HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

フタバスズキリュウ研究の第一人者、恐竜博士のたまきちゃん。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
こどものような好奇心をもって、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちのことを敬意をこめて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談から、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりご紹介していきます。

佐藤たまき先生ってどんな人?

第4回 学名「フタバサウルス・
スズキイ」の由来。

早野

そもそも30年以上前に
見つかったフタバスズキリュウを、
なぜ先生が研究することに
なったんでしょうか?

佐藤

それはお誘いをいただいたからですね。

早野

お誘いがあった? どこから?

佐藤

フタバスズキリュウに
ずっと関わっていらした
国立科学博物館の真鍋真先生から
「手伝っていただけませんか」
というかたちでお誘いを受け、
よろこんでお引き受けいたしました。

2006年に出版した
フタバスズキリュウの記載論文は、
私と真鍋先生と、
フタバスズキリュウの発掘調査も
されていた長谷川善和先生の
3人による共著論文なんです。

早野

ここにその記載論文がありますが、
いちばん注目すべきポイントは、
やっぱりタイトルの
「NEW」のところですよね。

佐藤

そうですね。「新種である」と。

早野

新種と確定した決め手は、
なんだったんですか。

佐藤

基本的には骨の形を
かたっぱしから見ていって、
これまでの首長竜とは
ちがう種であることを示せたからです。

乗組員A

その骨の形というのは、
見た目から全然ちがうんでしょうか。

佐藤

全然ちがいましたね。
ただ、難しかったのは、
他の種と比べるときに、
相手の骨が不完全なことが多いんです。
頭しか見つかっていない首長竜や、
首から後ろがない首長竜もいます。

論文で新種と宣言するには、
学名のついたすべての首長竜と比べ、
「ちがう」ことを示す必要があります。
「骨の形が1個ちがう」という次元じゃなく、
全身の特徴をひとつずつ比較しないと、
新種と示すことができないんです。

乗組員A

すべての種と比較するんですか?

佐藤

そうです。

乗組員A

はぁぁ‥‥。

早野

でも、それをやってのけたからこそ、
ようやくフタバスズキリュウに
学名が与えられたわけですね。
学名がついたのはいつでしたか?

佐藤

学名を付けるときって、
命名規約という規則があるんです。
それによれば「論文が出版された日」が、
名前のついた日になるそうなので、
この場合は2006年の5月です。

早野

学名はなんでしたっけ?

佐藤

フタバサウルス・スズキイ
Futabasaurus suzukii)です。

乗組員A・B

フタバサウルス・スズキイ。

佐藤

このときは「フタバサウルス属」という
「新属」を新たにつくり、
その新属の中に「フタバサウルス・スズキイ」という
「新種」が入る構造になっています。

乗組員A

名前を決めるときって悩みました?

佐藤

あまり悩みませんでした。
名前を付けるときって、
ちょっとしたルールがあるんです。
ラテン語化しなきゃいけないとか。

名前の末尾に「i」がふたつ並ぶのは、
「男性の鈴木さん」ということを示すための
ラテン語の語尾変換によるものです。

早野

へぇー、ラテン語化するんだ。

佐藤

いろんな命名規約があるんですけど、
その中でなら研究者が
どんな名前でもつけられます。

で、このとき考えたのは、
まずは「わかりやすい名前」であること。
それから日本では
「フタバスズキリュウ」という呼び名が
浸透していたので、
なるべくそれをいかした名前にしたいなと。

早野

ほう。

佐藤

あと、首長竜に限らず、
学名ってけっこう長いものが多いんです。
だから、論文なんかに書くときは、
「属」の部分をイニシャルにします。

例えば、ティラノサウルスの正式名称は
「ティラノサウルス・レックス」なので、
T. rex」と略されたりします。

早野

あぁ、なるほど。

佐藤

そうやって考えたときに、
「フタバサウルス・スズキイ」だと
省略したときに「F・スズキイ」となります。
首長竜の場合、
Fからはじまるものがあまりいないし、
後ろに「鈴木」と書いてあれば、
すごく日本を連想しやすい名前だなって。

乗組員A

あぁ、たしかに。

乗組員B

外国の方も覚えやすそうです。

佐藤

候補はいくつかありましたが、
最後は「やっぱりこれかな」という感じで、
そんなに悩むことなく決めました。

乗組員A

へぇー、そうなんですね。

早野

これまでに命名されたものって、
他にもあるんですか。

佐藤

えっと、4種だったかな。

早野

けっこうつけられてますね。

佐藤

われわれの業界って、
なんせもう固有名詞だらけの分野ですから。
まずものに名前をつけないと、
そのあとの研究も
なかなか進まない世界だったりするんです。

(つづきます)

佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。 佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。
幼稚園に通うころから
「将来は恐竜博士になる」と宣言していた
佐藤たまき先生。
著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』には、
恐竜で遊んでいた子供時代のエピソードから、
フタバスズキリュウの
名付け親になるまでの奮闘の日々が、
素直なことばで綴られています。

決して平坦ではない
フタバスズキリュウの記載論文への道。
それでも佐藤先生は、
自分の「好き」を見失うことなく、
まわりへの感謝を忘れることなく、
たくさんの困難を乗り越えていきます。
恐竜好きの人はもちろんですが、
なにかの夢に向かって努力し続ける人にも、
ぜひおすすめしたい一冊です。

さらに、もうひとつ。
本対談で使用した恐竜のイラストは、
この本のカバー装画と挿絵を担当された
動物画家のかわさきしゅんいち先生から、
特別にお借りしたものです。
緻密な描写でありながら、
ちょっと愛嬌のあるかわさき先生のイラストにも、
ぜひ注目してみてくださいね。

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フタバスズキリュウ
もうひとつの物語

著者 佐藤たまき
絵  かわさきしゅんいち
出版 ブックマン社
定価 1700 円(税別)