ほぼ日刊イトイ新聞
アイヌを撮り続けて発見したのは、「自分」と「写真」だった。
撮影:池田宏

写真家・池田宏さんに聞く、アイヌのこと。

10年以上にわたって、
アイヌの人たちのところへ通っては、
写真を撮り続けている、池田宏さん。
縁もゆかりもない土地、
見ず知らずの人たちのあいだに、
なんにも知らないままに飛び込んで、
いろいろ失敗し、ときに拒まれながら、
やがて、受け容れられていった、池田さん。
アイヌの人たちと仲良くなるうちに、
「アイヌってなんだろう?」という疑問は
じょじょに薄れゆき、
アイヌの人たちを撮影していく過程で、
自分自身を「発見」する。
その営みに生まれた写真を見ながら、
これまでのことを、話してもらいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。

第2回
礼儀が足りてなかったこと。

──
最初、失礼な質問をしてしまったゆえの
「拒否」から、
10年、通うことになるわけですが、
じょじょに仲良くなって、
じょじょに、打ち解けていったんですか。
池田
そうですね。
失敗しながら、迷惑をかけながらですが。
──
行動範囲も広がって?
池田
いや、それがぜんぜんで、
なんとか二風谷に通いはじめたんですが、
その後は、
なかなか他の町に行くことができなくて。

でも、あるときに、関東にお住まいの
アイヌの女性と知り合って、
「地元の先祖供養に行くけど、来る?」
って、お誘いいただいたんです。
──
おお。
池田
それは、2011年、2012年だったかな‥‥
シャクシャイン法要祭という、
アイヌの人たちの大きな供養祭があって、
毎年9月にやってるんですが、
そこには、
各市町村のアイヌの団体が集まるんです。
──
シャクシャインの戦い、という出来事が、
歴史の教科書に出てきますけど‥‥。
池田
そうです。それです。人の名前です。
和人に対する、アイヌの抵抗の英雄です。

で、シャクシャイン法要祭というのは、
一日がかりの大きなお祭りで、
朝は祈りの儀式、
お昼くらいから舞踊がはじまって、
みんなで弁当を食べて、
最後はカラオケ大会でシメて解散します。
──
カラオケ大会。何を歌うんですか?
池田
ま、それぞれに好きな演歌とか、古い歌。

で、その法要祭に、
ボランティアで入るようになったんです。
──
ボランティア‥‥というと、何の?
池田
まあ、たいして役に立ってないんですけど、
法要祭では、でっかいシャケの切り身と、
いなきびごはんと、
オハウというアイヌの伝統料理の汁物を
配るんですが、
そのシャケを焼くボランティアです。
──
シャケ焼き係。重要じゃないですか。
池田
そう(笑)、で、それから何年か、
ひたすらシャケを焼くために行ってました。

で、シャケ焼いていると、
「宏、おまえ、また来てたんだ」みたいな、
仲良くなったやつに会ったり、
ついでに、カラオケ大会も参加したりして。
──
そんなふうに、打ち解けていったんですね。
その間は、写真を撮るわけでもなく?
池田
そうですね。基本シャケ焼きっぱなしです。

いちおう、カメラは持って行くんですけど、
まずはシャケ焼いて‥‥
まあ、何でもそうなんですけど、
たとえば昆布を干してるおばちゃんがいて、
写真撮りたいなあと思ったら、
ひとまず一緒に干すじゃないですか、昆布。
──
まずは「同じ仕事をしてみる」スタイル。
池田
ええ、同じ仕事をして、いろいろ話して、
一緒に休んで一服してたら、
「じゃあ、今から飲むか?」となったり。

そういう展開が多いですね、自分の場合。
──
人が人を撮るというのは、
なかなか急には、難しいものでしょうか。
池田
もちろん、平気で撮れる人もいますよね。

写真家それぞれ違うんで、
何が正しいのかはわかんないですけど、
自分の場合は、
とりあえず話さないと、はじまらなくて。
──
池田さんは、そういうやり方なんですね。
池田
そうですね。ずっと、そうです。

やっぱり、その人を知りたいと思うから、
わざわざ話を聞きに行くわけで、
いろいろ話して、仲良くなったら飲んで、
家に泊めてもらって、また飲んで‥‥
その繰り返しで、やってきた感じですね。
──
お聞きしていると、最初は
漠然と「アイヌの人たち」だったものが、
通ううちに、どんどん
「どこそこのだれだれ」という
「個人」との関わりになっていくような。
池田
そうですね、それは、そうなりますよね。
──
当然ですけど、アイヌの人全員と、
仲良くなれるわけでも、ないでしょうし。
池田
ええ、拒絶されてしまった人たちとかも
いるんですけど、
それでも、やっぱり話を聞きたいな、
最終的には写真を撮りたいなと思ったら、
もう一回、行くしかないです。
──
あ、そうやって仲良くなったケースも?
池田
はい、ぼく、最初から嫌い合う理由って、
基本的にはないと思ってるので。
──
ない?
池田
そう、えっと、何て言ったらいいのかな、
たとえば自分が、
誰かのことを嫌だなって思うときって、
冷静に考えてみると、
自分の内面にある何かが大きいんですね。

やっかみだとか、意地を張っているとか。
──
嫌いの気持ちを、ゆっくり眺めてみれば。
たしかに‥‥そういう面もあるかも。
池田
それに、あっちから嫌われたとしても、
自動的に
こっちがあっちを嫌いになる必要って、
まあ、ひとまずは、ないと思うんです。

むしろ、自分なんかが思うのは、
「俺、なんで、嫌われたのかな」とか、
「何がダメだったのかな」ってことで。
──
「じゃあ、俺も嫌い!」じゃなく。
池田
ま、それは何も、
アイヌに対してだけじゃないですけどね。

いちど、白糠(しらぬか)という町で、
めちゃくちゃ怒られたんです。
年配の女性に呼ばれて、
もう、「おまえ帰れ!」みたいな勢いで。
──
それは、なんでですか。
池田
その集落の会長さんに呼ばれて行ったんで、
認識が甘かったというか、
ここは大丈夫だと思ってしまったんですね。

白糠で行われている「ししゃも祭」の
前日から入って、
地域の人の準備のようすとか、
いろいろ撮ったりしていたんですけど、
お祭りの夜の酒の席で、
勧められるがままにごはんを食べていたら、
「おまえ、何様だ」
「無遠慮にズカズカ入ってきて、
 勝手に人のメシ食いやがって」みたいな。
──
わあ。
池田
会長さんに呼ばれたのをいいことに、
地域の人への挨拶が、疎かになってました。

写真を撮らせてもらう者として、
最低限の礼儀が足りてなかったんですけど、
これって、別に、
アイヌがどうかは関係ないじゃないですか。
──
ええ、どこでも起こりうる話。
池田
そう、世界中どんな場所へ行ったって、
挨拶もしないで、
そこの人たちの写真をバンバン撮って、
ししゃもムシャムシャ食ってたら、
そりゃあ、怒られても仕方ないですよ。
──
そんな経験をしながら、10年。
池田
はい。

撮影:池田宏

協力:スタジオ35分

<つづきます>

2018-04-18-WED

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN