強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

挌闘技ドクターこと、二重作拓也さん。
現役の医師でありながら、
国内外で挌闘技セミナーを開いたり、
敬愛するプリンスの名言をまとめた
『プリンスの言葉』という本を書いたりと、
枠にはまらない活動をつづけている方です。
そんな二重作さんと糸井重里がはじめて会い、
いろいろなことを長く話しました。
キーワードは「強さ」について。
なぜ人は強さに憧れるのか?
なぜ人は強くなりたいと思うのか?
発見と驚きのつまった対談を、
全8回にわけてお届けいたします。

二重作拓也さんのプロフィール
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第8回 プリンスから学んだこと。

二重作
ぼくはいろんな格闘技を経験させてもらって、
結局は「恐れ」との戦いだなって、
あるとき気づいたんです。
糸井
あぁ、なるほど。
二重作
英語で「恐れない」という意味の
「フィアレス」ということばがありますが、
その「フィアレス」という生き方を、
ぼくはプリンスからたくさん学びました。
プリンスは恐れないし、逃げない。
プリンスはレーベルと契約してないときも、
新作アルバムを新聞や
コンサートチケットのおまけにして、
無料で配ったりしたんです。
糸井
あぁ、ありましたね。
あのアイデアはおもしろかった。
やっぱり道を切り開く時って、
みんなアイデアで切り開きますよね。
二重作
ですね。
思いつくところもすごいし、
やり切っちゃう行動力もすごい。
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糸井
それでも大ざっぱに言うと、
不良少年のような人だったわけで、
そのあとの学び方はすごいですよね。
そのスケールでそのアイデアを出すってことは、
大学で教わってもできないわけで。
じゃあ、彼がどうやって学んだかというと、
彼の居方や態度が吸収させたんでしょうね。
二重作
そう思いますね。
糸井
ぼくはNHKの『アナザーストーリーズ』という
ドキュメンタリー番組が好きで、
前に『ウィ・アー・ザ・ワールド』の
舞台裏を特集した回を観たんです。
なぜ、あのレコーディングに
プリンスはいなかったのかという。
二重作さんは観ました?
二重作
はい、観ました。
ぼくの知人も、
あの放送に関わっていました。
糸井
あぁ、そうでしたか。
知らない人のためにざっくり言うと、
1985年に全世界で大ヒットした
『ウィ・アー・ザ・ワールド』という曲があって、
当時のスーパースターが一夜だけ集まって、
全員でレコーディングをしたんです。
プロデュースはクインシー・ジョーンズですよね。
二重作
そうですね。
マイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーが、
共同で作詞作曲をしました。
糸井
そして制作サイドの人たちは、
そのレコーディングにプリンスを呼びたくて、
当時プリンスの彼女だったシーラ・Eを引き込んで、
なんとかスタジオに呼び出そうとします。
シーラ・Eには
「ソロパートを歌わせるから」とか言って、
途中で帰らせないようにして。
二重作
プリンスを呼び出すためのコマとして、
彼女を利用していたわけですね。
糸井
そうそう。
ところが、プリンスはぜんぜん来ない。
プロデューサーたちも焦ってきて
「どこにいるか聞いてみてよ」って、
シーラ・Eをつかって電話させるんだけど、
とうとう最後までプリンスは来ませんでした、
という話なんです。
二重作
プリンスはそのとき電話で
シーラにこう言ってたんです。
「やつらは君にソロパートを
歌わせるって言ったんだね?
じゃあ、歌ったら教えて」って。
つまり、制作サイドの思惑も見抜いていた。
糸井
そうだね。
プリンスの「行かない」という、
あの判断は立派ですよね。
二重作
すばらしい英断だったと思います。
糸井
ねぇー。
プリンスはあれをやった人なんですよ。
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二重作
当時『ウィ・アー・ザ・ワールド』って、
もう時代の空気なんです。
クインシー・ジョーンズ、ライオネル・リッチー、
スティービー・ワンダー、ダイアナ・ロスをはじめ、
プリンスの先輩格がゴロゴロいて、
同じミネソタ出身のボブ・ディランまでいる。
あの頃、プリンスも世界的にブレイクしたとはいえ、
将来的にどうなるかわからない20代の若手です。
音楽業界の超大物たちから
「お前来るの? 来ないの?」って詰め寄られたら、
ふつうは「行きます」としか言えないです。
