2018年1月、
ほぼ日の学校が始動しました。

これからいったい、
どういう学校に育っていくのか。

そのプロセスの出来事や、
学校にこめる思いなどを、
学校長・河野通和が
綴っていきます。

ほぼ日の学校長

河野通和(こうの・みちかず)

1953年、岡山市生まれ。編集者。

東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒業。

1978年〜2008年、中央公論社および中央公論新社にて
雑誌『婦人公論』『中央公論』編集長など歴任。

2009年、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。

2010年〜2017年、新潮社にて『考える人』編集長を務める。

2017年4月に株式会社ほぼ日入社。

ほぼ日の学校長だよりNo.50

「嬉しい驚き」

 日曜日(9月23日)に、大阪で開催されていた「生活のたのしみ展」(阪急うめだ本店9・10F)を見に行きました。これまで3回あった「たのしみ展」は、ほぼ日全社をあげて、という取り組みでしたが、今回は選抜チームが派遣され、初の出張での開催です。

生活のたのしみ展

 昨年11月の六本木ヒルズアリーナ、今年6月の恵比寿ガーデンプレイスの時は、「河野書店 ほぼ日の学校長の本屋さん」というお店を開きました。今回はお休みだったので、アウェイで頑張っているスタッフの激励と、菅野レポーターが「テキスト中継」で伝えてくるいかにも楽しそうな現場の雰囲気を少しお裾分けしてもらいに出かけました。

 午前10時の開店とともに会場入りすると、気仙沼・斉吉商店の斉藤和枝さんの姿が目にとまります。いつもながらの笑顔、さわやかな語り口。そこからすーいと歩を進めると、いきなりベレー帽の菅野さんと目が合います。

ベレー帽の菅野さん

 「が、がっこうちょう!」
 「もう会っちゃった!」
 「どうして来たんですか?」
 「新幹線」
 「じゃなくて、私が訊いているのは、Why?」
 「たのしみ展を見るためよ。それだけ」
 「‥‥わざわざ? 頭おかしいのとちゃう?」

 なんて、やりとりがありましたが、さっそく2つのフロアに広がる会場を歩いて、乗組員の顔を探します。いる、いる。みんな元気そうに働いています。昨晩の「終礼」の時は、4日間の疲れがドッと出て、陸に打上げられたクジラみたいでした。すっかり別人のようによみがえっています。

 東京に残っている人たちは、きっとここで一緒に体を動かしていたいだろうな‥‥そんなことを考えます。

 せっかくここまで来たんだから‥‥」――急遽、夕方の5時半から「ほぼ日の学校」の生コマーシャルを糸井さんとふたりでやることになりました。大階段前の特設ステージです。

河野学校長

 山下哲さんの司会。うまく進行してくれますが、うめだ本店のお客さんにはたして受けているのかなぁ? 最後に菅野さんが呼びかけると、会場から質問の手が上がりました。このやりとりがとても気持ちを近づけてくれました。終了後、何人かの方がわざわざ感想を言いに来てくれます。心に残るひと言もありました。

 そうそう、一日のあいだに、「学校長だより、愛読してます」という方からずいぶん声をかけてもらいました。「シェイクスピア講座」の受講生が、なんと2人も現われました。大阪から来てたんだ! ひとりはおまけに、「京都 高山寺のいぬころの店」でアルバイトをしてくれていました。

いぬころ

 河野書店」のお客さんとも10人近く挨拶しました。勧められて読んだ『砂の女』(安部公房)がおもしろかった、とたてつづけに3人から感謝されました。

河野学校長

 こういう出会いが広がっていくのは嬉しいです。からだがふわ~っと解放されていくような、のびやかな快感を覚えます。実は、それを予感させるような出来事が、前の晩にありました。JR渋谷駅の山手線ホーム――。思いがけない出会いへの期待が、そこはかとなくふくらむような出来事が――。

 もともと「セレンディピティ(serendipity)体質だ」と言われていました。人との不思議な縁を引き寄せるタイプ、といった意味合いです。「招き猫」とも言われます。お客さんを呼ぶ“福の神”らしく、学生時代、飲食店のアルバイトをすると、もうしばらく手伝ってくれないか、また来てほしい、と言われる理由のひとつがそれでした。

