藤井亮の豪勢なアイディア。 藤井亮の豪勢なアイディア。
「石田三成CM」や「ミッツ・カールくん」など、
一度観たら頭から離れないアニメーションを
たくさん手がけている映像作家の藤井亮さん。
広告の世界から飛び出した藤井さんに、
糸井重里が映像のお仕事をお願いしました。

藤子・F・不二雄ミュージアムだけで観られる
短編映像『セイカイはのび太?』が上映中です。

糸井と藤井さんが作る『ドラえもん』の世界には
藤子先生を尊敬する気持ちが込められていて、
ふしぎとおもしろが混じり合っていました。

この映像がどうやって生まれたのか、
藤井さんの人となりとともに紹介します。

担当は「ほぼ日」の平野です。
(4)スネ夫のいとこに憧れる。
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──
藤井さんが作るアニメーションは
笑っちゃうような作風ばかりですが、
ベースに「オレはこれを表現したい!」
というものはあるのでしょうか。
藤井
いや、表現したいものはないです。
そのときそのときで、作ってみたいものとか、
やってみたいこととかはあるかな。
たとえば去年の夏に作ったCMで、
「マッハバイト」っていう
アルバイトの求人サイトがあって。
──
あっ、ネットで観てました。
トラックが走るCM。
藤井
自分が独立したばっかりだったので、
ちょっとまわりに気を使い過ぎてるなって
思っていたんです。
──
はい、はい。
藤井
で、なんか景気良く爆破したいなって。
それでトラックをドカーンって
爆発させる展開にもっていけないかなって。
──
気を使いすぎて‥‥、
爆破? えっ?
藤井
爆破。
──
アドトラックを雪山に行かせたり、
宇宙に行かせたりして?
藤井
で、最後はとりあえず爆破させたい。
──
とりあえず、爆破‥‥。
爆破のシーンはきっと、
少年時代に見ていたであろう
特撮ヒーローの影響ですよね。
藤井
たぶんそうだと思います。
ぼくのやってみたいことって結局、
最先端のテクノロジーを使うような
ものじゃないんですよね。
──
自分が子どもだった頃のテクノロジーなら、
何十年が経過したいまなら
相当使いやすくなってますよね。
藤井
昔のテクノロジーだから、
当時の雰囲気がある程度簡単にできるんです。
ぼく、『ドラえもん』に出てくる
スネ夫のいとこがやっているようなことが
すごい羨ましかったんですよ。
スネ夫がジオラマを作る話がすごい好きで、
ぼくが今やっていることは、
スネ夫のいとことほとんど一緒。
子どもの頃に憧れていたことを
大人の財力で実現させているようなものです。
──
子どものときから
なにかを作ったり、絵を描いたりして
友だちをたのしませていたんですか。
藤井
いつも授業中に先生が出てくる
変な漫画を描いて回していって、
笑わしたら勝ちみたいな遊びをしてましたね。
友だちが笑ったら「よし、やった!」って。
絵はずっと描いてました。
落書きだとか、パラパラ漫画だとか、絵しりとりとか
いわゆる子どもが遊びで描くような絵を、
ずっと描いていましたね。
──
高校を出て美大に進むわけですが、
そこからの進路は芸術や漫画といった
アーティストの方向ではなく、
広告っていう商業のほうに行きましたよね。
藤井
そもそも、自分がアーティストになれる気が
まったくしていなかったんです。
高校まではマジメに進学校へ通っていたんですけど、
入学した瞬間に下から10番目になっちゃいました。
こんな愛知県の片田舎の高校で
自分より勉強できるやつが上に200人いると思うと、
もう勉強で勝負するの
無理なんじゃないかなっていう気がしてきて。
そこから、消去法みたいに進路を考えて、
落書きレベルでも絵は好きで描いていたので、
絵だったらどうにかなるのかなと思ったんです。
かといって、自分が作家とか
ものを表現する人間になれると思っていなくて、
デザイン科だったら、
どうにか仕事に就けるんじゃないかなっていう、
逃げの気持ちで選んでしまいました。
──
作家にはならないと思っていたものの、
今は映像作家として活動されていますよね。
藤井
作家‥‥、ですよねえ。
いちおう名刺に書いてはいるんですけど、
作家かどうかは、まったく自信がないんです。
でも、会社から独立した今の感覚は、
大学に戻った感じでたのしいですね。
友だちと2、3人で作っているみたいな感じに
すごく戻っている気がします。
写真
──
美大生の頃から映像は作っていたんですか。
藤井
大学のころに受けた映像基礎っていう授業で
映像を作ったことがあるんですけど、
そこでワッとウケたんです。
