BOOK

男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう

テレビ数百チャンネル時代の快楽
(シリーズ4回)

第1回 CS放送だからできたこと

第2回
テレビは二極分化する
渡邊 話をもどすと、衛星放送の時代になって、
限られていた映像文化がさらに民主化されて、
ますます開放されていってるんですよ。
だから、テレビに出る人もおそらく、
これまでのスターと言われた人だけじゃなく、
「こんな人まで」ということに当然なるでしょう。
現場サイドのことでは、つくり方の方法論も
ぜんぜん違ったものになっていく。
金がない、見ている人が少ないという中で、
今までのテレビと同じ方法論でやろうと思った人たちは、
多分、負けていくんだろうし、ハンデを逆手に取って
面白がったところが勝つんでしょうね。
テレビが始まったとき、映画と同じようにやろうとした
脚本家や監督たちが淘汰されましたね。
それと同じことが、もう一回起こるだろう
という気がします。
糸井 今までだと、テレビに出る人いうのは、いい顔してる、
いい歌をうたう、いい考えをもっているというように、
何か能力をもつ人が、テレビという素晴らしい宮殿から
下々の者に向けてものを発しているという感じが
ずっとあった。
これからはどうなるかというと、
特別な人が広場からものを言うんじゃなくて、
カラオケのマイクみたいに、
そのとき言いたいことがある人が出ていくんだろうな。
そうすると誰もが可能性をもっちゃうから、
ギャラも安くなる。
小牧 でも、逆方向もありますよ。
糸井 おっとっと。
小牧 テレビ放送の歴史って、もともとアメリカのGE
(ジェネラル・エレクトリック社)がNBC
というテレビ局をつくったところから始まってましてね。
テレビそのものを発明したのは他の人だけど、
GEがそれを大量生産した。
このテレビという箱を売るために、
「こういうのを流していますから、
この箱を買ってください」とNBCで
いろいろな番組をつくった。
そして、普及率がゼロからぱーっと上がったんです。
箱を売るのが主で、番組は従。
そして、ある普及率までいったところで、
こんなに人が見るんなら、そこに宣伝を入れればいい
ということで、次にテレビは広告媒体になった。
今度は宣伝、コマーシャルが主で、
番組はやっぱり従なんです。
つまり、番組が主役だったことはないんですよ。
糸井 映画はずっと番組が主役だけど。
小牧 ところが、ペイ・テレビというものが登場した。
契約して、毎月一定の料金を払って見るというやつ。
そこではじめて番組が主になったんですよ。
なぜならば、そのチャンネルの中身が面白いから
契約するのであって、コマーシャルが多すぎたら
契約しないですよ。
さらにペイ・テレビの究極がペイ・パー・ビュー。
これは番組を見るごとに料金がかかるというもので、
こういうふうにテレビが有料になってくると、
しょせん従だった番組が、
今度はいい加減ではすまされなくなってくる。
もちろん、それまでも、いい加減につくっていたつもりは
ないですけど。
渡邊 それは、僕に対する批判でしょうか。(笑)
小牧 いや、自分に言ってるんです。
テレビ局に就職したとき、僕は番組をつくりたい
と思って入ったわけですよね。
それが最初に営業局の研修を受けたとき、
コペルニクス的なショックを受けたんです。
「番組をつくりたい」と言ったら、
「ああ、おめえも特別催し場のミレー展やる気か」と。
デパートで言うと9階の催物場まで
エスカレーターで上がる途中に商品がある。
で、買ってしまう。
つまり、あいだの階にある商品がコマーシャルであって、
主役は実はこっちなんだと。
番組は、いわばそこに人を呼ぶための
特別催し物場ヘビ展なわけですよ。
渡邊 ミレー展からヘビに変わったけど……。(笑)
小牧 ヘビ展のほうが、人をわーっと集められるかなと思って。
渡邊 ミレーが描いてるヘビならいいですね。(笑)
小牧 ビジネスとしては、たしかにそうなんです。
コマーシャルは間違いなく稼ぎ頭ですから。
それが、はじめてペイ・テレビで番組が主役になると、
客を呼べるソフトに関しては
いくら金をかけてつくってもいいじゃないか、
ということになる。
下手すると、映画をつくる以上に丁寧に、
壁紙がわずかに汚れていても張り替えるとかね。
銀座5丁目の鳩居堂は徹底的にこだわってつくるぞ、
みたいに。
その一方で、誰もが出られるぞ、というのもあって、
その二つが共存する。
だからこれからは完全な二極分化ですね。
糸井 鳩居堂の前にも歩行者天国があります状態なんだ。
小牧 ホコ天の露店をのぞく人々と、
きちっとした高い商品を買う人と……。
糸井 棲み分けしてる。
となると、出る側にしても、昔は芸能人が出世すると
歌舞伎座に出たじゃないですか。
ホコ天と歌舞伎座って本当は別のものだけど、
ヒエラルキーのなかの底辺と
頂点としての意味合いがあった。
だけど今は、どっちかを選びつつある。
小牧 同じピラミッドにないということですね。
