HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

フタバスズキリュウ研究の第一人者、恐竜博士のたまきちゃん。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
こどものような好奇心をもって、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちのことを敬意をこめて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談から、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりご紹介していきます。

佐藤たまき先生ってどんな人?

第7回 私、標本運がいいんです。

早野

先生は幼稚園のころ、
どんな恐竜が好きだったんですか。

佐藤

子供のころは
「トリケラトプス」と「ディプロドクス」が、
私のなかの2大スターでした。
そのディプロドクスのフィギュアは、
幼稚園のときからずっと持ってるものです。

乗組員A

へぇー、これで遊んでいたんですね。

乗組員B

誰からもらったんですか?

佐藤

たぶん親だったと思います。
この大学に就職してから
「見せてください」といわれることが多いので、
ずっと研究室に置いているんです。

乗組員A

これが恐竜に興味を持った原点‥‥。

乗組員B

もしこれがなかったら、
恐竜の世界に入ることはなかった、かも?

佐藤

そうだと思います。

乗組員A・B

へぇーー。

早野

先生は幼稚園のときに
「古生物学者になる」と決められて、
それからずっと夢を
追い続けてこられたわけですが、
なんで子どものときの「好き」を
途切れさせることなく、
ここまでこられた思いますか?

佐藤

ひとことで言えば、
運が良かったからです。

私、標本運がすごくいいんです。

早野

標本運?

佐藤

化石標本と出会う運です。
私がやってる「分類・記載」という研究は、
標本が手に入らないと
まったく話にならない分野です。
実験ができるわけではないので、
理論的なことをしてもどうしようもない。

早野

現物が手に入らないと、
研究すらできないわけですね。

佐藤

さらにいえば、
まだ誰も研究していない標本が
必要になります。

自分の過去を振りかえってみると、
たまたま東大に誰も手をつけていない
首長竜の化石があったり、
カナダにいたときも、
指導教員の先生から
「首長竜が好きだったらどうぞ」みたいに
材料をいただくこともありました。

早野

フタバスズキリュウもそうですね。

佐藤

そうなんです。
あれだけ有名な化石だというのに、
まったく記載されずに残っていたのは、
本当にラッキーだったと思います。

標本運が強烈に良かったのは、
研究者になる上で
とても重要な要素だった気がします。
これはもう自力で
コントロールできるものではないので。

早野

なるほど。

佐藤

それからもうひとつ。
子どものときの「好き」を
追い求められた理由は、
両親の協力があったからです。

私ぐらいの世代は、
まだ「女の子が理系?」みたい時代でした。
でも、親から「女の子だからやめとけ」と
言われたことは一度もなかったです。

早野

それは珍しいケースですよね。

佐藤

そうだと思います。
それはたぶん、
親も研究者だったからだと思います。

早野

そういえば、
お父さまも大学教授でしたね。

佐藤

父は化学系の研究者で、
母も父がいた研究室の技官を
やっていたそうなんです。
なので、子どもがやりたい勉強に対しては、
ものすごく寛大でした。

早野

「そんな研究して将来はどうする」とか、
そんなことは言われなかった?

佐藤

なかったです。
でも、留学するときだけは、
ものすごく反対されましたね。

早野

それはまた、なんで?

佐藤

父の考えでは
「日本にない研究を海外でやっても、
日本では就職できない」って。

早野

ああ、なるほど。
日本にない研究だから。

佐藤

しかも、父は大学の教員なので、
留学して挫折する人をたくさん見ています。
日本にいると、
留学して成功した人の話しか聞かないけど、
実際はそんなことないですからね。

早野

でも、最後はちゃんとご両親を説得されて。

佐藤

そうですね。
向こうの奨学金が取れたことは、
大きな説得材料になりました。
貸与じゃなくて、
給与式の奨学金がもらえたので。

早野

返さなくていいやつですね。

佐藤

アメリカやカナダって、
私のような外国人に対しても、
学問の振興のためには
お金を出して勉強させてくれるんです。
そういう国に奨学金で
留学できたっていうことも、
やっぱり運が良かったと思います。

