BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 モノに変えて味わう快感

第2回 お金は使って完成品になる

第3回 子供に財産は残すな

第4回
お金は寂しがり屋
糸井 邱さんは、これまでいくつくらい事業をなさったんですか?
「邱先生は、やらなかったことのほうが
 少ないんじゃないですか」
と人に言われたことがあります。
たとえば上海へ行って、
ある角から次の角まで歩くとするでしょ。
その間に10くらいの仕事を考えます。
考えるだけでやらなければ、
どのくらい金持ちかと思うんだけど、
余計なことをやるから、損をするんです。
糸井 最近、損をしたのは?
そうですねぇ。3年前は43億と26億、
それからおととしは20億円、損をしたかな。
もっとも私の場合は会社のお金ですけど。
中村 はぁ……。
糸井 拍手ですね、もう。(笑)

お金を持っているという感覚はぜんぜんないんだけど、
損をする元手があるというのが自分でも不思議でね。
僕はこれからもまた、いっぱい損をして、
死ぬまでに全部なくなってしまうかもしれませんよ。

糸井 楽しそうに聞こえるなぁ。
失敗すると、分析したりするんですか。
いや、しません。
“余計なことをしたな”と思うだけで。
糸井 サッパリしてますね。

こっちのポケットのものが
あっちにいったというくらいの感覚なんです。
それに後は振り返らない。
そうそう、去年の末から
また新しい仕事を7つか8つ始めました。

中村 すごいバイタリティですね。
糸井 邱さんの生きる目的というと。
そんなに偉大なことを考えてるわけじゃないですよ。
どうやったら退屈しないですむか─それだけです。
糸井 なんかわかります。
同じことをやってて、マンネリになったらイヤになる。
何年かにいっぺんは、ご破算にする必要があるんです。
中村 お金の扱いに関して、
縁起をかついだりすることはあるんですか。
あまりないですね。
ただ一度だけ、人から財布をもらいましてね。
その財布に替えたとたん、大損をしたことがあった。
その財布はすぐ人にあげましたよ、
損をするだけの金を持ってない人に。
中村 金を持ってない……、そりゃ、絶対に損はしませんね。
その人、
「先生からもらった財布、なかなかいいですよぉ」
って。(笑)
糸井 なにかと回してますね。
僕は昔、あるパーティーの席で邱さんから、
「糸井さん、土地買っておいたらどうですか」
と言われたことがあったんです。バブルの前ですが。
おや、そうでしたか。
糸井 「金はないし、だいいち、
 どういうところを買えばいいかわかんないです」
と僕が言ったら、邱さん、
「ムードのいいところを買いなさい」
とおっしゃった。
学校が近いだの何だのっていう不動産屋の軸じゃなく、
「ムードのいいところ」という言葉に、
僕はシビれましたね。
僕の住んでいるところを見てごらんなさい。
最初に事務所として買ったのは表参道の四つ角、
その次に買ったマンションが公園通り、
その次に建てた本社ビルは渋谷、
今、家があるのは代官山。
ムードのいいところを選んだら、
しばらくすると、そこがものすごく賑やかな街になるんです。
中村 ムードがいいというと?
たとえば表参道は、シャンゼリゼに似てると思った。
それであるときカミさんと表参道を車で走ってて、
信号が赤で止まったときにひょいと左を向いたら
「売家」の看板がある。
「ここはいい場所だね」
とカミさんと話して、
信号が青になるまえに素早く電話番号メモして、
その日のうちに売り主と交渉ですよ。
そんなふうに、「なんとなく、この場所は」というのがあるんです。
その表参道の建物は、
30年前に1600万円で買ったものなのね。
それを今は人に貸してるけど、
いちばん高いときは
敷金で1億8000万円もらってましたから。
今でも月に200万円の家賃もらってる。
糸井 お金って、あるところに集まるようになってますねえ。
お金は寂しがり屋で、
仲間がいるところに集まりたがるんですよ。
どうしてみなさんのところに
お金がなかなか行かないかというと、寂しいところだから。
糸井 バレてる、お金に(笑)。
じゃあ、お金に会えるようにしておくことも
大事なことで……。
そのためにも、お金は使って動かさなきゃしょうがないんです。
それから、お金は臆病者ですからね。
危ないと思うとすぐ逃げ出す。
浜辺のカニと同じで、
ワッと脅かしたら1匹もいなくなる。
それが最近みたいに株が高くなるぞっていうと、
またノソノソいっぱい出てくる。
糸井 急に投資家という人たちがいっぱい現れましたものねえ。
隠れてたんだ。
これから、ものすごい勢いで株式ブームになりますよ。
糸井 ちなみに、どういう株が狙い目なんでしょう。
世界中の金を上手に集める力のある会社の株が
高くなりますね。
あと、日本の証券会社の株。
みんな先入観で、金融関係は悪いと思ってるでしょ。
この3、4年、証券会社は赤字を続けたけど、
含み資産で赤字を消してしまってるの。
しかも税務署にはマイナスが残ってるから、
儲けても税金払わんでいいのよ。
糸井 はぁ、そうかそうか。
円高とは外国のお金が円を買っているということです。
だから株が上がるんです。
あとは通信業がすごい。
今、みんな道歩いてても電話かけてるけど、
夜はね、日本に出稼ぎに来ている
外国人や留学生がもっぱら電話をかけてて、
そのお金が一年に800億円ですよ。
でも日本の通信業はもう株価が高くなってるから、
僕が目を向けるのは中国。
中国には十億人もいますからね。
それが一斉に電話をかけたら……。
糸井 すごそうだ。
中村さん、こういうところに投資するっていうのはどう?
中村 いま、お話を聞いてて、
「そうか、チャイナテレコム!」とか思った(笑)。
心は動くんですけど、
私はその世界のセンスがないから無理ですね。
ちょっと儲けたら気が大きくなって調子にのり、
次には大火傷してる自分の姿が目に浮かびます。
今ですら、火ダルマなのに。(笑)

2001-03-09-FRI

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