BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回  第3次性徴が来た!?

第2回 不毛のスケベ論法

第3回 カツラという正装

糸井 安部譲二さんから聞いた話だけど、
安部さんのところにカツラのセールスの人が来て、
50何万円を32万円にするというので買ったんだって。
あの人そんなにイッてないでしょ?
糸井 でも買ったのよ。
それで請求書見たら、64万円になってる。
2倍じゃない。
糸井 それで「なんでだ」と聞いたら、
カツラは2つで1セットなんだって。
つまりメンテナスで……。
ああ、メンテナンスに出してるとき、替わりがいる。
それは意外な盲点だ。
糸井 毛点と言うんですか。(笑)
こりゃ、カツラメーカーは儲かりますな。
糸井 それでセールスの人、守秘義務はどうなってんだか、
「あの人もこの人もつけてますよ。わからないでしょ」
って言いながら薦めるそうです。
そのとき出た名前、安部さん、僕には、
「ああ、言いたい、言いたい」
って言いながら、結局、教えてくれなかった。(笑)
清水 セールスの人が名前、教えてくれるんですか?
私、カツラ買いたいんですって
電話しちゃおうかしら。(笑)
糸井 なかには、明らかにカツラだとわかる
“パンチョ”な人もいますが。
本人も知られているのを承知で、
なおかつカツラという場合もあるね。
糸井 ネクタイみたいなものかな。
うん。カツラをつけることで、
正装してるって気持ちになるのかもしれない。
糸井 カツラって、つけ始めるタイミングが難しいよね。
ある日突然フサフサも不自然だし。
清水 テレビ見ながら観察してると、
芸能人の方は「キテるな」というときは
まだ放っておくんですよ。
そして頭頂の地平線が見えてきたあたりで、
カツラでこう生やすみたいです。
結局、髪は顔の“額縁"なんでしょうね。
糸井 ひと口にハゲといってもグラデーションはあるし、
他人が
「私から見て、あなたはもうキテます」
とは言えない。
だから、キテるキテないは自分で判断するしかないけど、
それで思い出したのは、
南伸坊がビニ本の撮影に行ったときのことを
何かに書いててね。
お風呂場でランジェリー姿の女の子を
シャワーで濡らしながら、カメラマンが
「いいね、いいね」
と言いながら撮るとき、
女の子が
「乳首、透けてない?」
とか聞いても、
カメラマンは
「透けてない、透けてない」
って言うんだって。
で、全部見えてても、
「見えてない、見えてない」
って言うと、本人はまったくオッケーなんです。
そのマジックは頭が薄い人も同じで、
「まだイッテない、イッテない」
と自分で思えれば、人の目にはどうであれ、
自分はオッケーなんですよ。
清水 ハゲの場合、自分で見る位置、角度は決まってますし……。
糸井 鏡を見ていて、その範囲で
オッケーという角度と瞬間を見つけてさえいれば、
その美が全体を覆う。
清水 ある芸能人の方ですけど、
昔はもっと眉の位置が目に近かった気がするんです。
で、だんだん生え際が後退するにしたがって、
眉の位置が上がってるような……。
私、あれ、絶対に自分の意志で眉上げてると思います。
糸井 眉の位置を上げれば、これはハゲじゃない、
額なんだって言える。
清水 日本は“スダレ天国”ですよね。
バーコードとも言いますが。
あれ、自分で鏡を見たとき、
おでこの斜面が黒々と感じられるから、
実際よりハゲてないと思うみたいです。
俺の場合、隠す路線はまったく考えなかったなぁ。
糸井 自然派。
自然に、かつ見苦しくないようにしたいとは思ってた。
それで今から10年くらい前までは、
ある程度まだ毛があったから普通に横分けしてたのね。
ところが薄くなってくると、それがスダレになるんだよ。
でも社会的な目としてはそう見てくれない。
実際、いかにも必死で隠してるって感じで、
耳のあたりから強引に横分けしてるような人もいるからさ。
