聖光学院対いわき光洋

準決勝、というのは、
スポーツファンにとって、
たいへんもどかしい存在である。
なんというか、こう、落ち着かない。

だって、準決勝というのは勝てば決勝である。
当たり前のことをわざわざこう書いて確認するほどに
準決勝というのは落ち着かない。
ついでにもう一度書いておこう。
準決勝というのは、勝てば決勝である。
勝てば決勝となるのが、準決勝である。
わかった、わかった。

わかりやすいのは、
オリンピックにおけるそれであろう。
夏、冬を問わず、およそあらゆる競技において、
国際的にはセミファイナルという呼称でとおる
準決勝というのは落ち着かない。
だって、勝てばメダル確定である。
勝てばメダル確定となるのがセミファイナルである。
セミファイナルとは勝てばメダル確定であって
セミの生涯の最期のことではない。
わかった、わかった。

まえにもそういったことを書いたけれど、
最後の最後の勝ち負けというのは、
ある意味で、あずかり知らないことであると思う。
ことに、伝統のある大きな大会においては、
決勝戦という最後の一戦は、
すでに、人事は尽くされているという感がぼくにはある。
あとは、やるだけです、という、
潔い姿が、臨むほうにも観るほうにもあるのだと思う。

けれども、準決勝というのは、その一歩手前にある。
もちろん、そこに至るだけでも
十分に人事は尽くされているのだと思うが、
観る側の勝手な言い分としては、
もうひとつだけハードルを越えてくれと
身勝手に祈りたくなる。

ものすごく乱暴にたとえるなら、
ジャンケンに勝とうが負けようが後悔はないが、
ジャンケンができなかったら後悔が残る。
そんなような気分なんですが、
ひょっとしてこれ、ぼくだけですか。

ともあれ、第93回全国高等学校野球選手権福島大会、
いよいよ準決勝である。

めずらしいものを観た、と思ったのは、
初回、聖光学院の内野陣が
マウンドに集まったからである。

一回の表、いわき光洋高校は
ヒットと送りバントのあと、
フォアボールを選んで
ワンアウト一塁三塁と
先制の絶好のチャンスを得た。

ここで斎藤監督はどっしり構えるのではなく、
いきなり間をとりに行った。
こういうところにぼくはしびれてしまう。

初回、打者が3人めぐったばかりである。
試合開始から数分、というところだろう。
いかにわかりやすいピンチとはいえ、
そこが試合のポイントであると見極められるだろうか。

強いチームというのは、
野球がうまい選手がいるというだけではないのだ、
とまたしてもぼくはつくづく思う。

たっぷり間をとった歳内くん、
四番遠藤くんを内野ゴロに打ち取る。
三塁ランナーは、そのまま。

そして、5番渡辺くんを、
伝家の宝刀スプリットボールで空振り三振!

沸く、聖光学院ベンチ。
丁寧な野球だと思う。


そして1回裏、ツーアウトから、
3番遠藤くんがライト線にツーベース。


そして四番‥‥あっ、福田くんじゃない。
斎藤監督、打順を組みかえてきた。
四番福田くんを五番に下げて、芳賀くんを四番に。

慌ててぼくは前日のスコアブックをめくる。
ああ、たしかに、福田くんだけがノーヒットだ。

しかし、それにしたって、
ここまでの4試合で38点とってる打線である。
ぼくは、こういうとき、まったく意味なく
自分をそこに置き換えて考えてしまう。

もしも自分が聖光学院の監督なら、
準決勝で好調の打線のなかにある
不振の四番打者の打順を下げられるだろうか?

初回のピンチにとったタイムといい、
打順の組み替えといい、
大会の終盤に、斎藤監督の細やかさを感じる。
それは、名匠の仕上げを彷彿とさせる
ちょっとすごみのある丁寧さだ。




そして、四番にすわった芳賀くんが、
応えてものの見事に打つのである。
センターオーバーの三塁打!



ホームインした遠藤くんも
打った芳賀くんも拳を突き上げる。
ツーアウトランナーなしから、
ふた振りで先取点、お見事。

ちなみにこの日は、
ベスト4激突の準決勝とあって、ほぼ満員。
おまけに第一試合は暑かった。

2回表、いわき光洋は、
歳内くんの前に三者凡退。

その裏、先頭の斉藤侑希くんが
右中間を深々と破る三塁打。

ワンアウト後、背番号16番の川合くんが
バッターボックスに入る。

ちなみにさて、聖光学院のベンチ入りメンバーとして
登録されている20人はほとんどが3年生なのだが、
この川合くんと斎藤湧貴くんのふたりだけが2年生。
そしてふたりとも、レギュラーとして
3年生を差し置いて先発メンバーに名を連ねる。
そりゃもう非凡なのだろうなぁ、と思う。

スクイズ! 決断、早い!



決まって、聖光学院2点目。
いや、ほんとに、そつがないなあと思う。

その後は、歳内くんのスプリットがさえる。
フォアボールは出すものの、ヒットを許さず、
毎回三振を奪っていく。

いわき光洋のエース、
遠藤くんも丁寧なピッチングで粘投。
ちなみに遠藤くんは津波で自宅を流され、
自身も濁流にのまれかけたそうです。




暑さのなか、声をからす
いわき光洋高校応援席



しかし4回裏、ランナーを2塁において、
2年生川合くんがレフトオーバーのツーベース。
聖光学院、3点目!

