第7回  その海に、とびこみたい。
 
糸井 関野さんが今回の展覧会をされる
目的のようなものって、ありますか。
関野 そうですね。
おそらくいま、日本はピークだと思うんです。
絶頂期。
だから、きっとこれから下り坂ですよね。
悪くなるだけじゃなく、
もしかすると、生き残れないかもしれない。
じゃあ‥‥どうしよう?

だから、このタイミングで
自分たちのことを考えてみようよ、
と、そういう話なんです。
糸井 ええ、ええ。
関野 世界には本当にいろんな生き方、見方、考え方を
している人がいるわけで、
そういう人のことを知るだけでも、
見える「自分」がやっぱりあると思うんです。

南米に通いつづけて、
すっかり南米の頭になっていたぼくも、
「グレートジャーニー」で他の地域に行って
見えてきたものが、たくさんありましたから。
糸井 ああ、なるほど。
つまり‥‥関野さんが
今回の展覧会でされようとしているのは、
「ここに行ってきました」という証拠を出すことや、
「達成しました」という報告をすることでは、なく。
関野 そういうことでは、なく。
糸井 「グレートジャーニー」を通して、
来る人になにか、
考える「きっかけ」のようなものを提供できたら、
と、そういうことなんですね。
関野 そうなんです。
ただ「きっかけ」なんて人それぞれだから、
最終的に「きっかけ」になるかどうかは
来る人にゆだねることになりますが。
ぼくらは、その
「きっかけ」になるかもしれない道具を
できるだけ準備してみました、
ということなんですよ。
糸井 ああー。
関野 ぼくがどうして旅をしているか、
なぜいろんなことをやってきたか、といったら
「気づきたい」
「自分自身の発見をしたい」
ということなんです。

それで、今回の展覧会は、
みんながそういうことをやるための、
道具になってほしい。

もちろんその道具は
「グレートジャーニー」じゃなくても、
いいんですけど。
神田 あと、関野さんがずっとおっしゃっていたのは、
「結論を出さないでください」ということでした。

展覧会ってどうしても、なにかストーリーをつくって
「これを伝えたい」とか、してしまいがちですけど、
関野さんは一貫して
「それだけはしないで」とおっしゃってて。
糸井 ああ、大賛成ですね。

「こう考えるべきです」みたいに
大事なことの順番が結論づけられて
しまったとたん、
「グレートジャーニーは、こんなに役立ちます」
みたいことになりかねないですけど、
それは、違いますよね。
関野 違いますね。
ほんとにぼくは、考えてもらうだけでいい。

こっちが結論を出す話でもないし、
来た人に「こう考えてくださいね」という
話でもないから。

その部分は来た人のものだし、
それにたった1、2時間、展覧会を見るだけで
結論が出ちゃうとしたら、
それはむしろ浅くなっちゃうと思うんです。
糸井 そうですね。
神田 それで‥‥こちらが展覧会の公式カタログなんですけど。
糸井 こんなすごいカタログを作るんですか。
よく、写真を撮りましたね。
関野 これは、アマゾンのマチゲンガ族という、
ぼくがずっと親しくさせてもらってる人たちの
ページなんです。

ぼく、彼らと40年の付き合いになるんです。
糸井 ‥‥40年。
関野 たとえば、
最初会ったとき、生まれたばかりだったこの子が、
この写真が10歳くらい。これが14歳。
これが10年前に行ったときで、30歳くらい。

このとき、彼はこの奥さんを
兄貴からもらいうけてたんですけど、
この前行ったら二人は別れてて。

去年の夏に行ったのがこの写真。40歳。
今度は違う奥さんを、
また、兄貴からもらってた、っていう。
糸井 ええ、ええ。
関野 一般的に、彼らを撮った写真って、
絵画のような、すごくきれいな写真もあって、
ぼくもそういう写真、好きですけど、
そういう写真って、なんだか彼らと、
固有名詞で付き合っている感じがしなくて。

で、ぼくは彼らと
固有名詞で付き合うことが大事だと思ってて。

だから、そのページは、
ぼくが目にしてきた固有名詞のほうの
彼らにしたんですけど。
糸井 ああー。
そういった話からだけでも、
いろいろ考えることができそうですね。
関野 あと、この写真は
昨年10月にテレビの番組で
ギアナ高地に行ったときのものなんですけど、
すごい光景だったんです。

ほんとにでかすぎる光景なんで、
写真ではぜんぜん、表現できないんですけど。
無理で。

ただ‥‥ほんと、なんといえばいいかな、
要するに、ぼくは、
「ときめいた」んですね、この光景に。
糸井 それは、すごかったんでしょうね。
関野 本当に。すごくて。

そのとき一緒にいたスタッフが、
「グレートジャーニー」でも一緒だった
20年くらいつきあいのある人たちだったんですけど、
この景色を見たあと、
彼らがぼくに、インタビューをしたんです。

その質問が
「22歳にもどったら、何をしますか」というもので。
糸井 ええ、ええ。
関野 それで、彼らが、
「関野さん、どうせ同じことするんでしょ。
 グレートジャーニーするんでしょ?」
と言ったんです。
糸井 はい。
関野 ‥‥でも、ぼくはこう、言い返したんです。
糸井 あ‥‥え、違うんですか?
関野 僕の答えは、
「いや、違う。ぼくは恋をしたい」って(笑)。
糸井 おおー。
関野 そしたらみんなから、
「関野さん、壊れちゃった」
「さっきときめいてたじゃないですか」とか
言われたんですけど(笑)。

ずっと付き合ってきた彼らは
ぼくがいつも、こういう
壮大な景色にときめいてきたから
ぼくが、そんな「恋」にときめくとは
思わなかったみたいで。

だけど、違うんです、
それはそういうものなんです。
糸井 いや‥‥その感覚は、わかりますね。

その「恋」という
ことばの意味そのままの「恋」かは知りませんけど、
その海に、とびこみたいですよね。
関野 ですよね。そうなんですよ。
糸井 あの、説明しようと思うと困るんだけど
ぼくはたぶん、
自分も同じ事言ってると思いますね。

それは、そういうことなんですよね。
関野 そう、そう、そう。
うまく言えないんだけど(笑)。
糸井 ただ、この景色を前にして言うのは、
おもしろいですね。
釣り合いの大きさが、よくわかります。
神田 ‥‥22歳に戻って、恋をしたいということですか?
糸井 ではないと思う。
年齢は関係ないんじゃないかな。

変な言い方なんだけど、死んでからでもいい。
生まれる前とか、死んでからでもいいやって
ぼくは思います。観念ですけど。
関野 まあ、今でもしたいのはしたいですけど(笑)。
一同 (笑)
神田 ‥‥展覧会、どんな反応になるか、
ちょっとドキドキしてます。
糸井 いや、もう、まず関野さんという人がいて、
関野さんがされてきた旅があるわけですから
大丈夫ですよ。

それで「都合」が悪いという人は、
なにか「都合」がある人ですよ。

ぼく、関野さんは
「都合」でやってる人じゃ、ないと思うんで。
神田 そうですね。
糸井 また、なにかお会いするかもしれませんけど、
どうぞよろしくお願いします。
関野 あ、こちらこそ、よろしくお願いします。
神田 展覧会、ぜひお越しください。
6月までやっております。
糸井 あ、行きます。
今日はありがとうございました。
面白かったです。
関野 ありがとうございました。
ぼくも、面白かったです。
神田 ありがとうございました。

(関野吉晴さんと糸井重里の対談はこれで終わりです。
 お読みいただき、どうもありがとうございました)
 
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2013-04-02-TUE
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