのみち引っ越すのであれば、
それくらい振り切っちゃったほうが、
ここから先の人生を考えたら
おもしろいよなと思って、
予感だけを頼りに決めちゃった、という感じでした。
- ──
- それほど惹かれるものがあったんですね。
- 杏
- はい。空気感もよかったですし、
おもしろいことができそうだなと思ったんです。
- ──
- 二拠点生活や移住について考えはじめたのは、
どれくらい前からなんですか?
- 杏
-
コロナ禍のパンデミックの時期ですね。
いろいろと考える時間ができましたし、
稽古場や劇場に行くときも、
感染対策ということで、なるべく自分で
車を運転して移動することが増えたんです。
車の中で音声配信を聴くような時間も増えて、
あるとき、服部みれいさんの
『murmur
magazine(マーマーマガジン)』の
発信に触れることになったんです。
それで、セルフケアについての記事や、
農業にまつわる記事に触れているうちに、
そういう生き方をしてみたいかも、
畑もやってみたいかも、と思うようになって。
- ──
- 興味が広がるきっかけが
重なったんですね。
- 杏
-
私は東京生まれ東京育ちですが、
都市部で生活していることよりも、
もう少し自然の中で、ゆったりとしたペースで、
自分自身と向き合って暮らすことに
興味を持ちはじめたんです。
それまでは、仕事をするのも、
東京に住んでなきゃ無理だろうなと
無意識に思い込んでいたことに
「ハッ」と気づいて。
でも、やり方を考えればできるんじゃないかなと。
そのタイミングで、ちょうど身近に
同じように移住を考えていた人がいたので、
踏み切ってみようかな‥‥というふうに、
シフトチェンジしていきました。
- ──
- キャリアを重ねていかれる中で、
やりたいことが自分のやりたいように
できるようになってきた、
というタイミングもあったんでしょうか?
- 杏
-
そうだと思います。
ちょうど、演劇で賞をいただく、
ということが続いた後だったんです。
お芝居をするにしても、ここから
もう一つ新たなステージに向かうにあたって、
俳優としてどう生きていけばいいのか、
もうちょっと人間味を深めていくことが
大事になってくるかなと思って、
いいノイズを増やしたくなったんです。
そのためには、一回離れようと。
- ──
- 離れる。
- 杏
-
はい。やっぱり東京にいると、
仕事のお話をいただいたときに、
やってみたいなと思ったら
すぐ飛びつけますし、それが可能なんですよね。
そうすると、アウトプットばっかりになって、
俳優をしていることだけで人生が回っていくんです。
それも生き方としては、とても素敵なことだけど、
そこから少し距離を取って、
全然違うことをやってみることで、
得るものもあるだろうなと思って、
それをやってみたくなっちゃったんです。
「がむしゃらにやるモード」から
「じっくり取り組むモード」に
ギアチェンジできたタイミングだったのもあります。
- ──
- そういう中で、杏さんが、
山のある場所に目が行ったというのは、
これまでの旅の経験がベースにあるのかな
と思ったんですが、旅をしていたのも、
自然豊かなところが多かったんですか?
- 杏
-
そうですね。無意識でしたけど、
どちらかというと海よりは山のほうが
しっくりきていたように思います。
海辺の街は、移住先の候補に
あまり入れていなかったかもしれません。
もうちょっと旅を続けるつもりだったんですが、
「わりとすぐに出会っちゃった‥‥おやおや?」
という感じですね(笑)。
だから、そこまで旅はしてないかもしれません。
- ──
-
選ばれたエリアは、軽井沢のように、
東京から新幹線で1時間ちょっと、
というような場所とは違って、
さらに時間のかかる場所ですよね。
完全に生活が変わる、ということに、
ちょっと逡巡はありましたか?
- 杏
-
やっぱり、勇気がいることではあったんですけど、
自分の気持ちが決まっちゃって。
事務所の方に「こういうことを考えているんです」と
話すときに、一番勇気がいりました(笑)。
小さいときから仕事をしているので、
ずっと同じ事務所なんですけど、
長期で休みを取ることもあまりなかったんです。
- ──
- ああ。
- 杏
-
忙しいことが良しとされるというか、
豊かな気がするじゃないですか。
それをあえて自分でストップして、
流れを変えるようになるなんて、
自分でも予期していなかったんです。
だから、事務所の方に伝えるときが一番緊張しましたが、
やってみたら、そこまで
大変なことじゃなかったかも、と思ってます。
もちろん事務所の方には、いろいろと
調整していただくことは多いんですけど。
たとえば冬の時期は雪かきをしなきゃいけないから、
あんまり舞台ができなくて。
- ──
- 雪かき。
- 杏
-
はい。映像のお仕事だと、主役じゃないかぎり、
ちょこちょこ休みがあるんですけど、
舞台となると、役どころに関係なく、
稽古中も本番も東京にいなきゃいけないんです。
「冬は雪かきがあるので無理かもしれません」
という理由で、お断りしているお話もあったり。
「ちょっと雪かきしなきゃいけないんで」と言うと、
みんなちょっと苦笑い‥‥みたいな(笑)。
- ──
- (笑)
- 杏
-
やり方は変わりましたけど、
ありがたいことにお芝居も楽しくできていますし、
自分の中で、「やる」「やらない」の天秤が
すごくはっきりしてきました。
その時期に長野にいることを選ぶか、
それを超えてでもこの作品をやりたいか、
というラインがしっかりしてきたのは、
贅沢なことですけど、
良かったことだと思っています。
(つづきます)
2026-10-15-THU
(C) HOBONICHI