ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。


2010-03-30-TUE

バロテッリと、インテルのティフォーゾたち。

ティフォーゾという単語は、
「ティーフォ」からきています。
人命をも脅かす熱病チフスのイタリア語であり、
「熱狂的ひいき」という意味もあります。
そう、ティフォーゾの「ティーフォ」は、
愛情の、ある特殊な形態をあらわします。
なぜかは良くわからないまま、
ひとつのチームをとことん愛するという。

ティフォーゾたちは、婚約者や恋人には、
時には心変わりすることがあったとしても、
熱狂的に支援するチームを変えることは
絶対にありません。
ティーフォとは揺るぎない感情の絆であり、
どのような裏切りも受け付けないのです、

では、もし裏切りに遇ったなら?
‥‥愛情は、果てしない憎しみに姿を変えます。

騒ぎの中心は19歳のバロテッリ。

franco

まさにインテルのティフォーゾたちが、
今、憎しみに変化した愛情を、
彼らの最新のアイドルに抱いています。
イタリアサッカー界で誰よりも才能ある、
19歳のマリオ・バロテッリ選手に。

インテルのモウリーニョ監督とバロテッリは、
お互いに反感を持っており、
そのことを隠しもしませんが、
このアタッカーが先日ロンドンで
インテルを勝利させた時に、
すこしは収まったかに見えました。

franco

バロテッリは17歳でレギュラー選手になり、
2年前にインテルが勝ち取ったスクデットには、
彼も大いに貢献しました。
しかし、モウリーニョがインテルに来てからというもの、
バロテッリは相変わらず良いプレイは見せますが、
チームの仲間もいやがるような態度を
とるようになりました。
チームメイトや監督と、
しょっちゅう言い争うのはもちろん、
際だったプレイをするためには
ハードに訓練しなけらばならないと、
彼に忠告しようとする人間に対しては、
ひどく反抗します。
それでも、10日ほど前まで、
彼がテレビ出演するまでは、
すべてを許されて来ました。
しかしそのテレビ出演がいけませんでした。
ティフォーゾたち全員を怒らせ、
彼らの愛情を憎しみに変え、
もう絶対に許さないと言わせるほどのことが
起きたのです。

彼が登場したのは、Striscia la notizia
「ニュースをこすれ(ひきずれ)」という、
有名人たちを皮肉たっぷりに挑発することで
イタリアでは高視聴率をとっている番組の一つです。
テレビキャスターが、
バロテッリが子どものころから
ACミランのティフォーゾであることを
話題にしながら彼に近づき、
ロンドンでチェルシーに勝ったのは
モウリーニョ監督だねと、
冗談めかして彼を挑発しました。

バロテッリは
「モウリーニョだって? 
 ロンドンで勝利したのは
 モウリーニョじゃなくてインテルだ」
と答えました。

名実ともに正しい答えでしたが、さらにその後、
そのキャスターはバロテッリに、
インテルのティフォーゾたちが最も憎む
ACミランのユニフォームを着るようにと、
うながしたのです。

franco

これらの映像はイタリア中で見られており、
幹部から選手やティフォーゾに至るまでの
インテル側の荒々しい反発を、
ひきおこしました。

19歳のバロテッリは
たぶん単純にふざけたつもりだったのでしょう。
そんなに事を大きくするつもりはなかったでしょう。
けれども実際には、彼の「冗談」は、
サッカーファンの会話にかぎらず、
イタリア中の話題の中心になりました。

franco

モウリーニョは彼を使わない。

今、選挙キャンペーンの真っただ中にいる、
イタリア首相でありACミラン会長の
シルヴィオ・ベルルスコーニまでもが、
テレビでこうコメントしました。
「バロテッリは偉大な選手ですね。
 感じが良い人だし、
 ミラニスタの顔をしているね」。

モウリーニョ監督は、
あいかわらず彼を出場させません。
そして先週水曜日、
サン・シーロ競技場で行われた
対リヴォルノ戦では、
ティフォーゾたちがバロテッリに対し、
「インテルは彼を売っぱらうべきだ、
 どこでもいい、
 もちろんACミラン以外に」と書かれた
長い長い横断幕をかかげました。

franco

バロテッリはモラッティ会長のお気に入りですが、
モウリーニョが彼をプレイさせないことや、
ティフォーゾたちが彼をもう見たくもないことを思えば、
会長といえども何もできません。

ひとつの遊び、ひとつの冗談から、
今シーズンの終わりには
センセーショナルな別離が
生まれることになりそうです。

バロテッリは、
ほんとうに軽く思ってやったことだと思いますよ。
まさか、バロテッリの代理人が、
インテルにいるよりも確実に稼げる外国に
彼を売るために仕組んだ、
なんてことは、ないと思います。
もしそうであれば、
すべては愛のためでも
憎しみのためでもなく、
お金のためということになりますね。

franco


訳者のひとこと

長い横断幕に書かれていることを
直訳すると
  かつて無いほど離れ難く強く団結した
  更衣室(チーム)‥‥
  不和の種と災いを持ち込む人間は
  遠ざけるより他にするべきことは無い‥‥
  前進せよ,FCインテル

バロテッリの顔写真にかぶせて書いてあるのは
  厳しいマテラッツィの場合
  <マリオ、規律を尊重しろ>
  バロテッリが逃げる
    アーセナルは彼が欲しいと主張、 
    この選手は1月にはもう去りたがっている。
    提示額は2千万ユーロ。
    そこ(アーセナル)には
    ファブレガスも居る。
  インテルはもちこたえるか?

いやはや、この世には、
愛でも憎しみでもお金でも
割り切れないことが、
いっぱいのようです。

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



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