乗組員A

あの、ひとつ質問してもいいですか。

佐藤

どうぞ。

乗組員A

いくら子どものときに
「古生物学者になる!」と決めても、
高校生くらいになると
興味の対象が広がったりしますよね。

佐藤

あぁ、はい。

乗組員A

でも、先生は興味が他にうつるでもなく、
ずっと「恐竜好き」でいられたのは、
なぜなんでしょうか。

佐藤

私、小学校の高学年から大学に入るまで、
純粋な受験生だったんです。
ずーっと勉強ばかりしていました。

なので、将来の進路を
「恐竜」と決めていましたが、
なにも日常生活で朝から晩まで
恐竜で遊んでいたわけではないんです。

乗組員A

けど、忘れることもなかった?

佐藤

そうですね。
将来の進路は「恐竜」に
進みたいという気持ちは、
ずっと変わらなかったです。

乗組員A

そこがやっぱりすごいです。

早野

それだけでもすごいのに、
その好きなことを学ぶために、
ちゃんと受験勉強をがんばったところも、
またすごいよね。

乗組員A

ほんとにそう思います。

乗組員B

うん、うん。

佐藤

それもやっぱり親の影響でしょうね。
自分でいうのもヘンですが、
高校のころまでは、
親のいうことを素直に聞く子だったんです。
それが大学に入ると、
言うことを聞かなくなるんですが(笑)。

早野

でも、いまになって思えば、
ちゃんと勉強しておいて良かったでしょう?

佐藤

それはすごく思いますね。
基礎学力ってほんとに大切だと思っていて、
特に「古生物学」のような分野は、
作業分担することがほとんどないので、
ひとりで何役もしないといけません。
そのためには、
どうしても基礎学力は必要になります。

私は自分で図も描きますし、
系統解析もします。
留学で英語も鍛えられたので、
英文校閲を使わずに英語論文も書きます。
もしこういうスキルがなかったら、
お金を払って人を雇わないといけないので、
たぶんもっと大変だったと思います。

早野

どの道の研究者になるとしても、
そこは同じことかもしれないですね。
やっぱり基礎学力は
しっかり身につけておいたほうがいい。

佐藤

そう思います。

早野

いやぁ、たのしかったです。
いろいろな話をしてくださって、
ありがとうございました。

お話を聞いてあらためて思いましたが、
ここまで一途に夢を追いかけて、
初志貫徹される方も珍しいですよね。
ご自身でもそう思いません?

佐藤

どうなんでしょう。
あんまり人と比べたことがないので。
自分ではただの「恐竜オタク」としか
思っていないです(笑)。

早野

もう、筋金入りのオタクですよ(笑)。
おもしろかったです。
どうもありがとうございました。

乗組員A・B

ありがとうございました!

佐藤

こちらこそありがとうございました。

(終わります)

佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。 佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。
幼稚園に通うころから
「将来は恐竜博士になる」と宣言していた
佐藤たまき先生。
著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』には、
恐竜で遊んでいた子供時代のエピソードから、
フタバスズキリュウの
名付け親になるまでの奮闘の日々が、
素直なことばで綴られています。

決して平坦ではない
フタバスズキリュウの記載論文への道。
それでも佐藤先生は、
自分の「好き」を見失うことなく、
まわりへの感謝を忘れることなく、
たくさんの困難を乗り越えていきます。
恐竜好きの人はもちろんですが、
なにかの夢に向かって努力し続ける人にも、
ぜひおすすめしたい一冊です。

さらに、もうひとつ。
本対談で使用した恐竜のイラストは、
この本のカバー装画と挿絵を担当された
動物画家のかわさきしゅんいち先生から、
特別にお借りしたものです。
緻密な描写でありながら、
ちょっと愛嬌のあるかわさき先生のイラストにも、
ぜひ注目してみてくださいね。

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フタバスズキリュウ
もうひとつの物語

著者 佐藤たまき
絵  かわさきしゅんいち
出版 ブックマン社
定価 1700 円(税別)