強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

強さの磨き方。格闘技ドクター二重作拓也 ☓ 糸井重里 どうしたら人は、もっと強くなれるのだろう?

挌闘技ドクターこと、二重作拓也さん。
現役の医師でありながら、
国内外で挌闘技セミナーを開いたり、
敬愛するプリンスの名言をまとめた
『プリンスの言葉』という本を書いたりと、
枠にはまらない活動をつづけている方です。
そんな二重作さんと糸井重里がはじめて会い、
いろいろなことを長く話しました。
キーワードは「強さ」について。
なぜ人は強さに憧れるのか?
なぜ人は強くなりたいと思うのか?
発見と驚きのつまった対談を、
全8回にわけてお届けいたします。

二重作拓也さんのプロフィール
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第4回 野球と格闘技。

糸井
最近「絶対的な強さ」というものを、
みんな思い込みすぎじゃないかなって、
ぼくは野球を観ながら思ってるんです。
二重作
野球で?
糸井
ぼくは巨人がひいきなんですが、
去年、一昨年と、
広島と巨人が試合をすると
「やっぱり広島は強いなあ」
と思うような物語をたくさん見ました。
二重作
はい。
糸井
試合が終わってみると、
なんとなく広島に1点多く入るような、
そんな野球が何度もあって
「またきょうも同じように負けたね」
みたいなことがつづいたんです。
それでシーズンを通して、
巨人ファンも、おそらく選手たちも、
「やっぱり強いチームってこうなんだ」
と思うようになっていって、
そのイメージが1試合1試合に必ず乗っかってくる。
そうすると勝ってるときでさえ、
「負ける可能性があるぞ」って、
どんどん考えをそっちにもっていっちゃう。
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二重作
あぁ、自分から負けるほうに。
糸井
反対に広島はそういう接戦に慣れてるし、
負けてもともとだからって、
やっぱり試合を有利に進めるんです。
ぼくの感覚では2回に1回は、
そうやって逆転負けしていた気がします。
去年までの巨人はそういう試合が多かった。
二重作
そうなんですね。
糸井
しかも負けるときって
「ちょっとした差」なんです。
いつも「ちょっとした差」で負ける。
そうなると「ちょっとした差」の正体って、
なんなんだろうと考えるわけです。
ぼくはそれ、なんだかんだ言って
「そういう接戦のときに勝ったことがある」
ことの集積にしかすぎないと思ったんです。
二重作
なるほど。
糸井
経験の集積にすぎないんだから、
もしチームを覆うメンタルが変われば、
ガラッと変わる可能性はいつもあります。
そのへんをコントロールできるのが、
たぶん監督の仕事で、
今年、巨人は原監督が復活したんですが、
そういう選手のメンタルの変え方は、
やっぱり観ていておもしろいですね。
二重作
意識のしかたで変わりますよね。
もちろん明らかに実力差があるときは別ですが。
糸井
ボクシングみたいな
実力が見えやすい試合でも、
「もしあのパンチが当たってたら‥‥」
みたいなことがいくつもあって
勝負って決まるわけですよね。
そうやって考えると、
もしかして「強さの差」って、
そんなにないようなところで、
みんな戦ってるのかなって思ったんです。
二重作
ぼくは巨人や広島について、
詳しくはわからないんですが、
もしかしたら巨人の選手たちは、
広島のことを「広島だ」と意識して
試合をしてるんじゃないでしょうか?
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糸井
そうだと思います。
で、それは広島もそうなんです。
二重作
きっと、そうですよね。
で、たぶんですけど、
広島は巨人の強さを認めているはずです。
糸井
ほう?
二重作
つまり、広島は巨人の強さを認めて、
それをちょっとだけ上回ればいいよね、
という意識で戦ってるはずです。
なぜなら、そういう戦い方って楽なんです。
別に圧勝する必要はないですから。
糸井
あぁ‥‥。
二重作
ぼくが強い人と試合をする時って、
全力でワーッて攻めるとたいがいやられます。
そういう戦い方じゃなくて、
相手の攻撃をひたすら避けたり、外したり、
ディフェンスしたりして、要所要所で1発返す。
ガードしてポジションを変えて、また1発返す。
これをずっとつづけると、
ピリオドで「返す」が印象づいて、
勝ちを引き寄せやすくなります。
ようは、最初から大勝ちを諦めるからこそ、
強い相手にも勝てる可能性が出てくる。
糸井
大勝ちしたい欲望を消すわけだ。
二重作
ぼくが5、相手が10の強さなら、
ぼくが11を出すのは無理です。
6をプラスするのはキツいので。
だからまずは、
相手に自分のところまで
降りてきてもらう方法を考えます。
自分と同じレベルに引き下げて、
そこからがほんとうの勝負になります。
まずは相手の強さを10から5にする。
そのあと1だけでも
相手を上回ることができれば、
ぼくの勝ちです。
糸井
うわぁ、いいなぁ(笑)。
ほんとにその通りですよ。
二重作
相手の強さを見きわめて、
その強さを発揮させない。
そういう戦いの場合、
強いパンチや蹴りもそんなにいりません。
しかも、ぼくはリーチが短いですから(笑)、
最初から強い攻撃を出すと、
向こうが距離をとって逃げてしまいます。
そうなると戦い自体が成立しません。
まず相手には「やりやすい」と
感じてもらわないといけないんです。
糸井
相手に引かせてもダメなんだ。
はぁぁ、深いですね‥‥。
二重作
ボクシングの村田諒太さんも、
あれほどすごいパンチをもってますが、
相手が完全に逃げ回ったらチャンスがない。
糸井
去年のブラントに負けた時は、
まさにそういう試合でしたね。
二重作
そうですね。
だからリベンジマッチのときは、
相手に「逃げる」を一切させなかった。
強さのギアチェンジの
お手本のような試合でした。
糸井
いまの話は、
すっごくたくさんの応用問題がありますね。
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二重作
たぶん広島の選手たちも、
「きょうの巨人の強さはこのぐらいだな」
というのを探りながら戦ってると思うんです。
巨人の攻撃をじっと耐えて、
まずは自分たちの得意なかたちにもっていって、
最後にほんの1点だけ上回れば
俺たちの勝ちだぞって。
糸井
そういうふうに負けてますよ。
二重作
だから思いっきり勝ってやろうとか、
そういうことは考えてないと思います。
あくまで想像ですけど。
糸井
どんなことでも
相手を力でねじ伏せようとか、
圧倒してやろうというときって、
たいがい危ないですよね。
だって、それは感情の話だから。
それは「謙虚になれ」とも違うわけで。
二重作
違いますね。
日本人はわりと謙虚が好きだけど、
そういうレベルの話じゃなくて、
もっと戦略的な話なんです。
そういう感情は抑えていかないと。
糸井
おもしろいなー。
思えば、そんなことだらけですよ。
最新とか、最大とか。
人ってそういうことを、
つい言いたくなっちゃうんでしょうね。

(つづきます)

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