 招き猫はありがたいのですが、困ることがないわけではありません。空(す)いているはずの店だから、と思ってどこかの飲み屋やレストランに行くと、その日に限って混み始めます。「いつもは違うんですよ。このところヒマだったんです」とか言われるのですが、静かに人と話をする雰囲気ではなくなります。

 おまけにセレンディピティ体質なので、往々にしてそこで誰かとばったり会ったりします。いよいよ、ゆっくり話をするどころではなくなります。

 とはいえ、思いがけない出会いは誰もが心のどこかで待ち望んでいるもの。ふとしたことから幸運の扉がひらいたり、予想外の何かが始まります‥‥。それにしても、JR渋谷駅での深夜の出来事は、これまで一度も経験したことがない、あまりにピンポイントの遭遇でした。

 その前日、恵比寿にあるフレンチ・レストランに、およそ20数年ぶりに出かけました。思い立ったのも、多少偶然の要素があるのですが、それはこの際省きます。お店がオープンして間もない頃、ここへ案内してくれた人が思いがけない病で急逝し、それで足が遠のきました。ところが5年前、ある本の出版をお祝いする会で、ここのシェフと再会します。にわかに懐かしさを覚えました。着々と、評判のいいお店にそだっていることは風の便りで知っていました。

 ほどなくお店の女性支配人からメールが届きます。その頃、私が毎週書いていた雑誌のメールマガジンを楽しみに読んでいます、という内容でした。シェフがお会いしたと聞いたので、思わずご連絡しました、とあります。私の知り合いもちょくちょく行っているようなので、「では、そのうちに」と言いながら、そのまま延び延びになっていたのです。

 やっと行こう、と決めました。ところが、直前にアクシデントが起こります。一緒に行くはずだった相手の都合が悪くなります。店を当日キャンセルするのはご法度(はっと)なので、急遽“代役”を頼みました。5年前に本の出版をお祝いした当の著者に連絡したのです。

 こうして20数年ぶりのお店訪問が実現しました。内装はすっかり変わっていましたが、味も雰囲気も言うことなし。お店が空いていたのも、私にすれば“上出来”でした。

 翌日、仕事を終えて、午前零時前の渋谷駅山手線ホームに立っていました。メールを送りながら、遅れている電車の到着を待っていると、目の前を2人連れが通り過ぎます。脇に立ち止まったようです。

 ふとスマホから目を離し、見るともなく隣に目をやりました。相手と目が合い、え、えーッ。ことばが出る前に、目をまるくしていた相手が笑い出しました。前日会ったばかりのレストランの女性支配人! いや、驚きました。

 20数年の空白があって、今度はわずか20数時間後に、駅のホームで隣り合わせるとは! その上、一緒にいた方が、以前私がよく行った京橋のレストランの“卒業生”だというのです。昔話をひとしきり。さらに、いまやっておられるレストランが、ほぼ日オフィスのすぐ近くだとわかって盛り上がり‥‥。

 やがて、遅れてきた電車に一緒に乗り込みますが、こういう縁はつながるものだと、経験則が語ってくれます。

 そんなことがあったばかりの翌日です。大阪でも、きっと思いがけない嬉しい出会い(pleasant surprise)があるに違いないと、心ひそかに思っていました。

生活のたのしみ展

 考えてみれば、「生活のたのしみ展」も「ほぼ日の学校」も、そういう出会いや偶然の“釣り堀”のような場所なのかもしれません。そこへ行けば何かが起こる、セレンディピティの温床だともいえるでしょう。

 6日間の「生活のたのしみ展」も、無事に閉幕となりました。きっといろいろな出会いがあったことでしょう。人と人との化学反応が起きただろうと思います。昔むかしの同級生から声をかけられたという菅野さん、すっかり“出会いのカミさま”のような人気者になっていました‥‥。

2018年9月27日

ほぼ日の学校長

「ほぼ日の学校長だより」は、
ほぼ日の学校長・河野通和がお届けするメールマガジンです。

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