フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

真夏のシチリアから。


真っ白、と言っていいほどの砂浜、
そして海の色は、まるでその中に緑と青の
ぜんぶの種類がみつかりそうなほどです。
朝には淡いブルーの空は、
真昼が近付くにつれて太陽に照らされ、
目も眩むほどの輝きに変化していきます。

昼にはアフリカの方から
熱い風が吹いて来ます。
それも夕方になれば、そよ風となり、
夏の太陽にさらされて火照った身体に
涼しさをプレゼントしてくれます。

みなさん、ぼくはヴァカンスでシチリアに来ています。



シチリアは、イタリアで最も古い文化のある島です。
その州都であるパレルモは三千年以上も前に、
商人と船乗りの民である
洗練されたフェニキア人によって建設され、
その後はギリシャ人に、
そしてローマ人に受け継がれ、
さらにアラビア人やノルマン人に征服されるという
激動の歴史をたどりました。







シチリアはマフィアの映画で有名ですね。
その映画の中でも有名な「ゴッドファーザー」で
マーロン・ブランドが演じたマフィアの親分の名前は、
自分の生まれた街「コルレオーネ」を名字にした、
ドン・ヴィート・コルレオーネでした。
でもシチリアにはマフィア以上に有名になるべき事が、
たくさんあります。
なんといってもその文化の歴史は、
西欧世界では他に類を見ません。
その歴史に育まれた優しく寛大で美しい人びとや、
ゆたかな自然の香り、
マンマから娘たちに大切に受け継がれてきた
桁外れに素晴らしい食事があります。
そして日中の一刻一刻を、
これが最後の瞬間であるかのように過ごしたいと
願わずにはいられない気分にさせてくれる、
情熱的な太陽の輝き‥‥。

西欧世界のどこにもふたつとないこの土地の
こんなにも果てしない魅力に惹かれて、
ぼくは今年のヴァカンスを過ごしに
シチリアにやって来ました。

ぼくが滞在している
サン・ヴィート・ロ・カーポは、
シチリア西部の海沿いにある小さな町で、
ここはアフリカに最も近いポイントです。
この海の200km先は、もうチュニジアの海岸です。
漁業が盛んな街ですが、
ここで捕れる香り高い魚の中では、
日本人業者が最高の値段で買い求める
特別な種類のマグロが目を引きます。



インテルの獲ったスクデットにたいする
複雑な気持ち。


ぼくはサン・ヴィート・ロ・カーポの砂浜で、
インテルが公式にイタリアチャンピオンとして
スクデットを受け取ったことを知りました。
その時ぼくが抱いた印象は、
ぼくの40年以上の記者人生の中でも経験のない、
不思議なものでした。

イタリアサッカーでは、
チャンピオンが決まるのは毎年5月です。
スクデットを勝ち取ったチームの街では
大変に多くのティフォーゾたちが、
それはもう大騒ぎでこれを祝うのが常ですが、
今回は、だれも祝わなかったでしょう。
だって、ティフォーゾたちの多くも、
もうヴァカンスに出かけてしまったでしょうから。
しかも、前にも書きましたが、
最終成績でインテルを上回っていた2チームが
罰せられた結果として、
このスクデットがインテルに回ってきたのです。
イタリアチャンピオンだったはずのユーヴェは
セリエBに降格、
準優勝のACミランは30点の減点と、
来シーズンにはマイナス8点からのスタートです。
このサッカー裁判によって、
スクデットが正式にインテルに届けられたわけです。

サン・ヴィート・ロ・カーポの砂浜では、
そのニュースが公式なものになった時も、
だれも祝わいませんでした。
堪能すべき太陽があり、
海は誘い込むように待ち受けており、
忘れ難い夜も約束されています。

え? 夕食の話ですよ。
種類も豊富なら発想にも優れ、
素晴らしく色とりどりで美味しいシチリア料理が、
ぼくらを待っているのです!!
揚げたナスとオリーブの実を
ハーブやお酢で味付けした「カポナータ」あり、
イワシと和えたパスタあり、
「ブズィアータ」というシチリアのパスタには
イセエビがふんだんに盛り付けられ、
ボンゴレのスパゲッティもあります。



デザートはフルーツやチョコが刻み込んである
アイスクリームケーキ「カッサータ」、
筒状に巻いたパイの中に
チーズやチョコやクリームを詰めた「カンノーリ」、
これも有名なレモンやオレンジのジェラート、などなど、
美しい人生を愛する人なら、だれが、
これらに逆らえますか?

チャンピオンたちや論争や感動にあふれ、
ぼくらの頭の中でいちばん重要な地位にあるサッカーも、
ヴァカンスに──ぼくの場合は太陽と海と香りと味わいの
シチリアに、今ばかりはその座をゆずっている恰好です。
アズーリたちが世界チャンピオンに輝いてから、
まだ1ヵ月も過ぎていなくてもね。



訳者のひとこと
フランコさん、素敵なヴァカンスを
お過ごしのようです。

カンノーリ(1個ならカンノーロ)は、
それこそ「ゴッドファーザー、パート3」の
終わりも近い時間帯の
オペラ劇場シーンに登場します。
ドン・コルレオーネに敵対するマフィアのボスが、
コルレオーネの妹にもらったお菓子を食べながら
観劇中に死ぬ場面がありますよね。
そのお菓子こそが「カンノーリ」です。
もらう時に大きく映りますので
機会があったら見てみてくださいね。

翻訳/イラスト=酒井うらら

2006-08-01-TUE

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