じぶんに桜の花束を。
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桜に出会う編 そら植物園 西畠清順さん
001:なぜ桜が好きなのだろう。
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3月24日から、六本木ヒルズで開く
「生活のたのしみ展」のたのしみ商店街に、
清順さんの「そら植物園」が
桜の花束のお店を出してくださることになりました。
清順
つぼみをたくさんつけたものを用意しますから、
店に並ぶ桜は満開ではないけど、
お花見する気分で、遊びにきてもらえたら
うれしいです。
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おうちに桜を持って帰ってもらって、
つぼみから開花をたのしめるような花束や鉢植えを
たくさん並べます。
みなさんそれぞれの気持ちにあう桜を選べるよう、
品種も5つほど用意する予定です。
プラントハンターとして世界を飛び回る
清順さんにとって、
桜はいったいどういう意味をもつ花ですか?
清順
日本の春をいろどる花は、桜のほかにも、
いっぱいあるわけですよ。
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はい。
清順
サンシュユ、レンギョウ、ロウバイ、
アブラチャン、ダンコウバイ‥‥、
いちはやく春を告げる花は、たくさんあります。
そういう花は、ウメを別にすれば、
じつはたいてい黄色です。
春は、自然界では黄色い花が、
まずは咲いていきます。
──
じつは黄色が春を知らせる‥‥。
清順
それからウメ、モモ、リンゴ、カリンなんかも、
桜と同じバラ科で、とてもきれいな花です。
だけれども、なぜか桜が
ぶっちぎりに人から愛でられます。
なぜか。
──
なぜでしょう。
清順
「なんでなんかな?」というのは、
俺にもじつはわからないです。
──
(笑)
清順
なんでこんなにみなさん、
ぶっちぎりに桜が好きなのかな?
フジやらシャクナゲの開花情報は
ニュースに出ないけど、
桜だけは咲くたびに
全国のニュースになる。
なんでなんかな?
──
ほんとうに、なぜでしょう?
清順
仕事柄、ぼくはいろんな国々に行くんですが、
「日本の国花のひとつが桜である」
ということは世界じゅうで有名です。
──
そうなんですか。
清順
アルゼンチンの国花、ブラジルの国花、
インドの国花、
知らないですよね?
カナダはメープルが国旗になってるから
楓なのかな~? と想像つくかもしれないけど、
「日本の桜」はめちゃくちゃ有名です。
──
へぇえ、それはなんだかうれしいです。
そもそも桜の木は、どこが原産ですか?
日本ですか?
清順
日本にももちろん野生種はありますが、
アジアが全体的に起源だと言われています。
いやいやヒマラヤだ、という学者さんも
いるんですけど、
中国、韓国、日本という説が主流。
現在の日本に自生する桜は、もともとの野生種と、
ほかの国から入ってきて
古来から定着している種、交雑種があります。
桜ほど、歌から絵から、ずぅ~っと、
いろんなものに描かれてきた木は
ないんとちゃうかな、と思います。
──
桜はそんなにも、日本でずっと人気なんですね。
清順
でも、最初のブームは梅でした。
遣唐使か遣隋使の時代か、
もっと前かわからないけど、
梅が中国から日本に入ってきて、
えらいブレイクしたわけです。
──
平安時代以前あたりでまず梅がブレイク。
清順
みんなが梅を観るのがヒップな時代が、
まずありました。
そのとき桜は
「山で生えとる地味な花やな~」てな
感じだったと思うんです。
それが、たぶん平安時代以降に、
梅に桜がとってかわったんですよ。
──
そこでなにがあったんでしょう?
清順
ぼくが思うに、それはやっぱり、
あの、木全体で激しく咲く感じに、
人が感情を重ねやすかったのかもしれない。
桜は、日本の人にとって
カリスマ性がある木だったんですよ。

世界をまわってきて、ぼくはつくづく思うんですが、
とにかくこれまで
地球上のあちこちの地域で、独特な文化が
同時多発的に育まれてきたわけです。
そして最初は、
そこにいたローカルの植物に文化が影響を受け、
人のライフスタイルが形成されてきたという
部分があると思います。
その地域地域に、
ほんとうに多様な植物があるし、
必ずと言っていいほど、それぞれの地域に
代表的な、影響力の大きな植物というのがあります。

アフリカ大陸のバオバブの木、
ヨーロッパ大陸のオリーブの木、
アメリカだったらセコイアでしょうか。
なぜその植物が
影響力が大きい存在としてそこにあるのか、
ほんとうの理由は、わからない。
日本だと、それがまさに桜です。
──
迫力や美しさがその土地に合っていて、
どんどん別格化されていくんでしょうか。
清順
うん、そうですね。
日本人は、山に咲いているこの木に、
わざわざ「さくら」という名前をつけたわけですよ。
桜の「さ」というのは、
「神さま」という意味があると聞いたことがあります。
山や田んぼの神さまのことだそうです。
「くら」というのは、
神さまが舞い降りてくる場所だそうです。
だから、意味的には「さくら」は
神さまが居てくれる場所、という言葉です。
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神の木、ということですね。
清順
そうです。
べつにシラカシでもレンギョウでもよかったのに、
昔の人が、
「これが神さまの木だ」
というふうに呼びはじめたんです。
ぼくもなんだかんだいって、
桜がやっぱり、
植物のなかではいちばん好きです。

(つづきます)
2017-03-14-TUE
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桜を紹介します。

エドヒガンザクラ(江戸彼岸桜)

数ある日本の桜のなかでも、たいへん長寿の桜で、
樹齢1000年を超える木もあるといわれる。
日本にもともとあった、野生種を代表するひとつ。
お彼岸(春分)あたりに咲くことから
この名で呼ばれる。
花の色は白めのピンクで、素朴で可憐。
西畠清順さんにとって最も想い入れのある桜。

※エドヒガンザクラの花束は、
「生活のたのしみ展」で購入できます。

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