五人一組で映像を作る課題があって、
その映像を講堂でみんなで見るんです。
ぼくはデザイン科だったので、
そこで初めて映像を作ったんですけど、
細かい小ネタをめちゃくちゃ入れたらドッとウケて。
刑事ドラマかと思ったら、
実は缶けりをしていたっていう
全然しょうもない内容なんですけどね。
ウケた瞬間に「うわっ、たのしい」と思って、
そこからズルズルと映像を続けています。
絵を描くのもたのしかったんですけど、
絵って、ウケることはあまりないですから。
──
\ドッ!/ とはなりませんよね。
藤井
当時もウケようと思って
ふざけた絵も描いていたんですけど、
なかなかウケることなく‥‥。
──
武蔵野美術大学を経て
電通に入社しているわけですが、
電通時代の肩書きは、
CMプランナーになるんですか。
藤井
ぼくは美大卒なので、
アートディレクターとして採用されました。
はじめから映像もやりたかったんですけど、
ずっと、ポスターとか作ってました。
ちょっとずつ自分のやらせてもらえる幅を
ジワジワと広げていって、
ちょっとでいいからCMをやらせてくれ、
という感じでポスターも映像も作っていました。
写真
──
アートディレクターではあるけれど、
映像の企画もしていたんですね。
藤井
はじめは「CMやりたい」と言っても、
CMの最後に入る商品カットの
レイアウトぐらいしか
やらせてもらえませんでした。
静止画に商品が入って、
「新発売!」とか文字を入れて。
ああ、自分がこのCMを考えたら
もっとおもしろくできるのになって思いながら、
ずっとその作業をやっていました。
──
ということは、
藤井さんがCMの企画を
メインでできるようになったのって
わりと経験を積んでからのことなんですか。
藤井
ジワジワと企画を
やらせてもらえるようになってから
CMプランナーの先輩について勉強して、
「一人でやっていいよ」って
言われるようになったのは、
ようやく滋賀県のCMぐらいから。
──
えっ、石田三成ですか。
ここ数年の間じゃないですか。
藤井
ずっと先輩の元についていたから、
下積みが長いんですよ。
関西電通の文化なのかな、
CMに関しては40歳ぐらいでやっと
ひとり立ちさせてもらえるぐらい。
──
はあー、そういう感じだったんですね。
最近でこそネットで動画を見ることが
当たり前になりましたけど、
10年ぐらい前の広告会社だと、
扱いが違ったんじゃないですか。
藤井
ウェブ動画って見向きもされなくて、
テレビCMは触らせてもらえないのに、
ウェブなら自分でやっていいよって言われて、
その隙間に力を入れていました。
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──
ウェブにあったんですね。
藤井さんの活躍できる場所が。
藤井
チェックが入らなくて、
自分が自由にできる場所でした。
ウェブで変なものをいろいろ作っていましたが、
広告賞を穫るようなメインストリームじゃないんで、
「なんか変なもん作ってんな、こいつ」
ぐらいにしか会社でも評価されなくて、
マス広告に比べたらウェブ広告はオマケ扱い。
その当時「100万回再生いきました!」
とか言っても、誰も褒めてくれないんですよ。
むしろ場合によってはニコニコ動画とかで
すこしでも悪いコメントが入ると、
「危険だから消せ」みたいな感じでした。
──
当時はまだちょっと、
ウェブ動画というものが
一般的ではありませんでしたが、
時代は変わりましたね。
藤井
当時のぼくは
日陰者のウェブ動画制作者でしたから(笑)。
CMを作りながら隙あらばウェブ動画を作って、
当時2ちゃんねるで話題になってるのを見て
ほくそ笑むという感じでした。
でも、ビックリするぐらい変わりましたね。
すごく緩やかに変わっているから、
全然気づいていなかったんですけど、
自分でいま話していて、
「あ、そんな変わってたんだ」
とビックリしました。
──
「石田三成」が爆発的にヒットをして、
この作者は他にどんな映像を
作っている人なんだろうとことで、
過去の動画も広がっていましたよね。
藤井
そうですね。
そこからまた仕事も増えたりしましたし。
その頃からウェブ動画に対する
世間的な見え方も変わってきたように思います。
(つづきます)
2020-09-06-SUN
『セイカイはのび太?』は、
藤子・F・不二雄ミュージアムの
Fシアターにて上映中!
糸井重里がプロデュースし、
藤井亮さんが監督・企画・アニメーションを手がけた
オリジナル短編映像『セイカイはのび太?』を、
藤子・F・不二雄ミュージアムの
Fシアターにて上映しています。

