世界をつくってくれたもの。祖父江慎さんの巻 世界をつくってくれたもの。祖父江慎さんの巻
同じ時代に生きているのがうれしくなるような人に
出会うことがあります。
そんな人たちの世界のおおもとは、
いったいどんなものでできているのでしょうか。
子ども時代から現在に至る足取りをうかがう
連載シリーズ第2弾にご登場くださるのは
グラフィックデザイナーの祖父江慎さんです。
祖父江さんは、どのような子ども時代をすごして、
すごいデザイン作品をうみつづける大人に
なったのでしょうか。
インタビューはほぼ日の菅野がつとめます。
祖父江慎さんのプロフィール
第4回
真夏の闘い。
写真
──
そこから、祖父江さんは
カエルの味方になったんですね。
祖父江
そこから、カエルを保護する役回りになりました。
──
現在、どのような活動を?
祖父江
たとえばですね、
カエルが困ったときに、
ぼくのところに来るようになりました。
──
カエルが? 
祖父江
まぁ、一例をご紹介しましょう。



夏の朝、玄関のドアを開けたら、
ギンギラギンになったアスファルトの道を、
一匹のヒキカエルが、
うちをめざして歩いてきたことがあります。
──
夏のアスファルトって、
フライパンみたいに熱くなりますよね? 
祖父江
そう。普通、避けますよね。
よく見たら、お尻から卵をざーっと
ぶらさげながら歩いていました。
つまり、卵を産む場所がなかったんです。
ヒキガエルの卵ってめっちゃ長いんですよ。
写真
──
まわりに卵を産めるような
水辺がなかったんでしょうか。
祖父江
卵を産む場所を探しながら産んじゃったんだね。
それで、困ってぼくのところに
助けを求めに来たんだろうなということが、
ピンとわかりました。
──
ああ、その部分では「体験」があるから
ピンとわかるんですね! 
祖父江
そう。
しかも、なじみのカエルだったんです。
近くの公園とか道ばたでよく会ってた。
──
あ、よく……よく、会ってた? 
祖父江
雨が降ったりすると、家の近くの道によくいました。
まあ正確におんなじ個体かどうか、
わかんないけども。
──
ああ、そうなんですね。
祖父江
よく知ってるカエルだったから、
卵をぶらさげている姿を見たとき、
「あそこの公園で産めばいいのに」と思いました。
その子とよく会う公園には池があったんです。



最初、おしりから長く卵をひきずってる
その姿を見たとき、
ぼくはもう死んでるだろうなと思いました。
でも、近づいたらまだ生きていました。
「よっしゃ!! まかせとけ! 
いいところに来たな! 
昔、ぼくが悪いことしたあのぜんぶの、
恩を返すべきときがいまこそやってきた!」
写真
──
ああ、すごい。
祖父江
そう言いながら卵を全部手でたぐり寄せて、
「早く行かなきゃ乾燥しちゃうぞ」
と走り出しました。
──
どこに行ったんですか?
祖父江
公園です。
いつもそのカエルと会ってた公園。
だけど、その公園にある池は、
水が抜かれていたんです。
──
ああ、そうなんですか。
祖父江
だから産む場所がなくて、
「ヘルプ・ミー!」といってうちに来たんです。
たぶん、公園の人たちは、
ボウフラが出るから水を抜いたんでしょう。
──
夏だし、そうですね。
祖父江
水のない乾いたコンクリートの池に
あわててそのカエルを置いて
「水を供給しなきゃ」と思いました。
バケツ?
いや、バケツだとたいへんすぎる。
──
池を埋めるには、きっと
何杯も何杯もかかりますね。
祖父江
そうやって考えてたら、
もうカラスが狙ってるの! 
ずーっとこっちを見てる。
写真
──
目ざといですね。
祖父江
とりあえずそのカエルを草で隠しました。
けど、カラスは頭がいいから、
そこにいたのを覚えたかもしれない。
焦ったぼくはまわりを見渡し、
池からちょっと離れたところに
公園の水道を見つけました。
「カラスに食われないように
そこでちゃんと待ってろ!」
とカエルに言い聞かせて、金物屋さんに走り、
ホースを買ってきました。
──
ホースを!
祖父江
なるべく長いホースを買いました。
それを使って池に水をはりました。
なんとか助かった。
そして翌日、大丈夫かどうか確認しに行くと、
また池の水が抜かれてた。
──
‥‥それは、いち個人が
勝手に公園の池に水をはっちゃったわけですから、
公園の対策とは真反対のことになりますよね。
祖父江
そうなんです。
昨日水をはったばかりだったから、
まだ池の底はところどころ湿ってて、助かりました。
でも、死んだ卵もいくつかあって、
「これはいけない!」と思い、
毎日ホースを持って、公園に通いました。
──
ちなみに祖父江さんはそのときすでに
デザイナーだったわけですよね。
祖父江
そうです、仕事してました。
写真
──
いったい誰がなんのために
毎日水を溜めるのか、
ものすごく不気味だったことでしょう。
祖父江
そしたら、ある日、
ホースをつないでた水道の
蛇口のひねるとこが、なくなってました。
──
うわぁ。はやく公園の方に相談しましょうよ!
祖父江
あの取っ手がないと、
中のギザギザのネジみたいなのしかなくて、
指がイテテテテとなって蛇口を回せないんです。
──
そうでしょうね。
祖父江
そこで、ぼくはもういちど
ホースを売っていた金物屋さんに行って
「水道の回すところだけ売ってませんか?」
「あるよー」
「ください」
──
この人なにやってんだって話ですね。
祖父江
その取っ手をつけて、水栓をひねって、
池に水を溜めました。
でも、取っ手をつけたままにしておくと
また抜かれちゃうから、
毎日マイ蛇口ひねりとマイホースを手に
公園に通いました。



でも、その闘いは、ある日終わりを迎えました。
──
公園の管理の方が夏休みをとったから?
祖父江
ブ・ブー。
卵がかえってオタマになったからです。
ヒキガエルの、ちっちゃくて黒い
オタマジャクシになって、
たくさんすいすい泳ぎだした。
そうしたら、水抜きはなくなりました。
──
ああ、公園の方も、なぜだか
理由がわかったんですね。
祖父江
そう。わかったの。
──
わけをはやく説明すればよかったのかもしれませんが、
闘いが終わってよかったです。
写真
(明日につづきます)
2019-03-18-MON
世界をつくってくれたもの。ヤマザキマリさんの巻