怪・その40

「ついて行ったら」


20年近く前、まだ実家に暮らしていた頃の話です。

その頃わたしは
ネガティブな気持ちでいることが
多かったせいなのか、
それとも多少霊感があるせいなのか、
いろいろなものを引き寄せてしまっていたようで、
毎晩のように
霊障に悩まされていました。

苦しくて目を覚ますと、
鬼婆のようなものが馬乗りになって
首を絞めていたり、
耳元で男の人に怒鳴られたりと、様々です。

その中でも一番怖かったのが、
夏の夕方にあった出来事でした。

時間は、6時前後だったと思います。
外はまだ明るくて、
窓を開けて気持ち良く
ベッドでうとうととしていました。

母が真下の台所で
夕飯の支度に野菜を刻むのが聞こえてきます。

と、突然、からだが動かなくなり、

あぁ金縛りだ、嫌な感じがするな、と思っていると、

窓のほうからスーッと、
古ぼけた茶色っぽい背広を着て、
銀縁の丸メガネに
短い髪を七三分けにした
男の人が入って来ました。

わたしの部屋は2階で、
ベランダなどもありません。

そのまま真っ直ぐわたしの枕元まで来て
ピタリと止まり、
わたしを静かに見下ろしながら

「ほら、行かなきゃ」

「行くよ」

と、繰り返し話しかけてくるのです。

わたしは動くことも、
声を出すことも出来ないながら、
階下の母に助けを求めようと
必死に
「お母さん!」
と声を振り絞り、
足を踏みならそうとしたりと、もがきました。

でも、声も音も出すことができません。

男の人は執拗に
わたしを連れて行こうとするのですが、
動かないわたしを見て
諦めたのか、
頭側のクローゼットの扉のほうへ、
来た時と同じようにスーッと消えて行きました。


でもあの時、わたしも何故か、

その人に

ついて行かなくてはいけないような

気持ちになりましたが、

ついて行ったら
どうなっていたのでしょうか‥‥。

(由美)

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2019-09-03-TUE