じぶんに桜の花束を。
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桜に出会う編 THE LITTLE SHOP OF FLOWERS 壱岐ゆかりさん
003:枝を部屋に飾るには。
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ここからは、具体的に
桜の切り花をどうやって飾るかについて
THE LITTELE SHOP OF FLOWERSの
壱岐ゆかりさんに
お話をうかがっていきます。
壱岐さんはフラワースタイリングで、
メディアやギャラリーなど、多方面から
「頼りにされている」方で、
ほぼ日もこれまで何度もお世話になっています。
THE LITTELE SHOP OF FLOWERSのお店では、
桜の枝花を扱われることはありますか?
壱岐
はい、季節になったら
とてもひんぱんに扱います。
桜に限らず、枝ものを
ご自宅で楽しむ方々が、わりといらっしゃいますね。
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「枝ものの植物の魅力」って、
どういうところにあるのでしょう?
壱岐
枝ものは、花瓶に挿したとき、
その枝ぶりごとに空間を描く姿が
シンプルにまずカッコいいです。
いわゆる「花らしい花」も好きですが、
個人的には、季節の枝ものを
家やお店に飾るのもとても好きです。
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「季節の枝もの」は、桜のほかに
どんなものがありますか?
壱岐
レンギョウ、ユキヤナギ、ヒメミズキ、
ウメもモモもそうです、
ほんとうにいろいろありますよ。
チューリップやダリヤなどの茎の植物に比べて
わかりやすい「花」ではないけれども、
枝ものには、圧倒的なきれいさがあると思います。
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圧倒的なきれいさ‥‥。
壱岐
「さっきまでぜんぜん咲いてなかったじゃん!」
という枝が、
急に咲きはじめたりするさまも
ものすごく心躍らせてくれます。
インテリアに取り入れやすくて、
「お花があってきれい」 という
わかりやすさとは違う雰囲気を
空間にもたらしてくれます。
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枝ものって、茎の植物よりも
長もちしますか?
壱岐
ふつうの生花でも、
手入れによっては長くもつものもあるので、
どちらが長いというわけではありません。
だけれども、茎の生花は、
「枯れちゃった」という状態が
わかりやすいかもしれませんね。
枝ものだったら、花が散ってしまったとしても、
枝そのものをたのしめるといいますか‥‥。
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花が散ってしまったあとも、
葉っぱが出てきたりして。
壱岐
きれいな水をちゃんと吸わせていれば、
新芽が出てきたり、
次の段階に移行してくれる生命力を
目のあたりにすることもたくさんあります。
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枝の植物のお手入れは
どうしたらいいんでしょうか。
壱岐
花瓶やコップにきれいな水を入れて挿し、
「水を飲みやすい状態を保つ」のがいいと思います。
人間も同じで、水がきれいじゃないと飲みたくない。
ですから、水を入れかえて
濁らないようにするのが大前提です。
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部屋の温度にも
よると思うんですが、
どのくらいの頻度でかえればいいですか?
壱岐
濁らせないで、変えてください。
自分が飲みたくないなと思う水は、
花にとってもよくないという
ものさしを大切にするといいますか‥‥。
あとは、水が吸いやすいように
根本の茎を少し裂いてあげてください。
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いわゆる「水切り・水あげ」ですね。
壱岐
裂いたりたたいたり切るだけじゃなく、
私たちは焼くこともあるんですよ。
ちょっと酷なんですが、
根元を焼くことは殺菌効果があり、
水の通る道ができて、乳液で詰まらなくなる。
すると、水が一気にグッと上に行ってくれます。
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知らなかった‥‥。
今回の「生活のたのしみ展」で開く
「桜の花束店」の桜は、
すでに水あげしたものを用意するので、大丈夫です。
でも、一般の花屋さんで買ったときは
状況がわからないから、
水あげしたほうがいいですね。
やっぱり、斜めに切るのが基本ですか?
壱岐
そうですね。
でも、桜の枝は水を吸いやすいので、
ちょっと切ってやるだけで充分かと思います。
がんばらなくても、桜は咲いてくれます。
水あげのときは、基本的に、
水に触れる面が多いようにカットします。
「斜めに切る」というのはそういう意味です。
さらにハサミを入れて十字に切ると、
水に接触する部分が増えます。
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ごぼうのように‥‥。
壱岐
そうそう、ごぼうのように(笑)。
でも、桜の場合は
あんまりざっくり切っちゃうと、水を吸いすぎて、
一気に花が咲いてしまう可能性もあります。
だから、あまり気にしなくていいですよ。
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わかりました。
壱岐
水あげするときは、
じわじわじわっと切らずに、
サクッといちどに切ってあげてくださいね。
人間でもじわじわ切ると、痛いでしょ?
──
なるほど(笑)。
よく切れるはさみでやるといいですね。
ほかに気をつけることは‥‥?
壱岐
長持ちさせるには、できれば
涼しい場所に置き、
暖房の風が直接あたらないようにするといいと思います。
──
やっぱり寒いところのほうがいいんですか?
壱岐
寒い場所のほうが花は長持ちしますが、
あれこれ気にしすぎることで
扱いが難しいという印象を持ってもらうより、
水だけきれいにすることを怠らなければと思います。
あまりにもあたたかすぎる、ということが
なければ大丈夫。
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いけるときのコツを
教えてください。
壱岐
まず、花瓶の首もとは
きれいにしておきたいので、
花瓶の上部は
花がワサワサワサしないようにしましょう。
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そこに枝がある場合は、
切って落とすのがいいですね。
壱岐
はい。
切った枝はさらに小さいコップに入れて、
お手洗いやキッチンに飾るとかわいいですよ。
このへんの小枝さんたちにも
最後まで咲いてもらえるように水にいけるだけ。
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かわいい。
壱岐
花瓶の底に枝が着いていなくてもかまいませんが、
深水にしてあげるといいですね。
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スッと1本だけいけるのもいいですね。
長いものと短いものを
組み合わせるのもかっこいい。
壱岐
そのほうが、アンバランスで、
「遠くに咲いている花と近くに咲いている花」
というように、陰影がつく感じにもなります。
下のほうに花を咲かせた枝をいけ、
重めのポイントを
全体のどこかに つくるといいかもしれません。
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長い、短い、重い、がポイントですね。
壱岐
でも、そこまでスタイルをつけなくても、
無理のないように、自然とこうなった、という
「たまたまの偶然」が
心地いいと思いますよ。

人間もそうですが、
完璧で、カッコよくて、頭もよくて、
なにもかもすてき、というよりは、
どこかアンバランスなほうが魅力的で、
そそられちゃうんです。
なにか欠けてる感じがするというか、
不完全なものが魅力的というような
いけ方が好きです。

枝ものは、そのアンバランスさが作りやすいので、
おすすめです。
自然のもつ「たまたまできあがった不完全さ」が、
逆に凛とした感じになるなぁと思いますね。

(つづきます)
2017-03-16-THU
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桜を紹介します。

ケイオウザクラ(啓翁桜)

日本で最も多く「切り花栽培」されている桜。
切り花に向く理由は、丈夫な性質を持っていること、
また、樹形が「株立ち」で育つから。
それゆえ「お花屋さんにある最もポピュラーな桜」で、
日本の人が思い描くスタンダードな桜といえば、
このケイオウかソメイヨシノのどちらかといえる。
同じ時期に咲くヒガンザクラに比べ、
もう少し濃いピンクに色づく。

※ケイオウザクラの花束は、
「生活のたのしみ展」で購入できます。

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