フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

お金が幸せにするのは、
選手かチームかティフォーゾか。



「金銭は人生のすべてではない」と、
ぼくは、くり返し書いてきましたが、
もしかしたら人生以上の何か、かもしれません。
ことイタリアサッカーにおいては。

イタリアサッカーのチームの多くが
借金にまみれています。
昨年のドイツW杯で世界チャンピオンになった選手たちが、
可能であれば、すぐにイタリアを出て行きます。

昨年はアズーリのキャプテンである
カンナヴァーロがレアル・マドリードに、
ザンブロッタはバルセロナに、
それぞれ移って行きました。
そして1年後の今年、
トーニがバイエルン・ミュンヘンに、
W杯の勝利PKを決めたグロッソは
インテルからリヨンに、譲渡されました。

彼らは、幾世紀か前に
パンを求めてアメリカへ渡った移民とは異なり、
粗末な厚紙のカバンを下げて
イタリアから出て行くのではありません。
今日フランスへ、ドイツへ、スペインへ移る選手たちは、
ルイ・ヴィトンのバッグを持って出かけます。
そのバッグを、豪勢を極めるお金で満たすために‥‥。

イタリア国内の金銭騒動。


しかし、国内に残った者が惨めなわけではありません。
イタリアサッカーは借金にまみれていますが、
必要とあれば国外と同じか、
いや、メディア王ベルルスコーニのACミランや
石油王モラッティのインテルの
大盤振るまいを見るかぎりでは、
それ以上の金銭が飛び交っています。

最新の話題沸騰の例としては、
カカの移籍騒ぎがあります。
綺麗な顔をしたブラジル人のカカは、
サン・パオロの良家で育った
教養のある洗練された選手ですが、
金銭のことがからめば、
そのエレガンスと、クラスの高さが
彼の契約金を引き上げる要素となります。
まさにフィールド上とおなじです。
対戦相手を超えるためには、
遠慮なんかしていられません。
カカがACミランに来てから4年めに入ります。
ここでまた4度めの報酬の引き上げがなされるでしょう。

毎年夏に各地でくり返し催される
非凡な巨匠による音楽祭のように、
サッカー界でも同じ「催し」がくり返されます。
毎年レアルのお偉いさんたちが
彼の両親の家への招待されるのですが、
新聞各紙はこれを書きたて、
テレビ各局はレアル会長の発言を録画しはじめます。
レアル会長いわく
「カカのためなら6000万、
 いや8000万、
 いや1億ユーロ、用意する」。
 
ACミランのメディア王ベルルスコーニは、
それくらいでは弱気になりません。
それらの報道に
「カカは動かない、ずっとACミランに残るだろう」と
上書きさせます。

ご本人のカカは無言のままです。
ぼくには関係ないねと言わんばかりに、
平然とバカンスをつづけるだけです。

揺れ動くティフォーゾたち。


その一方で揺れ動くのはACミランのティフォーゾたちです。
ほんとうはカカ自身が、その桁外れぶりを買ってくれと
バルセロナに頼んでいるのではないか、
彼らの偉大なスターが行ってしまうのではないかと、
恐れ騒ぐのです。
だから、ほら、安心しなさいとばかりに、
毎年規則正しく
ベルルスコーニのインタビューが出されるのです。
「カカは1年、契約を伸ばす。
 2011年までの契約を2012年までにする」と。

いつも5年先までの契約というのは、
イタリアサッカーの規則では
5年以上の契約が許されていないからです。

そして今回も、契約金がアップされるでしょう。
彼がACミランに来た最初の契約金は170万ユーロでした。
2年めに250万ユーロに上がり、3年めに500万、
そして今回は700万ユーロを超えると予想されます。

それで契約が成立すれば、
ACミランのティフォーゾたちは満足です。
レアル・マドリードのティフォーゾたちは‥‥。
また1年後に、希望を抱いて話を再開するでしょう。
この話は、また12ヵ月後に、きっと蒸し返されます。

その時には、レアルは天文学的な数字を
提示をしてくるかもしれません。
でもACミランは更に契約金を増やしながら、
またもやカカの契約を引き延ばすことでしょう。

金銭はたしかに人生の全てではありませんが、
こうして様々な人生を動かす事をおもえば、
それ以上の何かかもしれないという気がしてくるのです。

さて、ぼくはバカンスに発ちます。
あ、でも記事は書きますよ。
今年は、ウンブリア、トスカーナ、シチリア、
カラブリアなど、イタリア中部から南部を歩きます。

来週からのぼくの記事は、イタリア各地の
美しい景色や由緒正しい伝統料理の味わい方など、
「正しいイタリアの歩き方」を特集します。

イタリアは、かつてはバラバラな都市国家でしたから、
各地方独特な文化に満ちあふれています。
観光ガイド本のありきたりなコースではなく、
ぼくの目で、いろいろ見付けてご報告するつもりです。

みなさんのお気に召すと嬉しいですが‥‥!


訳者のひとこと
1ヵ月のバカンスも、
かつてはイタリアでは当たり前でした。
昨今では、不況がつづいていることもあり、
長期や遠出のバカンスを控える人も
増えているようです。

フランコさんのバカンスリポート、
楽しみですね。
昨年のシチリア報告から、
もう1年が過ぎたというのも驚きですが。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2007-07-10-TUE

BACK
戻る