ジブリの仕事のやりかた。
宮崎駿・高畑勲・大塚康生の好奇心。


 ソフトを開拓する方法。


糸井 宮崎さんと高畑さんが出演した
『世界 わが心の旅』が
DVDになっていますけど、
あれを見ると、
ジブリのソフトの開発について
うかがいたくなるんです。

宮崎さんが
サン=テグジュペリから影響を受けたり、
高畑さんがフレデリック・バックさんの
影響を受けたり、さらに
宮崎さんと鈴木さんに共通するところでは、
作家・堀田善衛さんの著作から
大きな影響を受けていたりしますよね。

「何をもとにして
 仕事ができあがっていくか」
ということは、今の世の中では、
非常に重要だと思うんです。

いま、さまざまな企業が
おもしろくない理由というのは、
ソフトの源になるようなものを
仕入れることを、すっかり忘れているから、
なんじゃないでしょうか。

きっと、
ソフトの仕入れもしないまま、
「管理をもとに、
 効率よくこなして成果をあげる」
とか、
「要らないものは、捨てればいい」
とかいうことをやっているから、
組織って、大きくなればなるほど、
だんだんつまらなくなっていくんですよ……。


効率のいい農薬だけを蒔いて
連作しすぎると、
田んぼが疲弊していくみたいに。

宮崎さんの、わがままだとも言えるような
栄養分の吸収のしかたや、
高畑勲さんの、フランスの詩人からも
原案を仕入れてくるような貪欲さは、
まわり道に見えても、根本的な生産力を
保証してくれるように思うんです。

ふつう、忙しい人というのは、
割に、ある程度の年齢からは
「栄養を摂りにいくことに
 貪欲になっているヒマもない」
となりがちなんですよね、
だけど、宮崎さんや高畑さんは、
そこのところがぜんぜん衰えていない。
鈴木 そうですね。
糸井 鈴木さんも、そうですよ。
いつも、いろんなものについて
「こないだ、見てきたんですけど」
と言うじゃないですか。

仕事のためという
言いわけをしているけど、違いますもん。
もちろん、仕事のためにもなるということは
わかっていてやってるけど、
その前に「行ってみたい」が先に立つ(笑)。
鈴木 まぁ、おもしろそうだから、行くんです。
糸井 そういうのが、おもしろいんですよねぇ。
そうやって動いて
栄養を摂りに行くことが、どれほど重要か、
っていう話をうかがいたいんです。

少なくとも、
宮崎さんや高畑さんや鈴木さんの
好奇心がなかったら、
ジブリはない、とは言えますよね?
鈴木 だいたい、同じことをやっていると
飽きちゃうんですよね。
宮崎やぼくは、特に、
少しでも新鮮なことがないと、
やっていられないタイプですからね。
ただでさえ、
似たようなものを作っているんですから。
糸井 勇気のいることだとは思うんです。
目の前の仕事を片づけるためには、
どこかに何かを探しに行くっていうことは
邪魔になるはずだから。

一般的には
「たくさん映画を見たほうがいいよ」
とか
「いいレストランを
 知っておいたほうがいいよ」
とか言われがちだけど、そういう
「誰でもできそうな浅い栄養」
って、そんなに大きな意味はないですよね。
鈴木 宮崎駿は、
とにかく何かに興味を持ちますよね。

今、彼がいちばん
興味を持っているのは、「荒川」です。

なんでそういうことが起きるかと言うと、
ある日、彼は所沢に住んでいますから、
その周辺を歩いていて……
「いつも同じところを
 歩いているんじゃつまらない」
というので、今まで自分が
歩いていた範囲を広げてみたんです。

そうしたら、気がついたら
5時間ぐらい歩いちゃったわけですよ。

そこに荒川があったそうです。
その荒川の風景を見つつ、宮さんは
「この川は、
 江戸時代にはどう使われていたのだろう?」
と思う……船着き場があって、
ものを運んでいたに違いないっていうので、
次の週には郷土資料館に行くわけです。
糸井 それは最近のことですか?
鈴木 はい。つい最近です。
糸井 佳境に入っていますよね、
『ハウルの動く城』づくりは。
鈴木 『ハウル』をやっている
休みのごとに行っていました。

そのうち、宮さんは
今度、錦糸町のほうへ足をまわすんです。
さらに、
荒川の出発点と最終点を両方を見よう、
その途中も見てみようかと……
いろいろ、はじまっちゃったんですよ(笑)。

そういうことをやっているうちに、
もちろん、この先
どうなるかはわかりませんけど、
宮さんは
「鈴木さん、
 荒川を舞台にしたものを作りたいんだ」
と言うわけです。
これは、ここ半年の成果ですけど。
糸井 そういう話は、いいですよねぇ。
鈴木 宮さんは、墨田区のほうで
一時期過ごしたこともあって、
どこかで荒川が記憶に残っていたんです。

それで、今から百年以上前に、
この川を人々はどう扱っていたのか……
そこで、自分の中で
妄想がふくらんでいったんです。
もともとの彼の趣味である、
アジアのドキュメンタリーのなかでも、
たいがい大好きな作品が
「衣食住」に関するものなんです。

どういうものを着ていて、
どうやってごはんを食べているか。

東南アジアのほうって、
大家族だから、みんなで
一緒にごはんを食べるときの机がデカい。

大きな机に、大人数が集まって
みんなでごはんを食べている……
それが、彼のなかで荒川と結びつくわけです。

「江戸時代、日本もこうやって
 メシを食っていたに違いない」と。
そういう、自分の中での
架空の江戸時代を想像しているうちに、
たのしくなってくるんですね。

渡し舟にしても、
実際にどうだったのかは
あまり興味ないみたいで、
どちらかというと、今の東南アジアで
どうやって舟を漕いでいるかを、
そのまま荒川に持ってきてしまおうと……

そんなふうに、考えが
だんだんふくらみつつあるらしいんですよ。
これは短く作りたいって
言っているんですけれど、
そんなふうに、宮さんには、
夢中になれるものがいつもあるんです。
  (つづきます)


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2004-07-20-TUE


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