そういう状況を制作サイドに
完璧につくられちゃったにも関わらず、
それでもプリンスは行かなかった。
糸井
ほんとすごいね。
二重作
じつはあれ、後日談があるんです。
糸井
後日談?
二重作
その欠席事件から10年後の1995年、
『アメリカン・ミュージック・アワード』という、
グラミー賞とは別の大きな音楽賞があって、
そのフィナーレで
『ウィ・アー・ザ・ワールド』10周年を記念して、
みんなで歌いましょうという流れになったんです。
たくさんのアーティストが
舞台上に集まって歌いはじめたんですが、
その中央にはクインシー・ジョーンズがいて、
その横にはプリンスもいたんです。
糸井
おぉーー。
二重作
テレビでも生中継されていて、
クインシー・ジョーンズがマイクをもって
『ウィ・アー・ザ・ワールド』を歌ってるわけですが、
その横でプリンスは何をしていたかというと、
ずっとロリポップキャンディを舐めていた(笑)。
糸井
はーーー!
二重作
それを見かねたクインシー・ジョーンズが、
プリンスにマイクを向けて
「お前も歌え」ってジェスチャーをするんです。
そうしたらプリンスは、
舐めていたロリポップキャンディを口から出して、
「お前はこれを舐めろ」というジェスチャーをして、
結局、最後まで歌わなかった。
糸井
根性あるなぁ(笑)。
二重作
だからもう、同調圧力で歌うことは、
フリーじゃないし自由じゃない。
「自分が心から歌いたくない曲を、
なぜ歌わなきゃいけないのか」という主張を、
大人になった30代のプリンスが、
今度はそこから逃走することなく、
その場にいながら態度で示したんです。
糸井
アメを舐めながらね。
二重作
アメで切り抜けるというアイデア(笑)。
糸井
その反骨ぶりは、徹底してますね。
二重作
プリンスのわかりづらさというのは、
何かあったときに、
それを少しオーバーに見せるというか、
強調して伝えようとするところがあるんです。
糸井
変形させるんでしょうね。
かんたんに受け入れられないような形にして。
二重作
変形させて、興味を惹かせる。
糸井
いやぁ、おもしろい人ですね。
さっき二重作さんが
「弱い自分がイヤだった」って
おっしゃったじゃないですか。
だからこどものときに格闘技をはじめたって。
二重作
はい。
糸井
だからそれは「自由じゃないから」ですよね。
二重作
あぁ、そうです!
ようは、精神的にしばられていない
自由を求めていたんだと思います。
糸井
プリンスのやってきたこともそうで、
まさしく自由を求めていた。
二重作
おっしゃる通りです。
結局、人間がもし完全に自由だったら
どういうことが実現できるか、
それをずっとやっていたのがプリンスです。
彼自身もきっと自由じゃなかったはずで、
プリンスの曲の中にも
「一度でいいから、
完全に自由な人間の役割を演じさせてくれ」
という歌詞が出てくるんです。
糸井
きょうの話には、
ぼくがいま興味もっているものが
たくさん絡み合ってるんだけど、
そこには「自由」というキーワードも
深く関わってるような気がします。
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二重作
たしかに。
糸井
さっきもちょっと言ったけど、
そういうことって
学べって言われても学べないんですよ。
だから大ざっぱに言うと、
「こういう私でいたら何でも伸びます」という、
姿勢や態度が吸収させてるはずなんです。
ぼくは「フィロソフィー(哲学)」と
「アティテュード(態度)」という表現は、
限りなく近いものだと思っていて、
そのあたりをもっと探っていくと、
例えば、自由の話になったり、
でもルールがあったほうが幸せなこともあるし、
両方がグシャグシャに混ざりあったり‥‥。
そのへんの話はまた今度にしましょうか(笑)。
二重作
はい、ぜひお願いします。
きょうはありがとうございました。
こんな感じで大丈夫だったでしょうか?
糸井
おもしろかったです。
つかみどころのない話なんだけど、
二重作さんが何をしたいんだろうという
景色は見えてくるんです。
明るいほうに飛ぼうとしてるんだなって。
梅雨空でも飯は食えるけど、
晴れてるほうがやっぱりおいしいよね、
という感じがすごくよくわかる。
二重作
ありがとうございます。
きょうは糸井さんにお会いできたし、
もう感無量でした。
すごくたのしかったです。
糸井
どうもありがとうございました。
これを機会にまた何かやりましょう。
二重作
はい、ぜひ!
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(終わります)

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