おさるアイコン ほぼ日の怪談

「微笑んで待つ人」

私が3年前に体験した不思議な話です。

会社帰りに小腹がすいたので
一人でコーヒーショップに立ち寄ったときのこと。
ショッピングモールの一角にあるそのお店は
ファーストフードによくあるタイプのレイアウトで、
入って突き当たりが注文を取るカウンター、
そして入り口の面と右側の2面がガラス張りで、
左側の面はベンチシートがある壁になっていました。

注文を終えて、私は右側(ガラス側)の奥から
二番目の席に座り、
頼んだものを食べつつ、ぼーっとしていたら、
ひとりきれいな感じの女の人が私の横に座りました。
私はカウンターを背にして
入り口に向かって座っています。
彼女も私と同じ向きに座りました。
そこまでは特に気にすることはなかったのです。
ずっと外を気にしている様子だったので、
なんとなく「待ち合わせかなぁ」と思いました。
しばらくして彼女がふいに立ち上がり、
手をふって入り口のほうに駆け寄ったのです。
「あぁ、誰かきたんだなぁ」と、
入り口の方に目を向けた時、
そこには誰もいませんでした。
彼女はたのしそうに頷いています。
「うわっ、ちょっとこの人だいじょうぶかな‥‥」
「あまりまきこまれたくないなぁ‥‥」
などなどと思っていたのです。

彼女はニコニコ満足げに席に戻ってきました。
右側はガラスなのですが、
彼女のいる部分だけ防火扉がついていて
そこだけ外が見えないようになっています。
するとその防火扉が「ガタガタガタ!!!」と
ものすごい音をたてて震えはじめました。
ノブもガチャガチャ回っています。
はじめは彼女がならしているのかと思ったのですが、
彼女は両手にサンドイッチをもって
静かに微笑んでいます。
「じゃぁ誰かいるの??友達??」
そんな人は一向に現れません。
ガラス張りなので外は丸見えなのです。
彼女はずっと笑顔でうなずいています。
「そうねそうね」という感じに。

びっくりして気味が悪くなった私は、
とにもかくにもここから出たいとおもい、
あわててかたずけて外に出たのですが、
やはり防火扉のところには誰もいませんでした。
あれはいったいなんだったのか、
いまだに分かりません。
彼女には私に見えないものが
見えていたのでしょうか。
私には何も見えませんでした。

でも確実に、扉のむこうには、誰かいたのです。
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