33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q008

なやみ

営業の仕事が嫌いなのに、向いていると言われます。
求められるならがんばりたいですが、
疲れてしまい、ストレスがたまるばかりの毎日です。

(34歳・営業)

営業部へ異動になって9カ月経ちましたが、営業の仕事が嫌いです。1日に何回も初対面の人と話すのに、疲れてしまいます。でも、まわりの人には「向いている」と褒められます。仕事というのは、人の役に立ってはじめて成り立つと思うので、求められるのならがんばりたいですが、いまのままでは、ストレスがたまるばかり。どうしたらいいでしょうか。

こたえ

If you don't like where you are, move.
You're not a tree.
動けば、呼吸も楽になると思いますよ。

こたえた人秀島史香さん(ラジオDJ/ナレーター)

──
秀島さんは、大学生のときに、
今の道に入ってらっしゃるじゃないですか。
秀島
ええ。
──
それって、ご自分で「向いてる」とかって、
わかってたんですか。
秀島
いえ、憧れだけで飛び込んだって感じでした、
最初は。

じつは、昔から人見知りですし、
いわゆる「緊張しい」なんです。
──
えっ、そうなんですか。
秀島
はい(笑)。
──
わりと今でも、もしかして。
秀島
はい、いつもドキドキしてます(笑)。

ダメだなあと思うこともたくさんあるし、
はたして向いてるのかなとも思いますが、
生放送中、
一瞬でも「わあ、たのしい!」って思えたり、
リスナーがよろこんでくれたりすると、
ぜーんぶ「軽くなる」んです。
やっぱり、この仕事でよかったーって。
──
わかります。
秀島
向いているかどうかよりも、
そういうことで続けてこられたと思います。
──
リスナーがよろこんでくれる理由は、
まずは、
秀島さんがよろこんでいるからですよね。
秀島
そうですね。
わたしが歯を食いしばったままだと、
リスナーもハッピーになれないでしょうね。

だから、そういう意味では、
このご質問の方には、
思い切って居場所を変えてみても
いいんじゃないかなって。
──
「向いている」とは言われるけれども。
秀島
お悩み文のなかに
「求められるなら、がんばりたい」
という一節がありますけど、
「人の役に立っているんだから、
少しくらい辛くてもがんばろう」
と思ってしまっているのなら
「ちょっと待って」と言いたいです。
──
どうしてですか。
秀島
わたしは
「どんな仕事でも、人の役に立っている」
と思っているんです。

それが「仕事」というものだし、
仮にお金を稼いでいなくたって、
家の中を心地よくすることは、
立派な「仕事」ですよね。
──
その家に住む人の役に、
大いに立ってますものね。
秀島
どんよりしたお天気の日に
「おはようございます」って、
ご近所さんに挨拶するだけでも、
挨拶された人の気持ちを
パッと晴らすかも知れないし。
──
はい、「ほぼ日」には、
そういう読者投稿がたくさん届きます。

誰かのちいさい気持ちを受け取って、
足取りが軽くなりました……というような。
それって、完全に人の役に立ってますよね。
秀島
そう、だから「仕事」であればなおさら、
絶対に誰かの役に立っていると、
わたしは思うんです。

であるならば、自分を犠牲にするんじゃなくて、
自分を大事にできる仕事を見つけにいくほうが、
わたしはいいと思うんです。
──
自分のことを大事にしてる人って、
まわりのことも大事にできる気がします。
秀島
そうだと思います。

ニコニコしていて機嫌のいい人って、
その場の雰囲気をよくしてくれますし。
──
ええ。
秀島
求められているけど
「ストレスがたまるばかり」なんだとしたら、
どうぞ、いまの場所から、
軽やかに動いちゃってほしいです。
──
今とは別の世界へ飛び込むのが「こわい」、
という気持ちも、あるんでしょうけど。
秀島
わたし、このかたと10歳ちがうんですけど、
社会人経験も20年とかになると、
まわりがじつに「いろいろ」なことになってる。