藤子先生を尊敬する気持ちと、
たっぷりのアイディアを詰め込んだ4分間の映像を
200インチのスクリーンで堪能できます。
落語家の春風亭昇太さんによる
コミカルな語り口もどうぞおたのしみに。

ひみつ道具「セイ貝」から出てくるのは誰かな?
まんがのコマ読みに合わせた映像の動きにも注目です。



この映像のプロデューサー、
糸井重里のコメント
藤子・F・不二雄ミュージアムを訪れて、
最初に椅子に座る場所が「Fシアター」でしょう。

そこで、いったい何が見せられるのか?
こんなにワクワクドキドキする難問は、
ちょっとないですよね?
「ふつうのふりして、ふつうじゃない?」
そんな世界をお見せしますよ。



語りをつとめた
春風亭昇太さんのコメント
「これはそれぞれの役の声優さんに頼めば
いいんじゃないですか?」
って言ったんですよ…でもそうじゃないそうです。

頼まれたのは一つ
「昇太さんが漫画読んでいる時に、
頭の中に浮かんでいる声の感じで読んで下さい」
でした。
つまりこれはアフレコではないんです。

僕はあくまでもガイドみたいなもので、
皆さんが漫画読んでたあの頃を想像しながら見て下さい。
これは、皆さんの頭の中で完成させる作品です。



試写会で映像をご覧になった
吉本ばななさんのコメント
観てるあいだ、
ずーっとニコニコして幸せでした。
きっと創るのに
膨大な時間かかったんだろうなあ。

ただただ感謝です!





藤子・F・不二雄ミュージアムでは
「ドラえもん50周年展」を開催中!
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50周年を記念した展示を
川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムで開催中。

1階の展示室では、
特別展示「藤子・F・不二雄とドラえもん」。
※2021年1月31日まで(予定)

50年の歩みを貴重な原画と共にご紹介しています。

そして2階の展示室Ⅱでは、
『ドラえもん』の「生活ギャグ」に焦点を当てた、
「ドラえもん50周年展第2期後期 
ゲラゲラ笑える話/ゾ~ッとするこわい話」を開催。
※2020年11月9日まで

子どもの目線を大切にした藤子・F・不二雄先生の描くお話は、
時を経た今でも多くのファンに愛されています。
はらっぱにシアター、カフェやショップ、どこでも
『ドラえもん』はじめ藤子・F・不二雄先生の
キャラクターに会えますよ。

ミュージアムは現在、完全日時指定入館制なので、
混み合うことなくゆっくりとご覧いただけます。



9月2日よりミュージアムショップ限定の
ほぼ日手帳weeksも販売中!