5回から、いわき光洋のピッチャーは
2番手、渡辺啓太くんにスイッチ。

ちなみに、5回の表裏が終わると
グラウンド整備の時間があるんですが、
この日は午前中から暑く、
水まきが気持ちよさそうでした。



水を吸って黒く湿ったグラウンドで、
歳内くんが躍動。
6回を終えて、早くも11奪三振。





これぞ夏の高校野球、という暑さですが、
お客さんはどんどん増えている印象。
あ、外野席では照明の日陰を上手に利用。



6回裏、ふたつのフォアボールと、
キャプテン小澤くんのヒットで
聖光学院、満塁のチャンス。

ここでまたしても背番号16番。
今日は要所で彼に回るんです。



2年生川合くん、レフトへ犠牲フライ。
川合くん、この試合3打点目。
しかも、スクイズ、タイムリー、犠牲フライ、
というバラエティー。
監督がつかっちゃうわけだなぁ。

これ以上離されたくない、いわき光洋。

代打に、なんだかでっかい選手が登場。
応援歌は『大きな古時計』。
三塁側スタンドは盛り上がったのですが、
残念ながら歳内くんを打ち崩せない。

7回を終えて、4対0と聖光学院リード。
いわき光洋、なんとかしたい。

8回表、聖光学院、もうひとりの2年生、
センター斎藤湧貴くんがナイスキャッチ!
いわき光洋、ランナーを出すも、無得点。

そして、8回裏、聖光学院に貴重な追加点。
5対0となって、
最終回、いわき光洋の攻撃へ。



ワンアウト!

代打、青木くん。

空振り三振! 14個目!

いわき光洋、最終回の攻撃、
ツーアウト、ランナーなし。
続いても、代打。背番号10番。佐藤孝史くん。
ああ、もう、どういう気持ちだろうか。

「タカフミー!」「タカフミー!」と絶叫。
応援歌にのせるようなものではなく、
もう、ただただ、名前を叫ぶ。



歳内くんが奪ったこの日15個目の三振で、
いわき光洋高校の夏は終わった。



最後のバッター、タカフミくんは天を仰ぎ、
そこへ、試合終了の整列のために、
両チームのメンバーが集まってきた。



タカフミくんはバットを持ったまま、整列。
そのバットをどうしていいのか、
きっとわからなかったと思う。



だって、だれもそんなこと、
想定していないと思うんです。
自分が最後のバッターとして三振して、
そこで整列がはじまったときに、
持っていたバットをどうしたらいいか、なんて、
思ってもみないと思うんです。



あと少しで甲子園だったけど、届かなかった。

けっきょく、聖光学院は、
一度も試合の流れを手放すことがなかった。
圧勝というわけではない展開だったが、
チャンスを確実にものにしていく、
チームの力を感じる試合だった。



試合後、エールの交換。
健闘を讃え合う、両校。
聖光学院、決勝進出。5連覇へ、王手。

そして、準決勝第2試合は、
須賀川高校対小高工業高校。





もしも、球場へ、高校野球を観に行きたいなと
思ったかたがいらっしゃったとしたら、
試合前のシートノックから
観ることをオススメします。





試合前のシートノックはね、
こう、高まってくるものと、無理矢理に高めるものと、
緊張感をごまかすかのようなやみくもな元気のよさと
あと、試合の準備のために身体をとにかく動かす、
みたいなことがわやくちゃになって、すごく、いいんですよ。
チームカラーのようなものも伝わるし。





両チームのノックが終わると、
グラウンドが試合用に整備され、
試合開始となります。





そして、整列直前には、両チームが
応援席の前で円陣を組んで
「とにかくものすごく声を出す」というのをやります。
(あ、やらない高校もあると思いますけど)
で、これ、観てると、こっちも高まるんですよ



いずれにせよ、
行ってみるとおもしろいですよ、高校野球。
野球にそんなに詳しくなくても。



さて、この日2試合目となる、
須賀川高校対小高工業高校の準決勝。
ぼくは、自分が、試合がはじまるのを、
ちょっとこれまでにない感じで
たのしみにしているのに気づきました。



なにかというと、この試合、
ひさしぶりにぼくは、
自分が取材しているチームと関係なく、
どちらにもほとんど知識が偏ってない状態で、
試合を観たわけなんです。



どっちに肩入れするか決めることなく観はじめて、
観ているうちに、いつの間にか、
どちらかの高校を応援しはじめている。
そういった観方は、ぼくにとって、
高校野球を観るときのたのしさのひとつです。

小高工業高校は、
福島第一原発から20キロ圏内にあり、
サテライト校に分散しての練習を
余儀なくされている高校です。
よくぞここまで勝ち残った、と思えます。

一方の須賀川高校は、開幕式で、
ぼくがまったくの気まぐれで、
「あ、このユニフォーム、かっこいい!」
などと褒めたチームです。
失礼ながら、開会式のときにはほとんど知識がなく、
準決勝まで残るなんて思ってもみなかった。



序盤、自分がどちらに思い入れを持つのかと、
なかばたのしみにしながら観ていたのですが‥‥。





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突然、強い雨が降り出して、
準決勝第2試合は翌日へ延期となりました。
決勝戦も1日、うしろへ。
そんなわけで、ぼくの福島滞在も
一日延びることになりました。