それで俺はオールバックに変えたんだ。
糸井 でも、毎日、同じ横分けという髪形を続けているうちに
スダレに行き着いたんだとすれば、
あれはあれで自然なんだという言い方もできます。
横分け派に言わせれば、
俺のほうが作為的だってことになるんだろうね。
だけど、いかにも隠してるっていうのは、
やっぱりイヤなのよ。
いっそ剃る方法もあるけど、防備がなくなる分だけ、
ぶつけたときに皮膚が切れやすい。
産毛程度でも、毛はあったほうが頭を守ってくれるからね。
それで今の形になった。
清水 関西テレビに
山本アナウンサーという面白い方がいらして、
ご自分が司会をしている番組の中で、
カツラをはじめてとったんです。
そのとき、私、ゲストで呼んでいただきまして。
知ってる、知ってる。
カミングアウトだって、彼はオーバーなこと言ってたね。
清水 番組の冒頭で、
「実は私はみなさまを欺いておりました」と。
もともと彼がカツラにしたのは、
6時のニュースに抜擢されたとき、
そろそろ薄くなり始めてて、ニュースを読むのに
ハゲだったら視聴者に信用してもらえないと
考えたからなんだそうです。
そんなものかなぁ?と、私、思ったんですけど。
いや、そうなんだよ。
世の中のやつはハゲの言うことを信用しないというのが
俺の昔からの持論でね。
俺と筑紫哲也が並んで、
同じテーマで同じことを話しても、
みんなぜったい筑紫哲也の言うことのほうを
聞くと思うね。
だからハゲは人生の不条理だって言うのよ。
糸井 モテるモテない以上の大問題だ。
大問題ですよ、言論人にとっては。
大統領選でニクソンはケネディに
顔で負けたというのは有名な話だけど、
最後は色男のほうが競り勝つとかさ、
心理学の面からもビジュアルって大きい。
糸井 でも契約書にハンコ押すときなんか、
ハゲのほうがよさそうだけど。
町内のまとめ役とか。
嫁姑の争いで、ハゲの大家さんが
「まあまあ、そこは」と出ていくみたいな(笑)。
異性として見ない場面では、ハゲもいいんだけどね。
糸井 僕は、もし自分がハゲたらどうするかって
考えることがあるの。
あんたはハゲないよ。
糸井 でも心の問題として考えるのよ!
で、俺なら、「ヅラにします」と発表してから、
かぶるなと思った。
で、バンバン替える。
赤毛とか。
外してるところをどうしても見たい人がいれば、
「あなただけ特別に」って
サービスで外して見せてね(笑)。
そのときは和服を着るとか。
刺青なんか入れてもいいね。
そのくらい表現しちゃったほうが面白い。
清水 カツラをとってくれたとき、
「私だけには見せてくれたのね」
っていう喜びもあります。
女の側としてはね。
糸井 自分がヅラだったら、
誰かに打ち明けたいっていう気分はあると思う。
ずーっと隠し通してるのも、大変だし。
清水 私はハゲの本出してるくらいですから、
ハゲさんとハゲの話するのはまったく平気で、
そうするとみなさん、
すごくいろいろ話してくださるんです。
糸井 解き放たれる喜び。
清水さんは聖母のような……。
糸井 その方面の方にモテるでしょ。
清水 禿頭の講演なんかやると、
ハゲさんがダーッとたくさん来てくださって、
すごく嬉しい。
糸井 どっかの党から国会議員に立候補するといいですよ。
清水 ハゲ党?
光る明るい頭の党で「こうめいとう」とか。(笑)
清水 そういえば、ハゲについて、
「光る」とか「明るい」という表現を使うの、
日本だけみたいです。
糸井 「ピッカリくん」とか言わないんだ。
でもさ、俺、自分なりに考えてみて、
恥ずかしいのはハゲてること自体じゃないの。
ハゲを「恥じてる」ことがいちばん恥ずかしいんだよ。
隠したがるのは、体面といったものを
常に自分は意識して生きてる
情けない人間だってことだもの。
糸井 体面のところで、カッコ「女への」って入れてほしい。
もちろんそうだよ。
女への体面。
こんなにも女を気にしてるのか、
