HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

金子研究員は、なぜ電子を1個ずつかぞえているのか?

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.3 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.3

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
こどものような好奇心をもって、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちのことを敬意をこめて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談から、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりご紹介していきます。

金子晋久さんってどんな人?

introduction 金子さんの研究室。

東京駅から高速バスで1時間ちょっと。
茨城県つくば市に、
「産業技術総合研究所(以下、産総研)」
という研究施設があります。
今回訪れた「つくばセンター」は、
全国11ヶ所に設置された産総研の研究拠点のなかでも、
もっとも大規模な研究センターとして知られています。

産総研のホームページによれば、
総敷地面積は「東京ドーム」の約43個分!
「なぜに東京ドーム?」という話はさておき、
ひとつの町のような広大なエリアで、
いろいろな研究が行われているのです。
そもそも「産総研」とは、
どういう研究所なのでしょうか‥‥。
産総研とは「国立研究開発法人」というもので、
いわゆる公的研究機関のひとつですね。

かつてはバラバラに点在していた、
計量研究所とか、機械技術研究所とか、
地質調査所とか、電子技術総合研究所とか、
そういういろんな研究所を統合・再編させたのが、
産総研の「つくばセンター」というわけです。
ということで、
今回の研究者対談のゲストは、
そんな産総研の「計量標準総合センター」の
「物理計測標準研究部門」という部署で、
首席研究員をつとめる金子晋久さんです。
早野フェローの説明によると、
金子さんはここの研究所で
「電子を1個ずつかぞえる研究」に
長年取り組まれているといいます。

明日からはじまる本編では、
「なぜ金子さんは電子をかぞえているの?」
という素朴な疑問を中心に、
金子さんと早野フェローの対談を
全6回でお届けいたします。

本日はそのイントロダクションとして、
いろんな実験装置のある
金子さんの研究室を見学したときの様子を、
すこしだけご紹介いたします。
さっそくですが、
写真のまんなかに見える円柱状のもの。
じつはこれが「電子を1個ずつかぞえる」ための
実験装置なんだそうです。

シルバーの筒状のところには、
電子を1個ずつ制御するための
すごく小さな基板みたいなものがあって‥‥
それが、その‥‥すみません、
これってどういう装置でしたっけ?
「電子を1個ずつかぞえる」には、
電子が1個だけ通過できる
「道路」のようなものをつくる必要があります。
写真にうつる「素子」とよばれもの、
この中心に電子が通過できる
道路が刻まれているのですが、
その道幅は光の波長よりも小さいので、
2000倍の光学顕微鏡をつかっても、
見ることはできません。

この微細構造をもった素子は、
金子さんチームの手づくりだそうです。
この素子をつかって電子を制御するとき、
電子がこどものようにフラフラしないように
「希釈冷凍機」とよばれるもので
素子そのものを「極低温」にまで下げ、
制御しやすくする必要があります。
さきほどの筒状の装置は、
そうした極低温状態をつくるためのものです。
この中に微細構造をもった素子を取り付け、
電子を1個ずつ制御しながら数をかぞえています。
‥‥ということだそうです。

小さな基板のようなもの以外にも、
研究に必要な実験器具の多くは、
金子さんチームによる手づくりなんだとか。
別の部屋には、
ボール盤や3Dプリンターなど、
実験装置をつくるための機械工具が
たくさん置かれていました。
金子さんの所属する「物理計測標準研究部門」では
「電子をかぞえる」という研究だけでなく、
エネルギーや電気といったものを
「正しく計測する」という大切な業務があります。
そのため研究室のあちこちには、
いろんな種類の装置が設置されています。
例えば、アルミホイルに包まれた
謎の装置があったり‥‥。
おそろしい数の配線につながった
不思議な装置があったり‥‥。
なんだかよくわからないけど、
なんだかキラキラしてキレイな装置があったり‥‥。
部屋の中に部屋があったり‥‥。
で、その中にもやっぱり機械があったり‥‥。
物理学者の血が騒いでしまうのか、
複雑な実験装置を見るたびに
目がキラキラと輝きはじめる早野フェロー。
「ほー!」「これがウワサの!」と、
金子さんに矢継早に質問をしながら、
たのしそうに研究室をまわられていました。
(会話はほとんど理解できませんでした‥‥)

ということで、早野フェローがお届けする
“オタク”な研究者探訪シリーズ第3弾、
「金子晋久さん篇」は明日からスタートします。

専門的で難しい話も出てきますが、
「わかる」ことだけにこだわらず、
「わからない」こともおもしろがりながら
読んでもらえるとうれしいです。

毎度おなじみ「わからない代表」として、
乗組員AとBも登場しますよ。

どうぞおたのしみに。

(つづきます)