会社をいくつも渡り歩いて
イキイキはたらいている人もいれば、
テレビ局の「花形」である制作から
経理へ異動になって、
最初は不本意だったらしいけど、
「やっぱりこっちのほうが向いてたわ。
若いころは世間的にかっこいいイメージに
惹かれちゃうのよねえ」
って笑ってる人もいたりして。
──
やってみたらおもしろかった……
みたいなことって、
そこら中にあるんでしょうね。
秀島
そう思います。
──
ファッション誌のヘアメイクをやっている
知り合いがいるんですけど……。
秀島
はい。
──
千葉のほうで
野菜やコメをつくっていたお父さんが
亡くなっちゃって、
急に広大な田畑を「継ぐ」ことに
なっちゃったんです。
秀島
え、そうなんですか。
──
ほとんど手探りで畑の仕事をはじめたものの、
当初は近所の農家さんからも
「東京でチャラチャラした仕事をしてる倅だろ?」
みたいな目で見られて、
栽培の仕方なんかも、
なかなか教えてもらえなかったそうなんです。
秀島
ひゃあ。
──
1年めや2年めは、
出荷どころか育てることさえ
ままならなかったそうですが、
根がマジメでまっすぐ人なので、
お父さんの残してくれたノートで
必死に勉強して、
その姿にご近所さんの誤解も解けて、
だんだん教えてもらえるようになって。
秀島
ええ、ええ。
──
ことしでもう8年めなのかな、
立派な野菜を出荷するまでになったんです。
秀島
すごいですね!
──
その人、ヘアメイクも辞めていないんです。
秀島
えっ……。
──
東京で撮影がある日なんか、
朝、畑で野菜のお世話をしてから、
電車で都内へ移動して、
ファッション誌でヘアメイクをやってるんです。
秀島
かっこいい!(笑)
──
プロのヘアメイクだったのに農業なんて、
思いもよらなかったはずですけど、
今は両方の仕事を楽しんでやっているんですよ。
秀島
ほんと、何でも「おもしろがれる」んだなあ。
勇気が出ますね。

そう思うと、この相談者の方も、
まずは一歩を踏み出してみたらいいですよね。
そして、ご自身が心地よく力を発揮できる仕事に、
出会えたらいいなと思います。
──
本当に。
昨年、大学の恩師が退官になるというので、
最終講義を聴講しにいったんですね。
秀島
ええ。
──
そしたら先生は、ぼくが学生だった20年前と、
まったく同じことをおっしゃってたんです。

ザックリ言うと
「自分のやりたいことは、
まずは
自分自身が大切にしてやらなければならない」
ということなんですけど。
秀島
ああ……。
──
学生時代さんざん聞かされていたんですが、
当時はぜんぜんピンときていなかったんです。
秀島
当たり前じゃん、って。
──
そう思ってました。

でも、社会に出て20年はたらいたあとの自分には、
めちゃくちゃ響いたんです。
つまり、自分の好きなことを、
自分以上に大切にしてくれる人っていないんですよ。
秀島
そうだ……ほんとだ。
──
相談者の方はまだ若いし、そういうことにも、
これから気づいていくのかもしれないとは思いました。
秀島
だからやっぱり、動けばいいんだと思います。
今いる場所に息苦しさを覚えているなら。

英語で、こういうフレーズがあるんです。
「If you don't like where you are, move.
You're not a tree.」って。
──
ああ、いいですね。
秀島
今、あなたのいる場所が心地よいと思えないなら、
動けばいいじゃない。
あなたは木じゃないんだから……って。
──
まさしく、この人に言ってあげたい言葉です。
秀島
ねえ。
──
動いたら、きっとまわりの景色は変わりますよね。
秀島
おひさまの当たり方も変わるだろうし。
呼吸も楽になりますよ、きっと。
──
はい。
秀島
思えば、わたしたちの祖先だって、
アフリカ大陸を出て、
世界中を移動してきたんですものね。

より、心地いい場所をもとめて。
──
それも「生命」をかけてまで。
秀島
本当ですよね。
なんか最後、
めちゃくちゃスケールの大きな話に
なっちゃいましたけど(笑)。
【2020年3月10日 中目黒にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
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