さっきの糸井さんの話にもどると、
本物のギャラはどこまでも上がる。
それ以外は、うんと安くなる。
糸井 そうすると、つくる側も、どっちかに絞ってつくる
という思想をもたないと、どっちも
半端になるということね。
小牧 そうです。だから、未来のテレビは
ワールドカップの中継と、
『ワールドカップだけのための500時間』
に分かれるんですね。
渡邊 ワールドカップというのは、
オリンピックの何倍ものすごいお金をかけたもの。
『ワールドカップだけのための〜』は、
金はかからないけど、面積が広くて、
何やってもいいぞという、この二つの方向がある
ということですね。
小牧 その通りです。
糸井 『ワールドカップだけのための〜』って、
制作費はどのくらい?
小牧 地上波の番組から言うと、二桁落として、
さらにその半分くらい。
糸井 消費税より安くつくってる。
小牧 単位時間だと、そんな感じです。
渡邊 もう一つの図式としては、われわれが番組をつくるとき、
その番組に「啓蒙」する部分と
「共感」を得るところが両立していると、
だいたいよく当たると言うんですよ
かつての『ニュースステーション』だったら、
久米さんは思いきり共感する、小宮さんは後ろに
報道局を背負ってるぞという顔をして、
びしっと啓蒙していくという、
この二つがあるとうまくいくんです。
音楽番組でもバラエティでも、ちょっと知らない、
「へぇー?」ということと、共感の部分と両方がいる。
その昔の映画の頃とか、初期のテレビは
けっこう啓蒙が多く、今は共感に
どんどん傾いてきたんですけど、これからのテレビは
ちょっと違ってくるかもしれません。
小牧さんが言った金かけてつくるというのは、
ある主の啓蒙です。質の高いショーはこういうものだ、
質の高い報道とはこういうものだ−−。
糸井 NHKなんかそうかもしれない。
渡邊 『NHKスペシャル』なんて、われわれが興味をもって、
本もたくさん読んでるようなことでも、
「知らなかった」ということを次々と出してくる。
あれは9割が啓蒙だったりするんですけど、
やっぱりすごいと思います。
NHKは多チャンネル時代になっても、民営じゃないから、
これまで通りの予算で芸能人をいっぱい集められるし、
お金の余裕をもって報道の取材や資料集めもできる。
そういう意味では、今後さらに強くなる可能性は
ありますね。なーんて政治的な発言を……。
小牧 渡邊さん、最近、仕事がNHKシフトだから。(笑)
糸井 金銭的に余裕をもって好きなことができる
NHKのようなところもあれば、
貧乏だけど、企画者が自由な発想で番組づくりができる
スカイパーフェクTVのようなところもある。
渡邊 そういう意味では、これからのテレビは啓蒙と
共感がますます分かれていくという図式もある
という感じですね。
糸井 腕時計とそっくりですよ。
渡邊 はぁ、そうですか。
糸井 200万、300万する時計と、
500円の時計とがあるじゃないですか。
渡邊 なるほど。昔、腕時計というと、
誰でも1個しかもっていなかった時は、
その時計に、ある種の高級感と、ある種の使いやすさと
両方なければいけなかった。
いくつも持てるくらい豊かになったら、すごく高いのと、
安くて使いやすいのと分けてもってる、
みたいなことですね。
未来のテレビと確かに同じかもしれない。
小牧 車もそうだ。アメリカの場合ね。
アメリカは駐車場という制限がないから、
ユーティリティ・ミニバン系をファミリーユースに
もっておいて、またポルシェを買ってしまうみたいに
明らかに使い分けでいます。
日本の車も本当は、そういう時計の方向に
流れるべきなのに、駐車場という制限があるがために、
両方の機能をもつステーションワゴン
という形態が流行ったりね。
渡邊 「RVなのに高級」なんていう、わかんないのもある。
小牧 「静かな4WD」、何なんだよ、それ、みたいな(笑)。
日本の国土が広がらない限り、車は時計に向かわない。

(つづく)
【注】
地上波放送とは、地上の中継局などを経由して
電波を送る放送。
NHKや民放など、私たちが一般に
「テレビ放送」と呼んでいるものがこれ。
衛星放送とは、人工衛星を使って
電波を送受信して行なう放送のこと。
衛星放送の中で、放送を目的とした放送衛星
(Broadcasting Satellite)を使うのがBS放送。
通信を目的とした通信衛星
(Communication Satellite)を使うのがCS放送。
放送専用の衛星を使うBSは高画質なのに対し、
CSは本来、通信用であったため、電波が弱く、
画質は落ちるとされていたが、
技術の進歩で画質は向上して、
今や通常放送での差はない。
また多チャンネルで専門分化した番組を提供するのが
CSのセールスポイントとなっている。
CSの運営管理事業を行なう会社をプラットフォーム
といい、パーフェクTVとJスカイBが合併した
スカイパーフェクTVと、ディレクTVがある。

 

第3回 マニアな楽しみ

第4回 新しい幸福感を探して

1999-04-11-SUN

BACK
戻る