とんでもない、原丈人さん。 次の時代のヒントは、この人のなかに? 第4部 アフリカへ!


昨年(2008年)の10月31日、
ハーバード・ビジネススクール本校のなかに
公益資本主義の拠点を立ち上げたんです。
敵陣まっただなか、じゃないですか。
そう、われわれの理論に刃向かってくる人が
もっとも集まってる場所。

だから、いろいろ都合がいいでしょう?
それはつまり‥‥理論を磨くのに?
やっつけようとしてる金融資本主義の理論家を
どんどん生み出している場所だし、
リアクションだって、すぐ返ってくるだろうし‥‥、
何かとやりやすいと思ってね。
いかにも原さんらしいですね。
まぁ、相互作用ですよね。

われわれにとって都合いいだけでなく、
彼らの理論だって、
公益資本主義からのヒントやツールで
磨かれていったりもするんです。

このあいだも、
わたしたちとディスカッションをやったあと、
「われわれの理論は進化した」と喜んでた。
愉快だなぁ。
ただね、
金融資本主義のバックボーンになっている
経済学の考えかたは、
何十年という時間をかけて、
何十人というノーベル賞級経済学者たちの
理論的裏打ちのもとにできてるから、
いきなりつくった
われわれの公益資本主義チームは、
なんらかの作戦を練らなきゃならないんです。
勝つために。
そう、金融資本主義の経済理論のなかでも
いちばんの「弱点」に狙いを定めて、
そこを突破するという方法しかないと思う。
なるほど。
何十人もの経済学の権威たちが
時間をかけてキレイにしてきたところを攻めても、
もう、ビクともしないからね。
そうでしょうね。
とはいえ、彼らといえども弱いところはある。

たとえば、社会学的な見地からとか、
組織論的な見地からの分析は、なされていない。

そういう、理論的に弱い分野から
まずは強化していこうと、研究を進めています。
この公益資本主義の原点って、
原さんが直感的に「これ、なんか違うぞ?」と
思ったところから、ですよね。
そうですね、自分で会社をやっていて‥‥。
ベンチャーキャピタリスト、企業経営者なのに
がんじがらめの利益至上主義に反発してる。

つまり、どっちかっていうと
原さんの「こころの問題」じゃないですか。
まあ、そうかもしれません。

なんらかのかたちで社会の役に立っていて
みんなに好かれてる会社、
そういう会社こそ、株価が高くなるように
世のなかを変えたいってことですから。
原さんのおっしゃってることって、
経済学的な「価値」概念が生まれる以前の
考えかたに似てると思うんですよ。
というと?
つまり、ぼくは
「価値」という概念が生まれたのちに発達した
現在の「経済学」というものが
人間のこころに、
ピッタリ合うはずないと思ってるんです。
ああ‥‥。
だって人類は、価値という概念なしにやってきた
何万年、何十万年のほうが長いわけでしょう?

その人類の歴史に対する「尊敬」がなかったら
このわれわれの社会について
本当に考え抜くことはできない、と思うんですよ。
なるほどね。
じゃあ、価値をなくしてやってけるのかって
言うかもしれないけど、
価値を交換してないものなんて、山ほどある。

そこでは、経済的価値が交換されるかわりに
「愛情」が交換されてるのかもしれないし、
「よろこび」が交換されてるのかもしれない。

小さな子どもが転びそうになったとき、
パッと手を差し出すのって
経済学であつかう「価値」とは無関係でしょう。
そうですね。
つまり、そういう人間の本性みたいなものが
僕らのベースにあるって考えたら、
原さんの公益資本主義って、
すごく、わかりやすい話になると思うんですよね。
株価や企業価値という計測可能な数値で
会社を評価すること自体、おかしいんです。

でも、そこのところを否定してしまったら、
今の世の中では、誰も相手にしてくれない。
でしょうね。
だからこそ、
現在の支配的な経済理論に対抗するために
われわれの理論を磨き、完成させていく。
理論には理論で。
たとえば、20年というスパンで見た場合には、
公益資本主義のほうが
収益が上がるんだということを、証明するんです。
相手の価値観の範疇で納得させるわけですね。
そう、短期的な利益を追求するよりも、
長期的には、こっちのほうがいいと。
うん、うん。
そしてもうひとつは‥‥実例をつくること。
それが、原さんのやりかたですよね。
バングラデシュのブラック・ネットみたいに。
利益の4割を教育・医療の改善事業に使えて、
しかも、ビジネス的に成立している会社。
実際、そのブラック・ネット社は、
バングラデシュで
最大の通信会社になりましたから。
そうですか。
株主のためだけにつくられた企業の経営者にしたら
儲けの4割がよそに行くような会社なんか
もう、ぜったいに許しがたいと思うんですけど、
はたらく社員にとっては、
きっとね、わたしたちの会社のほうが楽しいと思う。

自分の仕事が役に立ってるって、実感できるから。
うん。楽しいって見かたは、いいですよね。
それに、株主ばかり気にしている会社と競争しても
わたしたちの会社ほうが、結果的に成功するんです。
社員のモチベーションが違いますもんね。
自分の仕事が、楽しかったら。
それもありますけど、ブラック・ネットの場合は
構造的にも、収益が上がるようになってる。
というと‥‥。
つまり、短期的な利益ばかり追い求める会社だったら、
首都のダッカにしか、資本を投下しないんですよ。
人口の集中する都市部だけに出資したほうが、
効率がいいから‥‥ですよね。
そう、ビジネススクールなんかを出て
経営企画やマーケティングをやっている人だったら、
「大都市に集中すべきだ」と、当然言います。

でも、わたしは必ずしも、そうは思わない。
ああ‥‥バングラデシュの教育・医療事業でも
へんぴな農村にXVDをつないでましたもんね。
たとえば、ブラック・ネットとは別に
A社という通信会社が、あったとしましょう。
ええ。
このA社は、都市部にだけ効率よく出資して、
ブラック・ネットよりも価格を抑えたとします。
はい、はい。
一方で、首都のダッカ以外に事業を展開しているのは、
ブラック・ネットだけですから、
農村については、わたしたちと契約を結ぶことになる。
ええ。
つまり、都市部で、いくらか安いからといって
A社と契約を結んだら、
回線は2系統になってしまうんですよ。
都市部でA社、農村でブラック・ネット。
そうすると、不便なんです、やっぱり。
通信会社が、地域によって別々なのは。
ああ‥‥なるほど!
つまり、結果的に、お客さんは、
都市部でもブラック・ネットに来てくれるんです。
仮に、多少高かったとしても、便利だから。
事業として儲かるのは都市部かもしれないけど、
収益の上がりにくい農村部に出資していることで、
結果的に、
わたしたちのほうが、お客さんを獲得できる。
はー‥‥、そこまで考えて農村、なんだ。
うん、そこまで考えて、なんです。
つづきます

2009-04-21-TUE