ってことが恥ずかしいわけでね。
糸井 でも、「モテたい」というのは大きなテーマだね。
清水 ハゲがなぜ重要で深刻な問題かというと、そこです。
もちろん素敵なハゲさんもいるけど、
どうしても「モテない」につながってますし。
だから自分でハゲそうだと思っている人は、
ハゲる前に結婚しなきゃいけない。
結婚の締切が設定されてるのは、女の人とハゲさんです。
実際にハゲさんたちの話を聞いてみると、
結婚年齢は早いという印象ですねぇ。
それでものすごく誤解されてて、
またイヤなんだけど……。
俺はたまたま独身じゃない?
糸井 あなたは世捨て人だもん。
前にテレビ局の連中とメシ食ってて、
女がどうのこうのという話になったとき、
一人がいきなり俺に向かって、
「女の人ってそんなにハゲを気にしてませんよ」
って言うんだよ。
俺、まだなんにも言ってないのにさ(笑)。
まるで俺が、ハゲを気にして
結婚しないみたいに聞こえるじゃない。
糸井 失礼だねぇ。
励ましだとしても、ゲーハーだから
独身と邪推されるのはイヤなんだよ。
それから俺、若い頃から帽子が好きだったの。
明治時代の人はよく帽子をかぶってたけど、
あれ、大人にならないと似合わないんだよ。
だから俺も若い頃はあまりかぶらなかった。
で、そろそろ似合うトシになったからというのでかぶると、
ハゲを隠すためじゃないかと思われる。
糸井 結局、一つ大きなシンボルがあると、
すべてのことがその軸に一本化されちゃうんですよ。
その人の行動様式、ポリシーを見るときに、
すべてそれと結びつけて語られるのはかなわん。
冤罪みたいなもんだ。
糸井 ただ、人を貶めるいちばん手軽な方法がそれなのよ。
清水 以前、『おじさん改造講座』で、
「陰でハゲさんのことを
 『あのハゲ』と読んだことがありますか」
って質問をしたことがありましてね。
その回答が、
 たまに呼ぶ=48パーセント、
 呼んだことはない=25パーセント、
 いつも呼んでいる=15パーセント。
意外と少ないね。
さっきの糸井説に反するようだけど、一本化されてない。
糸井 社内で身近に接してたり、付き合いが長かったり、
そうじゃない要素もいっぱいわかってるからね。
ところが無名の大衆の前にさらされると、
「あのハゲ」になる。
亡くなったディック・ミネも、
いまだに「あの巨根の」だもの。
だけどハゲって、個人の努力じゃ
いかんともしがたいところがあるからさ。
清水 インポの問題とすごく似てる。
社会的な偏見はすごくあるのに、
だからといって死ぬわけじゃないから、
薬に保険も適用されないし。
そういえばバイアグラとほぼ同時期に、
毛を生やす薬でミノキシジルっていうのを使った
「リアップ」が出たじゃない。
俺、試したんだけど……。
糸井 試しましたか。
隠すのはヤだけど、あるならあれ−−ってことなんだ。
生えるべく努力は普通にしてるの。
昔はマッサージもしたしね。
ただ、「リアップ」は俺にはぜんぜん効果なかった。
いちばん効いたのは、一時期、
話題になった中国の「101」。
だけど日本じゃ劇薬指定になるくらい
女性ホルモンが入ってて、
使ううちにだんだんオッパイが出てくる
って言われてやめたけど。
糸井 頭の形がいい人がハゲるという説がありますね。
清水 私は、ひしゃげた頭のハゲさんって見たことないです。
それは多分、ひしゃげて頭の面積が少ない人は、
血の循環かなんかがいいから
ハゲないってことじゃないかな。
友だちの皮膚科の医者が言うには、髪の毛を引っ張って、
そのまま頭皮がグニョッって上がるやつは
ハゲないんだって。
糸井 カチカチはダメなんだ。
俺なんか、進行するにしたがって、
カチカチになるのが自分でもわかったね。

第4回 「すてきなおじさま」を探して

2000-10-14-SAT

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