怪・その72

「自転車に乗った影」

それは11年前の冬の夜でした。

師走に待望の子供を授かりました。
その日は産後間もないこともあって、
家内はまだ産婦人科のクリニックに
入院をしていました。

いつものように
勤め先からの帰宅の途中で
クリニックに立ち寄り、
産まれたばかりの子供の顔を見て、
家内としばらく話をして、
午後7時過ぎに帰宅をしました。

当時、犬を飼っていたため、
日課となっている散歩は欠かせませんでした。
すでに日が落ちて、
歩いている人のほとんどいない暗い田舎の道を
愛犬と一緒に散歩をすることになりました。

しばらくブラブラと歩いていると、
前方から自転車に乗った男のシルエットが
フラフラとこっちに向かっていることに
気がつきました。

でもなぜか、
かなり近づいて来ているにもかかわらず
真っ黒な影のようで、
顔の輪郭や表情、
着ている服などまったく分かりません。

「ん....? 幽霊?」と思いながら、
すれ違う瞬間に

影男の顔の部分が突然発光し、
その顔がはっきりと
夜の闇に浮かび上がりました。

驚いて思わず
男の顔を反射的に見てしまったのですが、
顔には鼻も口もなく
15センチくらいの巨大な眼が
顔の中心部分にひとつあるだけです。

しかも、邪悪な感じのする視線を
こっちに向けているではありませんか。

あまりの怖さに
息が詰まりそうになり、
声になりません。

これはかなり危ないと思い、
急いで愛犬の紐を引っ張って、
ガクガクと震える足でその場から
無我夢中で逃げ出したのですが、

5秒くらい経ったところで
どうしても後ろが気になってしまい、

見てはいけないと思いつつも、

後ろを振り向くと、

自転車に乗った黒い影が、片足をついて、
振り返ってこちらを「じーっ」と見ていました。

「うわっ! こっちを見てる!」

自宅まで愛犬を抱え、猛ダッシュで帰りました。

(犬又)

こわいね!
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2018-09-05-WED